第8話

「ふん、僕にとっちゃ勉強が一番の楽しみだ。勉強しろってあれほど言ったのは母さんじゃないか。」

とたんに母親はオタオタしはじめた。

「あれは 一流の学校に入って、エリートコースに進めばあなたのためになると思ったから…..そうよみんなあなたの…..あなたのためだったのよ…」 最後の方は声にならない。とうとう泣きだしてしまった。

「フン」 彼はイスから立って母親を見下ろした。 何てか弱く、おろかなんだろう。しかも行動に一貫性がない。 さんざ勉強しろと言っていまさら逆のことを言うとは。

ー母親を 一べつすると彼は再びイスに座り、机に向きなおった。


僕は違う。勉強を誰よりもし、おかげで常にトップに立ってきた。 これからも常にトップだ。ははははは…

頭の中に笑い声がこだました。

違う!意識ははっきり自覚した。 違うぞ、勉強ばかりしていて、周りに気を配らず、友達の一人も作らないから、おまえはいつも孤立してしまっているじゃないか。トップだって?何のためのトップだ。外見はそうかもしれないが、おまえの心の中は、いつも孤独でいっぱいじゃないか!


意識は叫び続けた。 目を覚ませ! おまえは間違っているぞ!自分である青年に叫び続ける。


ーそうさ、だからあの時だってー

ふいに景色が変わった。


大学の講堂だ。目で見渡すより先に意識した。


そうだ 自分はあれから優秀な成績をおさめ、大学を卒業し、大学に残って教授となったのだ。それからはや数十年…

(そうだ、自分は….私は議論しているんだ...)

ーテーマは 「教育」。今の社会に役立つ大人を育てるにはどうすれに ばよいかー

私をぐるりと囲む傍聴席は円陣になり、ちょうど私と向かいあって、あの男がこちらを見ている。

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