第22話 フォース・エターナル

異世界フォース。

そこは女神フォースが統治する世界だ。


女神は慈愛を秘めた優しい神だった。

そしてそんな女神の元、人類は平和に過ごしてきた。


――楽園と呼ばれる時代。


だがある日、そんな平和な世界に異常が発生する。


――魔物モンスターだ。


邪悪な力を秘めた魔物。

女神の感知しえない、邪悪なる存在が異世界フォースに次々と姿を現しだしたのだ。


魔物は人を襲う。

その強力な力の前に、女神の保護の元平和を享受していた人間は無力だった。

当然女神は人々を守るため、魔物を駆逐しようとする。


だが不思議な事に、女神は魔物達に攻撃を加える事が出来なかった。

まるで自らの体が拒否するかの様に、女神フォースは魔物に対して力を振るえなかったのだ。


その理由は分からない。

だが、このままでは人類は凶悪な魔物によって滅ぼされてしまう。


そこで女神は考えた。

魔物を直接滅する事が出来ないのなら、人間に自らの身を守る力を与えればいいと。


――それが異世界フォースにおける、クラスの始まりだ。


女神はただ力を与えただけではなく、魔物を倒し、そのエネルギーを吸収する事で成長できる様にしておいた。

強くなり続ける魔物に、人類が対抗できる様にするために。


女神の与えたクラスと成長レベルは人間に多大な恩恵を齎し、人類は魔物と戦うだけの力を得た。

流石に以前の様な安穏とした平和とはいかなかったが、それでも人々の暮らしはなんとか安定する。


――そこから更に100年の時が過ぎる。


100年の時を経てもなお、依然魔物の数は減る事がなく。

その根源を探し求めていた女神フォースは、その大本を遂に見つけ出す。


そして驚愕する。


「そんな……」


魔物を生み出す本源。

それは他でもない、女神自身だったのだ。


慈愛の女神であるフォースの心の内には、彼女自身気づかない程の僅かな物ではあったが、邪悪なる心――心魔があった。

それは長い年月を経て、彼女の中でゆっくりとだが、確実に肥大し続け続けたのだ。


その原因が何なのかは分からない。

だが、それはやがて邪悪な力を世界にまき散らし魔物を生み出す様になった。


「私が魔物を攻撃できなかったのは、その為だったのですね……」


女神が魔物を直接攻撃できなかったのは、心魔が邪魔をしていた為だ。


「このままでは、全てが失われてしまう」


原因は自身の邪悪な心魔。

その答えに女神が辿り着いた時、それはもう取り返しのつかない程に育っていた。


このままでは、そう長く持たない。

やがて自身が邪悪な心に乗っ取られてしまう。


そう判断した女神フォースは、自らを封印する事を決める。

世界を守るために。


「これで魔物も消え、世界は……」


封印を人が誤って解いてしまわない様、彼女は4匹の神獣を守護者として生み出し眠りについた。

だがその封印は、心魔が干渉したため完璧に程遠い物となってしまう。


隙間から漏れ出る力によって、魔物の出現は維持され。

やがて心魔は女神その物を乗っ取り、その隙間から封印を解くための小細工を弄する。


まずは女神の力を使い、強力なクラスの力を持つ者を生み出した。


――勇者。


そして人類に出鱈目な予言を与える。

女神が邪神によって封印されており、それを救うために勇者は生まれた。

と。


その予言により勇者は自らの使命を女神の復活と思い込み、やがて封印を守っていた神獣達を滅ぼしてしまう。


――そして復活する。


――邪悪な心によって支配されてしまった女神が。


そして封印から解き放たれた心魔は、世界を滅ぼしてしまう。

それは本当に、瞬く間にという言葉がふさわしい程にあっけなく。


何故なら、人類に女神となった心魔と戦える者がいなかったからだ。


人間に与えられたクラスと言う力は、女神から与えられたものだ。

そして成長のために取り込む経験値エネルギーは、心魔の力である。

更に強力な武具類は、魔物からとれる魔石――心魔のエネルギーの結晶――を核にして制作されていた。


――そう、全ては女神や心魔より得た力。


当然それらの物で、女神となった心魔と戦える訳もない。

それ故、フォースの人々は真面に抵抗する事すら出来ずに滅び去ってしまう事になる。


『ああ、世界が……』


自らの世界フォースの滅び。

それを目の当たりにし、僅かに残った女神の欠片が嘆く。


その慟哭は次元を隔てた先にある世界。

地球。

その神へと届く。


女神フォースと懇意の中だった地球の神は、直ぐさま異世界へと意識を向ける。


「これは……」


彼の目に映ったのは、邪神と化した女神が何もない世界で唯々狂った様に暴れ狂う姿。

変わり果てた旧友の姿に涙し、地球の神は一つの決意をする。


滅びてしまった異世界を。

そして女神フォースを救う、と。


だが既に世界は滅びており。

女神も不可逆の狂気によって狂ってしまっている。

もはやどうしようもない状態だった。


「既に手遅れだと言うならば、過去を変えるまでだ」


現状に打つ手がないのなら、過去に干渉して歴史そのものを変えてしまえばいい。


荒唐無稽とも言える出鱈目な手段。

だが、神ならばそれは可能だった。


しかしそのためには大きな問題が二つあった。


一つは、過去へと干渉――しかも異世界の過去へと干渉するには、莫大なエネルギーが必要になる事だ。

それは神であっても、容易く用意できるものではなかった。


そしてもう一つは、神は自らの世界から外へ出る事は出来ない事である。

これは神同士がお互い争えない様にするためにある、絶対の法則だ。

そのため、どのような手段を使おうとも神は異世界へと直接向かう事は出来ない。


神は考える。

自身が直接向かえないのなら、その代わりを務められる者を選出し送ればいいと。


――そして一つのゲームが神の手によって生み出される。


それは異世界フォースの歴史の一片を切り取ったゲーム。

フォースエターナル。

地球で世界規模の人気を獲得するゲームだ。


そのゲームを通じて神は異世界フォースを救いうる適性者を探し、そして見つける。

その者の名は、神童しんどうりょう


アルティメット・チャンピオン・バトルで3連覇を果たした、誰もが認めるフォースエターナル最強のプレイヤー。


「フォースの世界を頼む」


「任せてください。必ず僕が救って見せます」


神は神童涼に特殊な力を与え、そして送り出す。

滅びる前の異世界。

フォースへと。

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