第9話

その男は若々しく両の瞳は熱がこもっていて自信に満ちている。

(ーまるで戦のようだな。)男(自分)はそう思った。 (私とあの男は違う意見を持っていてそれをぶつけあう。 もちろん勝つのは私さ。傍聴人、学者の大半は私の味方で、あの男には数人のバカな教授がついているだけだ....)


彼は右手であごひげをさすりながら口をひんまげた。 大勢の学者、傍聴人は彼を見ている。一様に。 その目のなんと冷たく感情のこもってないことか. それでも彼は満足した。彼が必要としているのは彼の偉大な意見の証人なのだから。


戦いがはじまった。若い男は自分の意見を堂々と語り、その熱い目は燃え上がり、彼の気迫の激しさを証明した。しかし、学者や傍聴人は動じる様子もない。もちろん自信に満ちた偉大な男もー

ふふふ無駄だ。おまえの意見がいかに正しかろうと。私はこの日のためにどれだけ金を使い、苦労して細工を仕組んだことか。全ては理事長の椅子のためさー

そういう彼は大きな机の前にふんぞりかえって座っている。


彼の野望がふくらめばふくらむほど、意識は外へと追いやられていった。 今なら全てが見ることができた。

おごり高ぶってふんぞりかえっている醜い自分と熱弁をふるう青年ーあの時、おごり高ぶった自分のままでは聞くことができなかった強い声を今なら聞くことができた。


「勉強だけではだめだ!」

「 生きる上での本当の意味での知恵を身につけなくては」

「考えが偏ってはいけない 」


ーそうだ、そうだ、そうだ…意識はいつのまにか 若者の意見を応援し、心の奥底からゆさぶられるような気持ちを覚えていた。この若い学者は醜い自分の間違った生き方を 的確に指摘していた。

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