第12話 やりたいこと:王都に到着したい
食事を終えて食器を片付けた頃には夜はとっぷりと
「あたしたちはこちらの天幕で休むわ。見張りは三時間交代で良いわね?」
「見張りは必要ない」
「え?」
「ルーが結界を張る」
「なるほど。ルー殿は結界魔法が使えるのね。ならお言葉に甘えましょう」
「ん。ルーに任せる。
ルーの声と共に周囲の雰囲気が一変した。
「わ、すごい……こんなにも静謐で清浄さを感じさせる結界を一瞬で張るなんて」
「これでルーの許可が無ければ誰も入ってこれない。安心する」
「うん……!」
「ではご主人様。ミカたちは馬車の中で眠りましょう」
「ああ。じゃあアリス。また明日」
「はい。おやすみなさい、カミト様……♪」
就寝の挨拶を交わし、馬車の中へと場所を移した。
馬車の中は三人で寝るには少し狭いが、旅の空の下では贅沢も言っていられない。
それに不自由を楽しむのも旅の醍醐味だろう。
『無限収納』から三人分の寝具を取り出して就寝の準備をする。
「少し狭いけど我慢してくれ」
「うふふっ、全く問題ございませんよ♪」
「ん。主様とくっつけてルーは嬉しい……♪」
そういうと二人は床に広げたシーツの上に身を横たえた。
ミカは右、ルーは左。そして二人の真ん中に一人分の空間が空けられている。
「さっ、ご主人様。ミカたちの真ん中にどうぞ♪」
「ルーたちが主様のこと、暖めてあげるね」
腕を伸ばして俺を迎え入れる姿勢の二人。
その間の空間は、人一人がようやく横になれる程度に狭い。
このままだと二人の身体に密着して眠ることになる。
「……いや、俺は隅っこのほうで座って寝るよ」
正直、自分でも臆病だなと思う。
自分を慕ってくれる子の誘いを断るのも同然なのだから。
だけどどうにも気後れしてしまうのも事実だ。
尻込みする俺に気付いたのか、二人はシーツから腰を上げると俺の腕を掴んだ。
「ほらご主人様。早く来て下さい……♪」
「一緒に寝る」
「ちょ、まっ……っ!?」
逡巡する俺は二人に引っ張られてシーツの上に押し倒された。
すると二人はススッと身を寄せてきて、身体をギュッと押し当ててくる。
二の腕に感じる柔らかな二つの感触。
圧倒的な柔らかさで腕を包み込むミカの双房の感触と、押し当てることで慎ましげに主張するルーの双房。
「あはっ……♪ ご主人様のが
「ん。ルーたちのこと、ちゃんと女の子として見てくれてルーは嬉しい」
「と、当然だろ。俺にとって二人は理想の女の子なんだから。だから余計にこんなことされると我慢が……っ!」
「我慢、する必要あります?」
「ん。ルーたちは主様のもの。主様に愛してもらえたら幸せだよ」
「それにほら。約束しましたよ? ご褒美を頂くって……♪」
微笑みを零しながら呟くとミカは俺の耳に軽く口付けし、誘うように俺の腕を優しくさする。
肌に伝わってくるミカの体温と鼓動。
トクッ、トクッ、トクッと早いテンポで響く鼓動が、言葉とは裏腹のミカの緊張を俺に伝えてくる。
それはルーも同じだった。
ミカよりも更に早鐘を叩くルーの鼓動が腕に伝わってくる。
二人とも微かに頬を染め、どこか恥ずかしそうな表情だ。
それでも二人は身をすり寄せて、健気に俺を誘惑する。
(それで良いのか、俺……!)
少女たちの一途な想いに臆病風を吹かせていて、それで男と言えるのか?
そんな自問自答は、一つの想いに帰結する。
「ミカ、ルー」
二人の少女たちの身体を抱き寄せて、その額にキスをした。
「ごめん。いつまでもごちゃごちゃ言って。俺は二人の気持ちに応えたい。二人に気持ちを伝えたい。俺の気持ち、受け止めてくれるか?」
「あっ……もちろんです! ご主人様♪」
「ん……♪ 主様のこと、全部受け止めるよ。だから主様は好きなようにルーたちに想いをぶつけて……♪」
「ミカたちをたくさん可愛がってください……♪」
俺の想いに応えてくれた二人は、俺の頬に唇を触れさせた――。
次の日――。
「ふぁぁぁ~……あふっ」
両手を天に向かって伸ばして関節に残る気怠さを振り払いながら、朝食の準備のために馬車を降りた。
「おはようございます、ご主人様♪」
「主様、おはよう」
「あ、ああ。おはよう」
二人に挨拶を返していると、少し離れた場所に設置されていた天幕からアリスたちが姿を見せた。
聖女アリスと聖騎士ノア。
アイウェオ王国まで同行することになった二人の少女は、眠そうな目を擦りながら挨拶代わりに頭を下げた。
「おはよう。なんだ、二人ともあまり眠れなかったのか?」
「それは、その……あの……」
「……あれだけ激しい声を聞かされれば眠気など吹っ飛びます」
「え? ……あっ!」
どうやらミカたちとの情事の声が二人の睡眠の邪魔をしてしまったらしい。
「わ、悪い……!」
「時と場所を選ぶぐらいの分別は持って頂きたいですね。全く……アリスの教育に悪いったら」
「ま、まぁまぁノアちゃん、そのくらいで。男女の営みは自然のことだよ。その……私は初めて遭遇したけど」
アリスは顔を真っ赤にしながらも文句を言い続ける友人を宥める。
「はぁ……まぁ良いでしょう。ただしあたしたちが同行している間は二度とそういうことはなさらないように!」
「はっ? どうして貴女にそんなことを言われなければならないのです?」
「ん。主様に愛して貰うのはメイドであるルーたちの特権でありご褒美。それを邪魔するやつは排除する」
「ルー、やっておしまいなさい!」
「ん!」
ミカの指示に反応してルーが戦闘態勢を取る。
「待て待て待て待て! そんなことで喧嘩するなって!」
「ミカたちにとっては殺し合いを始めるには充分な理由です!」
「ミカの言う通り」
「いやいやいや! 今回のことは俺たちに非があるんだし、ノアの要求も当然のことだと思うぞ?」
同行している男女がすぐ側で『コト』に及んでいたと知れば、俺だってさすがに良い気はしない。
ノアの抗議は正当なものだ。
「デリカシーがなかったのは俺たちのほうなんだから。だから喧嘩はダメだ」
「むぅ……ご主人様がそう仰るなら我慢しますけれど」
「半殺しぐらいならいい?」
「ダメ」
「むー……」
不満そうに口を尖らせたルーを宥めるように頭を撫でながら、場の雰囲気を変えるために話題を逸らした。
「そ、それよりさ。早く朝食の準備をしようぜ。起き抜けで腹も減ってるし。アリスたちも食べるだろ?」
「えっと……」
「あたしたちは結構よ。不浄なことをした者の作ったものを食べたくはありませんからね。最高級干し肉もありますし。ねっ、アリス」
「え、えーっと……あははっ」
「そういう訳ですので。我々のことは放っておいてください」
そういうとノアはアイテム袋から干し肉を取り出した。
「さあアリス。美味しい干し肉を食べて今日も一日頑張りましょう!」
「う、うん」
カツンッ、ゴリッ、ガリッ――。
肉が発してはいけない音を響かせながらノアが干し肉を咀嚼する。
その横ではアリスが干し肉にかぶりつき――だが少しも噛みきることが出来ず、困惑の表情を浮かべながらエキスだけを吸うように干し肉に吸い付いていた。
そんな朝食が終わり――俺たちはアイウェオ王都に向けて出発した。
現在地から王都までおよその十日の距離がある。
その道の途中には大きな村や小さな町が点在していた。
そういった場所を訪れる度にアリスは教会で祈りを捧げ、困っている人たちがいれば無償で奉仕した。
なぜそんなことをするのかと尋ねたとき、アリスはこう言った。
「これが私のやりたいことなんです」
苦しんでいる誰かを。
悲しんでいる誰かを励まし、支えたい――。
その想いが原動力なのだとアリスは言った。
どんな者にも分け隔て無く平等に。
自分が持てる最大級の慈しみと無償の愛を注ぐアリスの姿に感動を覚えた。
(誰かのために、か。俺には無理だろうな)
前世では誰かのために、と頑張ったこともあった。
だけど『誰かのため』なんて言葉はただの自己満足でしかないのだ。
俺が『誰かのため』にやったことは、その人にとっては余計なお世話になるかもしれないのだから。
前世ではそのことに気が付けなかった。
だから今世では『誰かのため』じゃなく『自分のため』に生きよう――そう決めたのだ。
その決定に後悔はしていないし、この先、変えるつもりもない。
俺はどこまでも利己的で構わない。そう思っている。
だけど――。
(だけど誰かのためにアリスが頑張るっていうのなら。俺はアリスが頑張れるように協力してあげたい)
そう思ったのもまた事実だ。
どうすればアリスの助けになるのかはまだ分からない。
余計なお世話にならないように気をつけながら、自分のできることをやろう、と。
そう決めた。
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