第10話

そうだ。何故この言葉に気づかなかったんだろう。

私は間違っていたのだ。ああ、しかしこの男の言う事を受けとめていたら、私は今までの全人生を頭から否定されていることを受けとめていたことになっていたのだ。


ー若者は叫び続けて、最後にあなたは間違っています!と 言いきると自分の席に座った。今度は意識は醜い自分を見た。

自信満々の顔で朗々と語りはじめた。

…それはいかに自分が立派か、いかに自分が偉大な人生を歩んできたかを語っているかのようだった。観客はほとんど全て男の言うことに酔い、男もまたー

意識は しかし、 どうしようもない悪感、吐き気をもよおしていた。さっきまで熱弁を ふるっていた若い男もまた青ざめている。「違う...違う」 しきりにつぶやいている。

「もしあなたの言うとおりならこの世は何一つ自分一人ではできない、 それでいてたった一人きりの、孤独な、大きな子どもだらけになってしまう…」

意識はただひたすら悲しんでいた。 いやだ、いやだ、 これが自分だなんて…いやだー


とぎれた。


自分がふわふわどこかの部屋をただよっている。 そこは豪華な部屋だった。 ここはどこだ。 立派、というよりは悪趣味な…男が一人机の前に立っている。 イライラした様子で、やがて耐えきれない、といったふうに部屋中ぐるぐると歩きはじめた。


意識にはわかっていた。彼は議論に勝って、理事長の座を手に入れた。それを彼はこれまでの自分の努力のたまものだと過信していた。

敗北者の顔を見ると青ざめて目は光を失っている。彼は自分の勝利をかみしめ、酔いしれていた。とりまきの学者や教授が美辞麗句を並べる。

ー敗北者はたった一人だ。がその時だった。

打ちひしがれた男に一人の女がかけよってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る