第24話 進化

「ぐぇっぷ……」


宿で餌を平らげたケロッグが、盛大に小汚いゲップを吐き出す。

最近その体は更に丸味を増しており、手足を縮めたらもはや完全にボールと言っても過言ではない。


「ったく、無駄にぶくぶく太りやがって……そんなで進化できるのか?」


フォースエターナルのテイムモンスターは、成長しきると進化する仕様になっていた。

その回数は種族によるのだが、ケロッグも最低一回は進化できる筈である。


で、現在のケロッグはコーン生体(後期)だ。

成長も、もうじきマックスになる。


――つまり、進化直前。


が、明らかに今のケロッグの体は規定とは言い難い物があった。

当然ゲームでこんな状態になった事はないので、このまま無事進化できるのかと少々心配になってしまう。


いやまあ、出来ないなら出来ないでそれでもかまわないけど。

月光さえあれば十分役に立つわけだし。


「心配ないカッパー。何故なら……ケロッグは太ってないカッパ!!」


「……」


その根拠0の強気の発言は、いったいどこからやって来るのだろうか?

もはや呆れて言葉も出ない。


「そんな事よりも、無性に甘いものが欲しいカッパ!」


「そんなもんねーよ」


宿の部屋に甘い物など置いていない。

しかも、今はもう夜遅い時間だ。


現代日本ならコンビニなどがあるだろうが、この世界でこの時間帯に開いているのは酒場位の物である。

当然、そんな所に甘い物等おいている訳もない。


ま、仮に入手可能でもくれてやる気は更々ないが。

俺はエーリル程甘くはないからな。


「ぐぬぬぬぬ……だったら餌で我慢するカッパ!」


「何が我慢するだ。少しはダイエットしろ」


「嫌だカッパ!餌が欲しいカッパ!!」


ケロッグがベッドの上で、短い手足をばたつかせてゴロゴロと転がる。

ぶん殴りたくなるが、ぐっと我慢する。

こいつを殴ると、おれのHPが減ってしまうだけだからな。

自傷する趣味はない。


「ストだカッパ!ストだカッパ!くれなきゃ明日は働かないカッパ!!」


「何がストだ。全く……」


明日も早い。

このアホに延々騒がれては眠れやしない。

俺は諦めて、ケロッグの口に餌を突っ込んだ。


「うまうま……」


「くったら寝ろよ」


「うまうま……うっ!」


口をくっちゃくっちゃさせていたケロッグが、口の中の物を飲み込んだ瞬間、

急に眼を剥いて固まってしまう。

喉にでも詰まったのだろうか?


「き……来たカッパーー!」


雄叫び。

ケロッグが叫ぶと、その体から光が溢れ出す。


「進化か!」


今やった餌で成長しきった様だ。

どうやら、問題なく進化出来そうである。


……出来るよな?


「げろげろー!」


カッパ状態のケロッグが、カエルの状態に戻る。

そしてその体に……


ひびが入った。


「おいおいおいおい!本当に大丈夫だろうな!?」


このまま砕け散るとか、まじで勘弁してくれよ。

ケロッグはともかく、そのせいで俺のHPまで0になって死亡とか洒落になってないぞ。


「げろげろげろげろ!」


ケロッグの全身に罅が広がっていく。

一応回復魔法を使ってみるが、特に効果が出ている様には見えない。


「げろーーーーーー!!!」


「――っ!?」


ケロッグが一際大きく鳴くと、その体が閃光と共に爆発してしまう。

その眩しさに、俺は目を瞑って顔をそむけた。


「……どうなった」


取り敢えず、俺は死んでいない。

恐る恐る目を開けて確認すると――


「げろげろ!」


青くなったケロッグが、何事もなかったように佇んでいる。

それも丸々していた体は、初めてあった時の様にすっきりした物に代わっていた。


どうやら弾けたのは外皮だけだったみたいだな。

脱皮みたいなもんか?


ったく、馬鹿みたいにド派手なエフェクト出しやがって。

ビビったじゃねぇか。


「進化は成功したみたいだな」


後、ダイエットも。

いや、正確にはダイエットではないが、まあやせたので良しとする。


早速ケロッグのステータスを確認してみると――


種族が【コーン】から【フロスト】に代わっていた。

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