第4話 やりたいこと:家を建てる
【第四話】やりたいこと:家を建てる
それからしばらく――。
ミカとルー、二人のオススメのモノを『
【名前】:カミト・ジングウ
【種族】:代行者
【年齢】:二十歳
【LV】:1
【HP】:30/30
【MP】:∞
【PP】:1/10
【力】 :256
【魔】 :256
【耐】 :256
【速】 :256
【運】 :256
【能力】:『神』 精神耐性 物理耐性 状態異常無効
全属性適性 全属性耐性
【技能】:『神』 無限収納 鑑定 隠蔽 転移 探知 世界地図 解体 念話
火属性魔法 水属性魔法 土属性魔法 風属性魔法
光属性魔法 闇属性魔法 無属性魔法 神聖魔法
『神』能力とは全ての能力・スキルの機能を大幅に強化するもので、俺にしか備わっていない能力らしい。
この『神』能力によって『鑑定』は更に詳細な情報を得ることのできる『解析機能』を備えたり、地・水・火・風・光・闇・無の七属性魔法と特殊魔法に属する神聖魔法の効果がアップしたり、と良いことずくめなんだそうだ。
他にも色んなチート能力やチートスキルをオススメされたのだが、あまりにも多かったため、今のところはこの程度にしておくことにした。
まだこの世界のことを理解できているワケじゃない。
必要な時に必要な『能力化』や『スキル化』ができればそれで良い。
(これでもやりすぎなぐらいチートキャラになってるし。ひとまずは充分だろ)
「むー。ご主人様ならもっと強くなれますのにー。勿体ないです」
プクッと頬を膨らませながらミカが不満を零した。
「ははっ、今のところはこれで充分だ」
別に勇者や英雄になりたいワケじゃない。
好きなことをしながら自由に暮らせるのならそれで充分だ。
「ん。足りないところはミカとルーで補えばいい」
「それもそうですね♪ ところでご主人様。そろそろ日も落ちる頃合いになってきましたけど……夜はどうなさいます?」
「夜? ああ、晩ご飯のこと?」
「んーん。お家のこと」
「家。……あっ!」
そうだよ。
夜になったら寝なくちゃいけないし、寝るためには寝床が必要だ。
『能力化』や『スキル化』に夢中になって、家を作るって発想自体、頭の中からすっぽり抜け落ちていた。
「ど、どうしよう……」
「そこはそれ。『神』スキルを使えば良いんですよ、ご主人様!」
「主様のイメージを具現化して家を創ってしまえばいい」
「家も『神』スキルで創れるんだ? ほんと万能だなぁ『神』スキル」
あまりにも万能過ぎて、慎重で臆病で地道にマジメにコツコツと、が信条の自分でさえ力に溺れてしまいそうだ。
だが背に腹は代えられない。
家を創り出さなければ、魔物が
それだけは避けたい。
「よ、よし。じゃあ『神』スキルを使って家を建てよう!」
「はい♪ 頑張ってくださいご主人様♪」
「ふぁいとー」
二人の応援を受け、俺は目を瞑って家のイメージを頭に浮かべた。
(家、家、家――くつろげる場所。安心できる場所。生活に必要なものが揃っているマイホーム……)
この広大な平原で俺たち三人が安全に過ごせる大きくて堅牢な屋敷。
そんなイメージを浮かべながら俺は力を行使した。
「よし! 『神』スキル!」
声を発するのとほぼ同時に目の前に家が出現した――のだが。
「はっ? なにこれ?」
頭の中でイメージしていたのは大きなお屋敷だったのだが、目の前に出現した家は小さなブロック形の家だった。
クラフトゲームで言うところの『豆腐型』の家だ。
五メートル四方の壁に扉と窓のついた家……というよりも、アパートの一室を抜き出したと表現するほうが正確な建物だ。
「あらら。なんだか可愛らしいサイズの家になりましたね。でもちっちゃくてミカは好きです♪」
「ん。三人だと狭いかもだけど、主様との距離が近いからルーもこの家は好き」
「い、いや、でも俺はもっと大きなお屋敷をイメージしてたんだ。なのにどうしてこんなサイズになったんだか……」
「ちなみにご主人様はどのようなイメージを浮かべていたのです?」
「家のイメージだよ。みんなが安心して過ごせるような――」
「あ、なるほど。きっとそのお陰ですね」
「どういうこと?」
「主様の心の中にある『安心して過ごせる家』がこの家だってこと。中に入ってみると分かると思う」
「……よし。じゃあ中を見てみよう」
ルーに促された俺は恐る恐る扉を開けて中を覗き込んだ。
そして分かった。
なぜ、この小さな家が『神』スキルによって出現したのかを。
「あ――ここ、俺が住んでいたアパートだ」
扉の向こうに小さな玄関があり、狭いキッチンを通り抜けると八畳ほどの居間があった。
居間の中央にはこたつ机があって、壁際にテレビがあってベッドがあって――俺が日本で生活していたアパートの部屋そのものだった。
「今朝、家を出た時には死んで異世界に転移なんて想像もしていなかったけど。たった数時間でこんなにも懐かしく感じるなんて……」
自分が死んでしまったことを改めて思い知る。
もはや日本に戻ることはできず、これからずっとこの異世界で過ごすことになるんだ――その事実がようやく現実味を帯びて腑に落ちた。
「へぇ~、ここが日本でご主人様が過ごしていたお
「スンスンッ……お部屋のなか、主様の匂いでいっぱい……♪」
「あ、あまりジロジロ見ないでくれよ。恥ずかしいから」
「全然恥ずかしくない。ルーはこの家、気に入ったよ?」
「そうです♪ このお家にはご主人様が纏っている優しい空気が充ち満ちていて、ミカは幸せな気持ちで胸がいっぱいになっちゃいます♪」
「そ、そう? 気に入って貰えたのなら良かったけど」
「じゃあ今日はこのお家で一晩過ごしましょうか。ルー、家の周りに結界を張ってください」
「ん。分かった」
ミカの要請に頷き返すとルーは指先を伸ばして空中に何かの図を描いた。
空中に描かれた図形は完成と同時に小さく発光したあと消滅した。
「『
「そうなんだ?」
「ルーの得意技」
「そっか。ははっ、ルーはすごいな」
ムフーッ、と息を吐きながら胸を張るルーの得意げな表情を見て、自然と笑みが零れ落ちた。
「あ……ご主人様がようやく笑顔になってくれました♪」
「え?」
「ご主人様、ずーっと気を張ってるように見えた。でも笑顔を浮かべてくれてルーは嬉しい」
「いきなり異世界に放り出されてご主人様も不安だったのでしょう。でも、もう大丈夫ですからね。ミカとルーの二人でご主人様がもっともっと笑顔を浮かべられるように全力でお支えしますから♪」
「だからもっと肩の力を抜いていいよ」
そう言って微笑みかけてくれた二人のお陰で、俺は自分が無意識に緊張していたことに気付いた。
言われてみれば当然のことかもしれない。
見知らぬ土地というだけじゃない。
見知らぬ異世界にたった一人で放り込まれたのだから。
神様とかいうワケの分からない存在に出会い、日本に居た頃の常識では推し量れない異世界で、人とは異なる存在であるミカとルーの二人と出会い、魔物に襲われ、家を創る――。
軽く列挙しただけでも頭の中にハテナマークが浮かぶような非常識の連続だ。
ただの庶民でしかない臆病な俺が、その非常識さを平然と受け止められるはずがなかった。
不安や緊張でガチガチに固くなっていた心が影響を及ぼして、無意識に『神』スキルでこのアパートを創りだしたのかもしれない。
「そっか。俺、不安だったんだな」
二人に指摘されて初めて自分自身の不安や緊張に気付き――なぜだか自然と涙がこぼれ落ちた。
「大丈夫。大丈夫ですよご主人様。ミカたちがずっとお側に居ますから」
「主様、泣かないで……」
「さぞお疲れでしょう。今日はもう寝ましょうね」
「主様が安心して眠れるように、ルーたちが抱き締めていてあげるから」
「ええ。だから肩の力を抜いて、ゆっくりお休み下さい……♪」
「ほら、おいで、主様」
とめどなく溢れる涙は死んでしまった悲しみなのか、それとも日本を離れてしまった寂しさなのか。
それは自分でも分からないけれど――少女たちが向けてくれる優しさに感謝しながら俺はベッドの上で目を閉じた。
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