第21話 転生者

昼もなお薄暗い、闇霧の渓谷。

そこを一人の少女が疾走する。


その少女を、赤い瞳と黒い肌をした悪魔型のモンスター達が追っていた。


――ヘルデーモン。


レベル350の悪魔型モンスター。

その強さはたった一匹で、街一つ滅ぼすとさえ言われている高位モンスターだ。


「ぐおおおぉぉぉ!!」


赤毛のショートカットを揺らし、必死の形相をした少女が真っすぐ此方へと迫って来る。

ヘルデーモンの群れを引き連れて。


「集めてきました!」


少女がすれ違いざま、そう僕に伝える。


彼女はプラー。

散らばる敵をかき集めるのが仕事だ。


「上出来だよ」


僕は前面に迫りくるデーモンの一団に向かって、自らのスキルを放つ。


「撃滅閃光斬」


撃滅閃光刃。

それは僕だけの固有クラス――神殺しゴッドスレイヤーが持つ、滅属性を乗せた前方範囲型のスキルである。


剣から放たれた破壊のエネルギーが扇状に広がり、眼前のデーモン達を飲み込んだ。

そして一瞬にしてその全てのHPを喰らいつくす。


「一網打尽!さっすがリョウ様!」


デーモン達が死に、安全を確認した相棒の赤毛の少女――エミリーが笑顔で此方に駆け寄って来る。


「エミリーが敵を上手く纏めて釣って来てくれたお蔭だよ」


撃滅閃光刃は、距離が離れれば離れるほどその威力が下がる仕様である。

そのため、耐久力の高いヘルデーモン達を一網打尽にするには相手がある程度纏まっている必要があった。

討ちもらしなく完璧な形で終わらせられたのは、エミリーが上手く纏めてくれたからこそだ。


「へへへ」


エミリーは頭に手をやり、照れ臭そうに笑う。

15歳である彼女のその顔は、まだまだあどけない。


初めて会った時は頼りない少女だった。

だが彼女はこの1年程で急激に成長し、今では僕の頼れる相棒となっている。


「疲れただろう。いったん休憩してから場所を移動しよう」


「いえ、あたしは平気です!」


「大丈夫なのかい?」


「はい!リョウ様のレベル上げ頑張りましょう!」


エミリーとはパーティーを組んではいない。

そのため、敵を倒しても経験値が入るのは僕だけだった。


「ありがとう」


勿論、最初っから彼女にパーティー外でプラーをやって貰っていた訳ではない。

エミリーとは、途中までちゃんとパーティーを組んで一緒にレベル上げをしていた。

今の形に収まったのは、彼女のレベルが300――カンストになってしまったからだ。


レベルが上がらない以上、経験値を得る意味はないからね。


「エミリーがレベル上げを手伝ってくれて助かるよ」


「リョウ様には助けて貰った大恩がありますから!」


僕とエミリーが出会ったのは、2年ほど前の事だ。

そこで僕は危機的状況だった彼女を助け、それ以来の付き合いとなっていた。


「そうれはもう気にしなくてもいいんだけど……」


エミリーは僕に付き合い、よくやってくれていた。

彼女を助けた事を僕は貸し借りだなんて考えていないんだけど、仮にそれがあったとして、そんな物はもうとっくに彼女は返し終わっている。


「いえ!まだまだです!」


まったく、義理堅い子だ。


「それに私はこの世界に生きる者として、リョウ様による世界救済をお手伝いをしたいんです!」


「君にこんなに手伝って貰らうんだから、何としても世界を救わないとね」


僕の名は神童しんどうりょう

転生者だ。


「はい!宜しくお願いします!」


転生者である僕の使命は、――フォースを救う事だった。


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