第23話 サポーター

僕は生まれつき難病を患っており、病弱だった。

そのため両親からは過保護に守られ、自分の足で屋敷から外に出た事すらなかった。


ずっと屋敷での生活。

それは退屈極まりない物だ。

そんな僕がVRMMOゲームに嵌まるのは、きっと必然だったと思う。


外に出れず、病気で真面に体を動かせない。

そんな僕が、ゲームの中では自由に動き回れるのだから。


そんなある日、圧倒的なリアル感を売りにしたVRMMOゲーム――フォースエターナルが発売された。


僕はそのゲームに夢中になる。

そして気づけば、いつしか僕はフォースエターナル最強と呼ばれるようになっていた。


実際、あのゲームで僕より強いプレイヤーはいなかったと断言できる。


「フォースを頼む」


だから病気が急変して死んだ僕を、神は選んだ。

異世界フォースを救い、女神を解放する存在として。


「任せてください。必ず僕が救って見せます」


僕は神の加護を受け、神殺しゴッドスレイヤーという神の汚染を唯一無効化できるクラスを与えられ、異世界へと転生する。

滅びる前の時間軸へと。


「よし、今日はここまでにしようか」


レベルの上がった所で、エミリーにレベル上げの切り上げを伝える。

今の僕のレベルは、370だ。


通常、フォースエターナルでのレベル上限は300である。

だが神と戦う事を前提としてデザインされた神殺しゴッドスレイヤーには、レベルの上限がない。

そのため、魔物を倒せば倒す程強くなる事が出来る。


無限に強くなれるのなら、心魔には確実に勝てんじゃないかって?


残念ながら、そう言う訳にはいかない。

女神の心が完全に消え、心魔がその肉体を完全に手に入れてしまった後では、どれだけレベルアップして強くなろうとも勝ち目が無くなってしまうからだ。


いくら神の力を借りているとはいえ、しょせん僕は生物でしかないからね。

本領を発揮した神を超える事なんて、土台無理な話なのさ。


正史通りなら、勇者が心魔を解き放つのが今から約2年後。

丁度そのタイミングが、女神の心が消えずに残っていられるリミットとも聞いている。

だから、僕に残された時間は2年と言う訳だ。


え?

リミットがあるなら、もっと過去の時間の送って貰えばよかったんじゃないかって?


もちろん、僕もそう思って提案したよ。

だけど――


『過去への干渉は膨大なエネルギーを必要とする。残念ながら、今から送る時間軸で限界なのだ。すまない』


――と、返されてしまっている。


まあ、出来ない事は仕方がない。

僕は制限の中で、ただベストを尽くすだけだ。


「それにしても、中々現れませんね。サポーターの人」


闇霧の渓谷から戻った僕とエミリーは、宿で食事を摂る。

食後、彼女がある人物サポーターの事を話題に上げた。


僕がこのフォースの世界に来て、1年ほど経った頃の事だ。

神からあるメッセージが届く。


『君のサポートとして、優秀なプレイヤーを送る。きっと役に立つはずだ』


と。


だがそれから1年経つが、神のメッセージにあった人物からの接触はいまだに無かった。


「まあ多分、トラブルが発生しているんだろうと思う」


神のメッセージには続きがあった。

少ないエネルギーで無理やり送ったので、正常な形で合流できない可能性がある、と。


まあ要は、何らかのトラブルに見舞われる可能性が高いと言う事だ。

そして1年経っても姿を現さないと言う事は、そう言う事なのだろう。


「はやく合流できるといいですね」


「ああ」


神が優秀と太鼓判を押し、無理をしてまで僕のサポートとして送って来る程の人物だ。

心魔との戦いでは、きっと役に立ってくれる事だろう。

だから死亡していたり、そもそもこの世界への到達に失敗していたりなんて、最悪の状態になっていない事を心から祈るばかりである。


「でも、どんな人なんでしょうね?世界を救うためにやって来るんだから、ひょっとしたら素敵な王子様みたいな人かもしれませんね」


エミリーが両掌を合わせ、未だ見ぬサポーターを想像してうっとりとした表情で頭上を眺める。

夢見がちな年ごろと言う奴だ。


「ははは、どうだろうね」


王子様の様な人物が、優秀なプレイヤーとして神に選ばれるとは流石に思えない。

じゃあどういう人間が選ばれるのか?

そう考えた時、パッと思いつくのはあるプレイヤーだ。


プレイヤーネーム:タケル。


フォースエターナルにおける最強プレイヤーだった僕は、アルティメット・チャンピオン・バトル――UCBにおいて3連覇を果たしている。

自分で言うのもなんだが、僕の強さは圧倒的で、大会では真面に戦える者すらいない状態だった。


――ただ一人を除いて。


それがタケルという名のプレイヤー。

彼だけが、圧倒的だった僕に食らいつく事の出来る存在だった。

ナンバー1は僕だったけど、ナンバー2を決めるのなら、間違いなく彼がその座にいたはずだ。


そう考えると、タケルがサポーターとして送られてきた可能性は極めて高いと言えるだろう。


ま、僕の死後に凄い才覚の有る人物が見つかった可能性もあるし。

大会なんかには出てない、隠れた凄腕を引っ張って来た可能性も否定はできないけど。


何せ、億を超えるプレイヤー数だった訳だからね。

フォースエターナルは。


「もし王子様みたいな人が来たら、いくらリョウ様だからってお姫様役は絶対に譲りませんからね」


「ははは、僕にお姫様は似合わないから安心してくれ」


自分の事は良く分かっている。

僕には、そういうのは似合わない。


まあそもそも、今の僕に色恋にかまけている暇などないしね。

今はとにかく、強くなってこの世界を救う事を考えないと。

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