第14話(前編) やりたいこと:冒険者ギルドに加盟したい

 アリスたちに紹介された宿はそれなりの宿賃は取られるものの、かなり良い部屋を宛がってくれた。

 宛がわれたのは二部屋だ。

 俺とシロがシングル部屋を使い、二人用の部屋をミカとルーが使用する。

 部屋分けについては護衛しづらいとか、離れるのはいやだとか、色んな理由をつけてミカとルーがかなり強行に反対したが、この宿に大きな部屋は無いのだから仕方ないだろうと言って無理やり納得してもらった。

 正直、残念な気持ちもあるが、今はそんなことよりも優先しなくてはいけない事があった。

 それはシロの『テイム済み証明書』の調達だ。

 人に従う魔物であることを公的に証明するものがないと、害獣として処分されてしまうのがフォースデン世界の常識らしい。

 ノアが保証人になってくれたから何とか王都に入ることができたけど、このままって訳にもいかない。


『ご主人様、ボク、お腹空いたー』

「確かにそろそろ昼飯時だな。何か食べに行きたいけど……まずはシロの手続きをしよう」

『手続きって何するの?』

「冒険者ギルドでテイム済み証明書を貰うんだ。お昼ご飯はその後にしような」

『はーい!』




 宿で働く従業員に冒険者ギルドの場所を教えてもらい、俺たちは連れ立って目的地に向かった。

 その途中、頭に浮かんだ疑問をミカたちにぶつけてみた。


「冒険者ギルドってどんなところ?」

「商業ギルドとほとんど変わりませんね」

「でも商業ギルドと違って粗野なやつらが多い」

「冒険者って力を誇示する無粋なやからが多いですからねえ」

「そうなんだ。俺なんて見るからにひ弱だし、絡まれそうでいやだなぁ……」

「ご主人様はステータス的には世界最強レベルですから。どんな冒険者が襲いかかってこようともご主人様に傷一つつけることなんてできませんよ♪」

「それにルーたちが主様を守るから安心して」

「うん。そこは安心してる。だけど俺もちょっと鍛えたほうが良いかもな」


 いくら世界最強のステータスを持っているとはいえ、その力の使い方を理解していなければ意味がない。

 自分の身を守る。

 身近な人たちを守る。

 そのためには相手を黙らせる力の使い方を身に着けなくては。


「強くなる努力は必要。ルーが教えるよ?」

「ミカもミカも! ミカもお手伝いしますよ!」

「ああ。落ち着いたら二人に訓練をつけてもらうよ」

「是非♪」


 そんなことを話ながら歩いていると前方に冒険者ギルドの看板――剣と籠手――を掲げた建物が見えてきた。

 扉を潜ると商業ギルドと同じような間取りのあちこちに、むくつけき男たちがたむろしていた。

 室内奥には受付嬢が座る窓口があり、部屋の隅には魔物の素材を買い取るカウンターが設置されている。

 商業ギルドとの違いは併設された酒場の存在だ。

 広い室内の片隅にある調理場と、その周辺に適当に置かれた丸卓をむさ苦しい男たちが囲み、大声を上げながら酒盛りに興じていた。


「おお。これが冒険者ギルド」


 異世界系アニメや漫画などで良く見る定番の様子に思わず感動の声が溢れた。

 田舎者丸出しな俺の態度をあざけるように、飲酒中の冒険者たちから下卑た野次が飛んでくる。

 メイド姿の美少女を連れた男の来訪が目障りなのかもしれない。

 浴びせられる野次を無視して俺は一人の受付嬢に話しかけた。


「すみません。テイム済み証明書が欲しいんですけど」

「証明書、ですか? ええと……」

「この子です」


 後ろを付いてきていたシロを持ち上げて受付嬢に見せる。


「可愛いー♪ それにすごく綺麗な毛並みですね。こんなに綺麗なシルバーウルフは初めて見ましたよ」

(シルバーウルフってなに? シロってフェンリルじゃないの?)

(シルバーウルフは平原に住む野生の狼種のことですよ。シロがフェンリルと知られるのは得策ではないのでミカがステータスを偽装しておきました♪)

(なるほど。ありがとうミカ。助かるよ)

(いえいえです♪)

「ええ。綺麗な毛並みだったので思わずテイムしてしまって」

「こんなにもモフモフツヤツヤな毛並みですもんね。その気持ち、すっごく分かりますー! はぁ~……私もモフモフしたいなぁ♪」

「あー……良ければモフります?」


 抱えていたシロを差し出すと、受付嬢は嬉しそうに手を伸ばし――だが触れる前に手を引っ込めた。


「いえいえダメですダメです。私、今、お仕事中ですから! モフモフは捨てがたいですけど。捨てがたいんですけどぉぉぉ!」


 滂沱の涙を流しながらも自分の役割をこなそうとした受付嬢が、引き出しから書類らしきものを取り出すと俺に向けて掌を差し出してきた。


「では冒険者ギルドのギルドカードを見せて頂けますか?」

「それが実は……ギルドカードを持っていなくて。商業ギルドのカードは持っているんですけど」

「おや、商人さんでしたか。シルバーウルフをテイムできる実力をお持ちなのに商人とは珍しい方ですねー」

「ええ、まぁ。荒事は苦手でして」

「そうなんですねー。残念ながら冒険者ギルドの加盟者でなければテイム証明書は発行できない決まりなんですよ」

「え……じゃあどうすれば?」

「簡単です! 冒険者ギルドに加盟すれば良いんですよ! という訳で早速、冒険者ギルドに加盟しませんか? 今なら入会金は銀貨一枚で結構ですよ♪」


 そういうと加盟申請書とペンを俺の前に差し出してきた。


(なんでこの人、こんなにグイグイ来るんだ?)

(冒険者ギルドは常に強者を求めていますからね。シルバーウルフをテイムできる実力を持つ者を冒険者にできればギルドの質も上がりますから)

(シルバーウルフってそんなに強いの?)

(強さ的にはそれなりに、という感じでしょうか。RPGで例えるとレベル30あれば互角に戦えるぐらいの強さです)

(なるほど。中盤の敵って感じなのか)

(シルバーウルフをテイムできる強さを持つ者が加盟すればギルドの質も上がる。だから主様を勧誘したいんだと思う)

(戦力アップのためってことかー……)

(有り体に言えばそういうことです。どうします?)

(シロのことを考えれば加盟するしかないな)

(問題ありませんよ。ついでにミカたちも登録しておきましょう。今後、色々と便利かもしれませんから)

(分かった)


 ミカの薦めもあり、冒険者ギルドへの加盟を決断した俺はその旨を受付嬢に伝えた。


「やった♪ 強い方は大歓迎ですよ♪」


 そういうと受付嬢は申請書類の書き方の説明を始めた。

 受付嬢の説明を受けながらペンを走らせていると、背後から野太い男の声が飛んできた。

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