第13話 やりたいこと:王都に到着した
十日の道のりを無事踏破した俺たちはアイウェオ王国の王都に到着した。
「あれが王都かぁ~」
遠くに見える城門は十メートルほどの高さがあり、重厚な鉄の門が王都までやってきた旅行者を威圧するようにそびえ立っていた。
城門へと続く道には多くの人や馬車が並んでいて入場の順番を待っている。
日本生まれの俺にとっては初めて見る光景だ。
「どうですかご主人様。お城を初めて見た感想は」
「そうだなぁ。なんかすごいな」
「それだけですか?」
「うん……。いや! 実際、感動はあるぞ! 壁デカイなーとか、ちゃんと城っぽいなーとか! 長旅をやり遂げたって達成感もあるし!」
とはいえ城を見て『うおお、城門の厚みがすげぇ!』とか『側防塔の中に門が組み込まれているタイプじゃなくて門の脇を二つの塔で固めるタイプ』なのかーとか、そんな専門的なことで感動するとか普通の日本人は持たない感性だろ?
「だからなんとなく、はぁ~、到着したーってことしか感想が言えなくて。なんかごめん……」
「いえいえです♪」
「主様、初めての長旅の感想は?」
「楽しかった、かな。苦労することもあったけど」
旅の途中で兇獣(瘴気によって知性を失った災厄のような獣のこと)化した聖獣フェンリルを助けたり、そのフェンリルの娘を助けて仲間にしたり。
聖女や聖騎士と同行することになったり。
このフォースデン世界に来てから思いも寄らないイベントの連続だった。
疲れたという気持ちもあるけれど、前世では味わったことのない充実した出来事の連続だったから、全部ひっくるめると楽しかったと思える。
「なら良かった……♪」
「そう言えば……カミト様がアイウェオ王都まで旅を続けてきた目的って聞いてなかったね。どうしてなの?」
「目的は食材や調味料の買い付けだよ。それだけじゃなくて他にも色々欲しいものがあるけどね」
「お買い物をしにきたんだ?」
「ああ」
「確かに王都には様々な商品が揃っていますが、わざわざアイウェオ王国の王都まで長い旅をする必要があったのですか?」
「ま、社会勉強も兼ねてるから」
「なるほど。その言はいまいち納得はできませんが……良いでしょう。この旅ではそれなりに世話になりましたし。貴方が王都へ入場するときの保証人には私がなって差し上げましょう」
「ん? 商業ギルドのカードは持ってるんだけどそれだけじゃダメなの?」
「それでも構いませんが、あの長い列を待たなければなりませんよ?」
ノアが指差したのは王都へ入るための検問を待つ旅人の行列だ。
馬車などもあることから行商人も居るだろう。
その長い行列を少人数の門番が裁いているのが垣間見える。
「行列に並んでいたら王都へ入るのにどれほど掛かるか分かりませんが?」
「うっ……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「良いでしょう。これで貸し借り無しということで」
「分かった」
「ええっ!? 良いんですかご主人様ぁ?」
「ん。主様のほうが明らかに貸しが多いと思う」
「別に良いさ、そんなの」
貸し借りのためにアリスたちを助けた訳じゃない。
俺がやりたくてやったことだ。
「それはそうと……アリス。この前言っていたことはどうする?」
「この前って、神託のこと?」
「ああ。神様に何を言われたとしてもアリスが無理に従う必要はないだろう?」
「うーん……。でも私の気持ちは変わらないかな」
「それで良いのか?」
「良いのか悪いのかは今の私には分からないけど。でもそれが分かるまでは神託に従おうと思ってる。ダメ、かな?」
コテンッと小首を傾げ、アリスは上目遣いで俺の顔を覗き込んだ。
なんてあざといんだ。
そんな仕草をされたら男なんて何も言えなくなるに決まってる。
「ダメ、じゃないんだけど……。アリスがそれで良いなら俺は別に構わないよ」
「もう! ご主人様、そこはもっと毅然に断らないと!」
「ん。主様の側にはルーたちがいる。それで充分」
「それはそうなんだけど、ただ女神様と呼ばれるような尊い存在がわざわざ神託までしてアリスに与えた仕事なんだし、何か意味があるんじゃないかと思ってさ。意味があるかもしれないことを無碍に断るのも悪いだろ?」
「他称女神程度が何を言おうとご主人様が気になさる必要なんてないのに……」
「あ? もしかしてまたあたしに喧嘩を売っているのか、ミカ殿は」
「は? いつでも
殺気を燃やし始めた二人の間に慌てて割って入った。
「ちょ、ちょちょちょっ、二人とも落ち着いてくれ! さすがにこんなところで喧嘩はダメだって!」
「でもご主人様ぁ……!」
「でもも何もない。今は我慢してくれ、ミカ」
「むー……」
「カミト様の言う通りだよノアちゃん。喧嘩はメッ」
「ううっ、分かったわよ……」
不服そうな二人の様子に、アリスと目を見合わせながら苦笑を漏らす。
「とにかくこの話はここまでだよ。カミト様。私は色々と話を通さなくちゃいけない人たちが居て少し時間が掛かると思うんだけど……良いかな?」
「どれぐらい掛かりそうなんだ?」
「うーん……簡単に会える人ばかりじゃないから十日ぐらいは掛かるかも」
「十日、か。分かった。じゃあ俺たちはその間、王都を観光しているよ」
「うん! ありがとうカミト様♪ じゃあ観光の拠点として、私たちが仲良くしている宿を紹介するね」
「ナルコの宿? 確かにナルコの宿なら大丈夫でしょう。防犯対策もしっかりしているし、王都で顔の知れているあたしたちでも訪問しやすい」
「へえ。二人とも有名人なんだ?」
「当然です。そもそも聖騎士団員は二百名ほどしかいませんし、アリスは聖女として。またこの国の王太子であるモーブ王子の婚約者として知られて――」
「ノアちゃん!」
「あ……」
珍しく厳しい表情で制止の声を上げたアリスに、ノアは余計なことを言ってしまったと後悔するような表情で口を閉じた。
「ま、色々と有名なのは分かったよ。じゃあ俺たちは紹介してもらった宿でアリスからの連絡を待っていれば良いんだな?」
「うん。そうしてくれると嬉しいかな」
「分かった」
アリスに頷きを返したあと、ノアの先導で要人専用の入場ゲートを潜って王都に入場した俺たちは、教えられた宿に向かって馬車を走らせた――。
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