第19話 月光

鬱蒼とした薄暗い森の中、前方にアンデッドを3体確認する。

人型のマッチョ体形。

パワーグールだ。


「ケロッグ!月光だ!」


「げろげろ」


俺の指示に従い、ケロッグが月光のスキルを俺にかける。

これは武器に3分間光属性を付与するスキルだ。

残念ながら、単純な威力アップは見込めない。


まあだがアンデッドは光属性が弱点なので、それで十分だ。


「エーリルは下がってろ!」


そう指示を出して突っ込む。

エーリルの能力だと、狙われると面倒だからな。


「ぶううぅぅぅ……」


こちらに気付いたパワーグール達が雄叫びを上げ、飛び掛かって来た。

森の中は動きにくいが、こいつらは猿の様に器用に木を利用して素早く動き回って来る。


ハッキリ言って、この動きにくい森の中で3体同時に相手にして無傷で切り抜けるのは俺でも無理だ。


だからこそ、二回目の女神による転職を待つ必要があった。

多少の被ダメを覚悟して戦える様にするために。


ま、月光があるから待つ必要はなかったかもしれないけど……


目の前に迫った先頭のパワーグールが攻撃して来る。

俺はそれを躱さず、敢えて肩で受けとめた。


もりっと俺のHPが減る。


パワーグールは名前の通り、脳筋タイプで攻撃力が高い。

だが全く問題なかった。

態々受けたのも、回避する必要がないからだ。


何故なら――


「スラッシュ!」


その状態から無理やり剣を振るい、スキルで切りつける。

俺の攻撃がグールに直撃し、減っていたHPが一瞬で全快した。


月光の効果だ。


このスキルには追加効果として、与えたダメージ分のHPを回復する効果があった。

そして敵から受けるダメージより、俺が与えるダメージの方が大きい。

つまりこの効果がある間は、攻撃を一々躱す必要がないと言う訳だ。


ぶっちゃけ、スキルとしては破格の効果と言える。

ダメージ100%回復とか、他では考えられない物だからな。


「スラッシュ」


もう一度スラッシュを放つ。

クラスチェンジでもう一つ増えたので、待機時間を気にせず連続で放つ事が出来る。

更に次の一撃はクリティカルとなった。


「ぐぎゅえ……」


まずは一匹。

残り二匹は同時にかかって来た。

流石に二連打分は回復しきれないので、最低限躱しつつ処理する。


「ふぅ……楽勝だな」


本来パワーグールが3体もいたら、対処が面倒くさいので交戦を避ける所だ。

だが月光のお陰で、あっさりと勝てている。


ごり押し最高!


「タケルさん!レベルが49に上がりました!」


エーリルのレベルが早々に上がる。

今の3体の経験値が大きかったからだろう。

蜘蛛とこいつらとじゃ、経験値は段違いだからな。


因みに、俺は狩に際してゲーム時代より遥かに多くの安全マージンを取っていた。

万一、HPが0になってしまった場合の事を考えての措置だ。


ゲームなら経験値ペナルティで済むが、この世界だと普通に死ぬ可能性が高いからな。

無茶は出来ん。


「これならレベル100なんて、あっという間ですね」


「いやまあ、50までは結構すぐ上がるだろうけど。それ以降はそんなポンポン上がらんぞ」


「え、そうなんですか?」


「ああ。必要経験値が51から一気に上がるからな」


この手のゲームでは、レベル上げに壁――それまでとは比べ物にならない程、レベルを上げるのに必要となる経験値が増える事――が用意されている事が多い。

フォースエターナルも、50まではチュートリアルと言われるぐらい簡単にレベルが上がる仕様となっていて、51からは必要経験値が一気に跳ね上がってしまうのだ。


ま、本来なら壁って言う程でもないが。

普通ならそれまでサクサク上がっていたレベルが、少々上がりにくくなるな程度だからな。


だが必要経験値が100倍だとそうはいかない。

それでなくともきついレベル上げが更にってなる訳だから、リバースナイトにとっては十分壁と言えるだろう。


「まあそれでも、ここから2年もかからないだろうから安心しろ」


「よろしくお願いします!」


俺がリバースロードを育てていた時は、1月程でレベル100になっている。

それが可能だったのは、メインキャラの装備を流用していたからだ。

流石に今の条件だとそんな育成は絶対できないが、それでも後1年ちょっとあれば、十分辿り着ける計算ではあった。


2年といったのは、不確定要素を考慮した数字だ。


「コインは?」


「表が出ました」


エーリルの幸運はもう50を超えているので、五分の一でコインは表が出る様になっていた。

まだまだそれ程頻度は高くないが、【ひっくりカエル】を使う頻度は減って来ている。


「んじゃま、狩りと探索の続きをしようか」


この後、順調に狩りをしながら進み、俺は目的のアジトを発見する。

ま、ゲーム知識があるから最初っから場所は分かっていた訳だけどな。

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