第6話 やりたいこと:旅に出よう

【第六話】やりたいこと:旅に出よう


 次の日――。

 窓から射し込む朝の光を受けて目が覚めた。

 その瞬間、昨夜のことが鮮明に頭の中に蘇った。


(昨夜は凄かったなぁ……)


 うとうとしていた状態で聞くとは無しに聞いていたミカとルーの会話。

 神精力が二人にとってどういう意味を持つのかを知り、そしてその後の――。


(ううっ、どんな顔して二人と会話すりゃ良いんだ……!)


 下半身に蘇る二人の舌の感触に、朝から分身が起動しそうになるのを必死に堪えながらモゾモゾしていると、両脇で寝息を立てていた二人が声を漏らしながら寝返りを打った。

 俺のシャツを握り締めながら、心地よさそうに寝息を立てる二人の美少女。


(やっぱ……可愛いよなぁ)


 シーツに広がる金髪が窓からの陽光を受けてキラキラと輝きを放ち、ミカの整った顔を更に際立たせる。

 メイド服の胸部をふっくらと盛り上げる大きな胸は、ミカが寝息を立てる度にふんわりと上下し、その存在感を大胆に主張する。

 形の良い眉と長い睫毛、サクランボ色の唇――千人居れば千人が美少女だと認めるほどの美しく整った容姿。

 もちろん俺もミカを見ると自然と胸が早鐘を打ってしまう。

 そんな美少女が今、俺の横で寝息を立てているのだ。

 色々と意識してしまうのは男としては当然の摂理だと思う。

 そんなミカと同様に、俺の隣でスヤスヤと寝息を立てるルー。

 特徴的な銀髪は日の光を浴びてダイヤモンドのように輝いていた。

 七色の光に包まれるルーの容姿はミカより二、三歳は幼く見える。

 だが整った眉と長い睫毛は美しく、未成熟な色気を湛えていた。

 メイド服の下で慎ましげに存在を主張する胸部は、ルーが寝息を零す度に微かに上下動していた。


(こんな美少女たちが、俺が寝てるうちにあんなことを――)


 昨夜の記憶を思い出すと、途端に顔が熱くなる。

 だがそれ以上に気になったことがあった。


神精力プラーナか。確か体内に取り込むことで魂の格が上がるもの、だっけ)


 魂の格が上がる、という表現がどういう意味を持つのかは分からないし、なぜ、俺の身体にそんな能力が備わっているのかも分からない。


(この世界に転移するとき、俺の身体は神様によって作り替えられたってミカは言ってたけど、なぜそんなことをする必要があったんだろう?)


 このフォースデン世界を創ったという創世神。

 名前は聞き取れず、正確な発音で口に出すこともできないあの神様は、どうやらこの世界で俺にやらせたいことがあるようだが――。


(ま、考えたところで分かる訳ないか)


 神様が何を考えているのかなんて俺なんかに分かる訳がないのだ。

 多少のことを気にしていても仕方が無い。

 今はこのフォースデン世界で、どうやって俺のやりたいことをやっていくかを考えるべきだろう。

 ――と、そんなことを考えていると、傍らからの視線を感じた。


「あはっ♪ ご主人様、おはようございます♪」

「おはよー、主様」

「あ、ああ。おはよう」


 満面の笑みを浮かべて朝の挨拶をしてくれた二人に、俺はドギマギしながら挨拶を返した。

 二人の声を聞いた瞬間、昨夜のことが思い出されて顔が赤くなるのを止めることができなかった。


「……あら? ご主人様、お顔が真っ赤ですよ? もしかして風邪でもお召しになりましたか?」

「主様、大丈夫?」


 心配そうな表情を浮かべながら二人は身を寄せてきた。

 少女たちの柔らかな部分が肌に密着し――その女性特有の柔らかな感触に俺の身体の一部が元気に反応してしまった。


「あら……あらあらあら♪ あはっ♪ ご主人様、朝から元気ですね♪」

「元気なのは良いこと。ルー、朝のご奉仕する?」

「い、いや、その、これは違うんだ! いや、違わなくは無いんだけど……とにかく二人とも離れて!」

「でもミカたちは別に気にしませんよ?」

「ん。元気な証拠」

「お、俺が気にするんだって!」

「……ご主人様はもしかしてこういったことに免疫がないのです?」

「そ、それはそうだよ! 日本に居たときもそういう経験は無かったし、どうすりゃ良いのか分からないんだ。だから昨夜ゆうべだって――あっ」

「あら。もしかして目が覚めていらっしゃったのですか」

「うっ……」

「主様、起きてたのにルーたちの自由にさせてくれたの?」

「そ、それは、その――」


 言い淀む俺を見てミカとルーが視線を交わして頷き合うと、俺の腕に胸を押しつけてきた。


「良いんですよご主人様。異性を求めるのは生物として普通のことです……何も恥じる必要なんてないんですよ♪」

「ん。ルーたちは主様と触れ合えるだけで幸せ。だから主様は気にすることない」

「そうです。それにミカたちはご主人様の忠実なる下僕しもべなんですから。ご主人様に可愛がってもらうのがミカたちの幸せなのです♪」

「だから主様。我慢しなくてもいいよ……♪」


 俺の耳に唇を密着させてバイノーラルに囁く二人の声に、脳味噌が蕩けていくような錯覚を覚える。


「それにご主人様の神精力おなさけを頂くことはミカたちの成長にも繋がるのです」

「だから主様。ルーたちのために神精力をちょうだい……?」

「だ、だけど、俺たちはまだ出会ったばかりで――」

「いいえ。それは違いますよご主人様。ミカたちは創世神の加護により全ての概念と記録が集まる『アカシャ書庫』にアクセスして、ご主人様のことは何でも知っているのです。それこそ赤ちゃん時代から、青春時代、それから社畜時代のことなんかも」

「悲しかった記憶、嬉しかった記憶も全部。主様に創造されたルーたちは何でも知ってる。知ってるからこそ主様が好き」

「はい。ご主人様の生きてきた時間全てをった上で、ミカたちは心の底からご主人様をお慕いしているのです」

「それでも、ダメ……?」


 コテンッと首を傾げ、上目遣いで俺を見つめてくるルーと、うるうると瞳を潤ませて俺を見つめるミカ。

 二人の美少女が懇願する姿に俺の抵抗はあっさりと崩れ落ちた。


「本当に俺で良いのか?」

「ご主人様じゃないとダメなんです……♪」

「ん。ルーたちは主様が良い……♪」


 そういって嬉しそうに微笑みながら、二人は俺の下半身に顔を埋めた――。




 それから一時間後。

 『神』スキルで創り出した朝食を食べながら、朝っぱらから色んな意味で疲れ切ってしまった俺は項垂れていた。

 そんな俺とは対照的に、ミカとルーの二人は肌も髪もツヤツヤしていて元気いっぱいな様子だ。


「二人とも元気いっぱいだなぁ……成長ってもしかしてそういうことなの?」

「うふふっ、当たらずとも遠からず、ですね♪」

「ん。ミカたちは昨夜と今朝、主様から神精力をもらってレベルアップした」

「ミカたちのステータス、ご覧になりますか?」

「良いの?」

「他者のステータスをのぞき見ることは、この世界ではマナー違反になりますけど。でもご主人様なら大歓迎ですよ♪」

「じゃあお言葉に甘えて――」


 ミカの許可を得て二人に『鑑定』スキルを使うと、視界に半透過されたウィンドウが表示された。


【名前】:ミカ・セラフィ

【種族】:守護天使

【年齢】:0歳

【LV】:2

【HP】:100

【MP】:∞

【力】 :377

【魔】 :377

【耐】 :377

【速】 :377

【運】 :377

【能力】:天使(光) メイド 全属性適性 全属性耐性

【技能】:無限収納 鑑定 隠蔽 転移 探知 世界地図 解体 念話

     火属性魔法 水属性魔法 土属性魔法 風属性魔法 光属性魔法

     闇属性魔法 無属性魔法 神聖魔法 生活魔法


【名前】:ルー・クフェル

【種族】:守護天使

【年齢】:0歳

【LV】:2

【HP】:100

【MP】:∞

【力】 :377

【魔】 :377

【耐】 :377

【速】 :377

【運】 :377

【能力】:天使(闇) メイド 全属性適性 全属性耐性

【技能】:無限収納 鑑定 隠蔽 転移 探知 世界地図 解体 念話

     火属性魔法 水属性魔法 土属性魔法 風属性魔法 光属性魔法

     闇属性魔法 無属性魔法 神聖魔法 生活魔法


「なんだこれぇ……」


 二人のステータスを確認し、驚きよりも呆れの勝る声が出た。


「この世界のステータスの最高値って100じゃなかったっけ?」

「例外もありますけど概ねその通りですね」

「で、その最高値が100の世界で、377ってのは……」

「レベル1の主様を抜いてルーたちが世界最強になった。ブイ」

「とは言っても、初期ステータスの関係上、最終的にはミカたちよりもご主人様のほうが強くなるんですけどね」

「ルーたちの初期ステータスは255。主様は256。この数字には意味がある」

「天使が絶対に敵わない絶対的なあるじ。それがご主人様ですから♪」

「そうなんだ。それにしてもミカたちの持ってる能力とかスキルって、俺が持ってるのとほとんど同じなんだな」

「それは『天使』というアビリティのお陰ですね。これは『神』能力を持つご主人様の魂と接続してその能力を使うことのできる力ですから」

「ん。主様と一心同体になるためのアビリティ。だから主様とほとんど一緒の力が表示されてる」

「なるほど。だからあんなに色んなチート能力を覚えろって薦めてきたんだ?」

「えへへ……ご主人様が強くなればなるほど、ミカたちも強くなれますし」

「主様を守るために強くなりたかったから」

「じゃあこのレベルアップは二人にとっては喜ばしいこと、なんだよね?」

「もちろんです♪」

「ルーたちのレベルが上がれば主様をしっかり護れるし、主様のやりたいことをもっとサポートできる」

「だからご主人様。これからもたくさん神精力プラーナを授けてくださいね♪」

「それは、その……うん。二人が俺で良いのなら」


 二人が向けてくれた好意にちゃんと応えたい――そんな想いを籠めて俺は二人に頷きを返した。


「あはっ、やった……♪ やりましたね、ルー♪」

「ん。これから毎日、主様にご奉仕できる。ルー、嬉しい……♪」

「は、はは……お手柔らかに」

「それはもちろんです! 全てご主人様のお望みのままに♪」

「それがルーたちの望みでもあるから」

「……ありがとう。改めてこれからよろしく。ミカ、ルー」

「はい!」

「ん……♪」


 俺の返答に二人は嬉しそうに微笑みを浮かべた――。




「それでご主人様。今日は何をなさいますか?」

「なんでも言って。ルーたち、頑張ってサポートするから」

「何をする、か。特に何も考えてなかったなー……」


 ワンルームではあるけれど家はある。

 食事も『神』スキルでなんとでもなる。

 だけど――。


「俺のやりたいことは『二人に美味しいものを食べさせてあげたい』だから、美味しいものを探したいかな」

「たくさん魔物を狩ってお肉を食べる?」

「魔物の肉って食べられるの?」

「全部ってワケじゃありませんけど、食べられる魔物も多いですね」

「そっか。だけど肉だけじゃ料理とは言えないし。調味料も欲しいし、付け合わせに野菜だって欲しい」

「では商人として世界を巡るのはいかがでしょう?」

「世界を?」

「フォースデン世界には七つの大陸がある。その内の一つがここ」


 そういうとルーが地面を指差した。


「絶海の孤島『アルカディア』。それが今、ご主人様がいる島の名前です。創世神が世界の中心として一番最初に創造した大陸で、何人たりとも踏み入ることのできない禁足地です」

「大陸、と言っても他に比べて小さめ。地球で言えばオーストラリア大陸の半分ぐらいの大きさ」

「島よりも大きく、大陸と言うには少し小さいサイズですね」

「ここは人間が居ない魔物たちの楽園。でも昨日から主様の管理下にある」

「え? そうなの?」

「ご主人様がフォースデン世界に転移するときに創世神がそう設定したみたいです」

「神様が? なんでそんなことを……」

「さあ……? 創世神には何か思惑があるのかもしれませんけど、ミカたちは何も教えられていないのですよ」

「でも別に何か困るようなことが起きるワケじゃないと思う。だから主様は気にする必要ない」

「それもそっか」


 神様には神様の都合があるのだろう。

 一々、気にしていても仕方がない。


「それよりこの世界のことをもっと教えてくれる?」

「喜んで♪」


 弾むような声で応えたミカが、スッと空中に手を滑らせた。

 すると空中に半透明のインターフェースらしきものが出現する。

 そのインターフェースを操作してミカはフォースデン世界の説明を始めた。


「この『アルカディア』の他に大陸は六つあります。どの大陸にも人類種が存在し、多くの国が存在しています」

「この世界は中世ヨーロッパ風……いわゆるナーロッパ的な世界だから、ほとんどの国が王政を布いていて民主的な国家はほとんどない」

「そして王国には多種多様な種族が存在します。人、魔族、エルフにドワーフ、獣人などなど。これらを総じて人類種と呼称し、数多くのファンタジーな種族で構成されているのがこのフォースデン世界なのです」

「そんな中、主様が最初に向かうのにオススメなのが西大陸にある王国、アイウェオ王国」

「あいうえお?」

「アイウェオ、ですね。王国としてそこそこの歴史を持ち、国土もそこそこ広く、住まう人類種もそこそこ多く、そこそこ力を持っている国です」

「フォースデン世界にある国の中でも一般的な文明を持つ国だから、この世界を知るための基準になると思う」

「そうですね。ルーの意見にミカも賛成です!」

「なるほど。二人が推薦するのなら、最初に訪れる国はそこにしようか」

「ん、了解。じゃあすぐに準備する」

「そうですね。ではご主人様にはお家を『無限収納』に収納してもらって――」

「えっ、家を収納できるの?」

「もちろんです。お家に触れて収納と命令すれば収納できますよ♪」

「マジか……」


 ミカに言われるがまま、昨夜創ったマイホームを『無限収納』に収納した。


(この家……日本に住んでいたときの家と同じだから、置いてきぼりにするのはイヤだったんだよな。収納できて良かった)


「これで準備は完了ですね」

「え。これで? っていうかここって絶海の孤島なんじゃなかったっけ? どうやって西の大陸とやらに行くんだ?」

「それは当然、主様の転移スキルで、だよ?」

「あ、そのために『スキル化』したのか!」


 『神』スキルで転移をイメージするのは手間だからと、ミカに薦められるがまま、『スキル化』していた。


「この世界の交通機関はまだまだ未熟ですからね。馬や牛、魔物や魔獣なんかが主な交通手段ですけど、それだけじゃフォースデン世界を巡るのに何十年も掛かってしまいます」

「転移なら一瞬。主様の行きたいところにビューンッて行けて便利」

「それは確かに便利だ」


 あまりに便利すぎるとズルをしているような気がして、なんだかスキルを使うのに腰が引けてしまう。でも――。


(やりたいことをやるためなんだから、気にしたら負けか)


 そう思い直した。

 我慢したり、諦めたりするのは前世で充分したのだから、この世界では自由に振るまってみたい。

 もちろん、他人に迷惑を掛けない範囲で。


「よし。じゃあ転移しよう」

「はい♪ それじゃ転移のやり方を説明しますね」


 ミカが言う転移の方法は二つ。

 一つは『世界地図ワールドマップ』スキルを使用し、転移する地点をマップから選択して転移する方法。

 そしてもう一つは頭のなかで転移先の風景をイメージして転移する方法だ。


「ご主人様はまだこの世界のことを把握されていませんから、まずは世界地図スキルを使いましょう」

「世界地図スキルはゲームで言うところのワールドマップ。普通の世界地図スキルは未達領域が隠蔽マスクされているけど、創世神の代行者であり、『神』能力を持ってる主様なら初めから全てが見えているはず」

「地図に表示された西大陸の場所の中からアイウェオ王国の王都を選択すれば、転移の準備は完了ですよ」

「わ、わかった。ちょっとやってみる」


 ミカたちの説明を聞きながら世界地図スキルを使用すると、他のスキルと同様に目の前に半透過ウィンドウが出現した。


「これがフォースデン世界……広いなぁ」


 日本から出たこともなかった俺が、異世界で世界地図を片手に旅行先を選んでいる――その事実にどうしようもなく心が弾んでくる。

 日本に居た頃には感じたことの無かったワクワク感に自然と頬が綻んだ。


「なぁ。少しさ。ワガママ言っても良いかな?」

「もちろんです♪」

「なんでも言って」

「あのさ。直接王都に行くよりも少し離れた場所に転移して、王都に向かって旅をしてみたいんだ。ダメかな?」

「いいえ、とっても良いアイデアです!」

「ん。主様といっしょに旅するの、すっごく楽しそう……♪」

「ありがとう」


 俺のワガママに二人はすぐに賛同を返してくれた。

 それがすごく嬉しかった。


「じゃあ、えーっと……」


 アイウェオ王国の王都からそこそこ離れた中規模都市を指定した。

 地方都市スタット。それが中規模都市の名だ。


「準備完了したよ」

「では失礼して」

「ご主人様、ギューッ……♪」


 両腕を胸に抱え込むように二人が身体を密着させてくる。

 二の腕に当たるポヨンッとしたミカの胸の感触。

 そして慎ましげに柔らかさを主張するルーの胸の感触。

 全く違った二つの柔らかさを感じながら、俺は転移スキルを発動させた。



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