第20話 忍者
「何者だ」
闇夜の、人影のない廃墟。
そこはかつて魔物の大襲撃によって滅びた街だ。
だが、誰もいない筈のその廃墟の一角に居を構える者がいた。
忍者アシダカ。
黒衣を身に纏い。
頭には口元まで隠れる、同じく黒い頭巾を被っている。
そしてその背中には、片刃の刃――カタナを背負っていた。
まあ所謂、こてこての忍者ルックって奴だ。
奴はその手を刀の柄にかけ、此方に向けて殺気を放つ。
今下手な動きを見せれば、間違いなく切りつけられてしまうだろう。
「俺だよ」
「貴様か」
声をかけた事で俺が誰かを理解し、殺気が弱まる。
どうやら警戒が解けた様だ。
勿論、親しい間柄ではないので完全にとはいかないが。
「居場所を突きとめたぜ」
忍者アシダカは、遥か東方の大陸から海を渡ってやって来たという設定になっている。
その理由はストーリー上では語られてはいないが、渡航中に船は沈没し、海に投げ出された彼はある魚村で保護されている。
そこでアシダカは療養生活を暫く送っていた訳だが……
体が回復して来た彼は漁村の役に立つ為、販売用の魚を近くの町への搬送を手伝う事になる。
だが彼が戻って来た時、その目に映ったのは破壊しつくされた漁村の姿だった。
やったのは鋼の牙。
奴らはその漁村の地下にある古代の神殿探索のため、ベースキャンプを作るのに邪魔な村を滅ぼしてしまったのだ。
因みに地下神殿にあったのはアサシン用装備であるキルソードと、呪術師用装備の死の呪玉である。
強いか弱いかで言うと……まあウンコ。
キルソードは攻撃力200で、クリティカル発生率がプラス20%されるだけの雑魚武器だ。
今の俺の鉄の剣より攻撃力が高いとはいえ、レベルカンストで装備する様な物ではない。
つまりウンコ。
片や死の呪玉は結構強力なのだが、超雑魚クラスの呪術師しか装備できない上に、装備中5秒に1%HPが減るとかいう糞仕様である。
そもそも呪術師用装備も、もっと強いのが簡単手に入る。
やはりこれもウンコ。
後々イベントで両方とも手に入る訳だが、ウンコなので俺は迷わず店売りしている。
そんな物の為に滅ぼされた漁村の人間は、哀れとしか言いようが無いだろう。
まあそんな事はどうでもいい。
鋼の牙に世話になった村を滅ぼされたアシダカは、復讐を誓う。
そしてそのアジトを探して大陸中を旅し、潰して周っているという訳だ。
んで、今俺がやっているクエストは彼に鋼の牙の隠れ家を教え、その殲滅を手伝う転職用のクエストだ。
報酬は忍者の証とか言う特殊なクナイで、それを使うと見事忍者に転職できるという訳である。
アジトの位置は別のクエストで得た情報だから、漏らしたら不味いんじゃないかだって?
この世界に守秘義務などない!
そう、この世界に守秘義務などないのだ!
まあ冗談はおいといて。
隠れ家の殲滅は盗賊ギルドにも益があるので、まったく問題なしだ。
目障りな存在を代わりに潰してやるわけだからな。
むしろお礼を言われてもいい位である。
「案内しろ」
「分かった。付いて来な」
俺はアシダカを連れ、例の森へと向かう。
距離はそう遠く離れておらず、森までは2時間ほどで到着する。
え?
そんな近くにあるのに、なんでアシダカは自分で見つけられなかったのかだって?
そんなもん、ゲーム的御都合に決まってるだろ?
まあ強いて理由を上げるなら、アシダカはどこの組織にも所属しない単独行動の一匹オオカミだからって所だな。
単独行動は、大組織所属よりどうしても情報という面で後れを取ってしまうもんだ。
森に付いた俺達は、アンデッドを蹴散らしながら隠れ家に向かってガンガン進む。
アシダカはレベル250の忍者なので、この森にいる魔物達は彼の敵ではない。
「――っ!?」
「うっ!」
アンデッドがはいって来れない様に結界の張ってある、鋼の牙のアジト。
そこには見張りが二人立っていたが、アシダカが一瞬で間合いを詰めて瞬殺してしまう。
忍者のお手本の様な素晴らしい動きである。
「確かに鋼の牙の隠れ家の様だな」
殺した奴らの胸元には、牙の印が刻まれている。
組織の一員の証だ。
普通なら、闇の組織の人間がそんな見られたら一発でバレそうな印は入れないだろう。
だが重ね重ねいうが、これはゲーム世界だ。
細かい事は気にしてはいけない。
「これは報酬だ。受け取れ」
アシダカが、黒いクナイを一本俺へと投げてよこす。
転職用アイテム、忍者の証である。
ゲットだぜ!
「一度忍者の道に踏み入れば、もう二度と戻れない。使うならば覚悟しろ」
アシダカが忠告してくる。
このゲームは一旦特殊クラスになると、もうそれ以降他のクラスには転職できなくなる仕様だ。
だが俺には関係ない。
そもそも、全部なかった事にされるから。
俺は早速、忍者の証を使って転職する。
『貴方に、忍者としての道を示しましょう』
女神の声と、例の転職エフェクトが発生して転職は完了する。
ステータスは速さが4、筋力・体力・器用が2づつ上昇。
初期スキルは2刀流と飛刃、それに分身を習得する。
さて、転職は終えたのでもうアシダカには用はない。
のだが――
「俺も付き合うぜ」
アシダカには最後まで付き合う事にする。
袖すり合うも多少の縁というからな。
などという感傷的な理由ではない。
もちろん狙いがあっての事だ。
この鋼の牙の隠れ家には、お宝物がいくつか置いてある。
それを頂くため、奴について行くのだ。
別に全部終わってから家探しすればいい?
残念ながら、アシダカについて行かなければそれらは手に入らなくなってしまう。
何故なら殲滅した後、奴はアジトに火を放ってしまうからだ。
全く迷惑な話である。
「……いいだろう。但し、自分の身は自分で守れよ」
「もちろんだ」
この隠れ家にいる奴らのレベルは150前後で、この森のアンデッドよりずっと強い。
もし複数に囲まれる様な事になってしまえば、今の俺じゃ最悪死亡もあり得た。
だが、アシダカにさえしっかりついて行けばその心配はない
何だかんだでお人好しな奴は、ちゃんとフォローしてくれるからな。
「いくぞ」
アシダカが扉を開け、中に飛び込んだ
俺はそれに続く。
「さて、スピード勝負だ」
アシダカから離れず、その上で確実に金になる物を回収する。
そんな素敵なミッション、スタート。
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