【短編】昔話から飛び出したキャラクターが現代技術を駆使して現実世界を無双する話。

鷹仁(たかひとし)

第1話 ガラスの靴を投げ捨てた世田谷在住のシンデレラは現代技術を駆使して歳下の王子様と出会う

 現代現代。ある世田谷にシンデレラと呼ばれる女の子がいました。

「シンデレラ! 私たちはパーティに行ってくるから、帰ってくるまで、あなたは自分の部屋くらい掃除しておきなさい! 何このゴミ部屋!」

 八畳洋室のシンデレラの部屋には、食べかけのお菓子や、鼻をかんだティッシュ、購入特典目的で買い漁った漫画の外側に付いていたビニールが無造作に散乱しています。

「うーい! 姉貴、行ってら!」

 シンデレラは末っ子のため、お姉さんたちから可愛がられていました。

「アレクサ! 部屋を掃除して! 後、ノリのいい音楽も」

 お姉さんたちが出ていくと、シンデレラは部屋の隅に向かってそう叫びました。

 うい~ん。シンデレラの呼びかけに、陽気なヒップホップとともにお掃除ロボットのルンバが動き出します。それは有能な使用人メイドのような働きぶりでした。ルンバは、床に落ちたペットボトルを押しのけながら進んでゆきます。

 現代の技術はまるで魔法です。シンデレラは魔法が使えたのです。


「姉貴たちは職場の忘年会に行ってしまったし、アッシは男漁りでもすっかな」

 シンデレラはiPhone13を手に取り、マッチングアプリを開きました。

 このアプリは、男はメールの送信に課金が必要なのですが、女は無課金で遊べます。面倒な事前登録を済ませ、シンデレラは男たちの写真を品定め始めました。

「これはダメ。これは保留。お、この人はイケメンだけど奥さんいそうだな。不倫か?」

 いつだって、女のほうが恋愛市場では有利です。アプリに登録すると、すぐに沢山の男からいいねが来ます。

「お、この男いいじゃん。“王子様(22)”って、童貞臭いけど、こういう奴のほうがすぐ釣れるだろうし、ちょっと遊ぶにはこういうやつがいいんだよな!」

 シンデレラは一旦アプリを閉じ、自撮りをします。

「っし! 綺麗に撮れったァ~ッ!」

 そして、日頃お世話になっている画像編集アプリで自分の顔を綺麗にします。ついでに胸も盛ります。

 シンデレラはお姫様のように加工した自撮り写真を王子様に送りました。

 自撮り写真を送ってすぐに、王子様から返信がありました。今日会えないか? と。シンデレラは早速OKを出します。待ち合わせ場所は、渋谷駅になりました。

 現代の技術は魔法です。魔法使いのおばあさんよりも、無料アプリのほうが自分を盛れます。


 駅につくと、シンデレラは早速王子様を探しました。マッチングアプリは結婚用、友達用、ヤリ目的用とありますが、シンデレラは結婚と友達どちらもターゲットにしているアプリを利用しています。またこのアプリではシンデレラの好みである、学生が多く利用しています。素敵な出会いには、市場調査といった日頃の努力が大事なのです。そして、シンデレラは27歳で登録をしています。こういった出会いの場では、基本、歳上が声をかけるのです。

「王子様ですか?」

 メールで打ち合わせた通り、王子様はマッシュルームカットで、長めの靴下を履いています。身長も、ヒールのシンデレラよりひと回り小さく可愛いです。どこからどう見ても王子様でした。

「あ、シンデレラさんですか……」

 王子様が振り返り目を合わせると、ぎょっとした顔をシンデレラに向けました。

「27って言ってたけど、明らかにおばさんじゃん! 今日はこの後友達と遊ぶからやっぱりパスで!」

 王子様はそう言って、渋谷の雑踏へと消えていきます。

 なんと十二時になる前に、というか、王子様と会って早々シンデレラの魔法が解けてしまいました。今思うと、王子様も年齢を偽って高校生なのにマッチングアプリを利用していたようでした。

 シンデレラはため息をつきました。

 山田シンデレラ(35)。魔法は使えても、ガラスの靴は履いていないのです。

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【短編】昔話から飛び出したキャラクターが現代技術を駆使して現実世界を無双する話。 鷹仁(たかひとし) @takahitoshi

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