第18話 重複

「君には東の森にあると思しき、鋼の牙の隠れ家の正確な位置を見つけて来て貰いたい」


ここは盗賊ギルド。

そのギルドマスターは、眼帯をした禿げ頭のおっさんだ。

彼は俺にある組織の隠れ家の探索を依頼する。


鋼の牙。

イベントがらみでちょくちょく名前のでる、大陸全土で活動する暗殺組織だ。

今回のクエストは、その隠れ家の一つを特定する事だった。


これは忍者への転職クエストの、前段階に当たる。


転職クエストは鋼の牙のアジトを一つ壊滅させるという物で、クエスト受注者でしかその隠れ家を見つけ出す事ができない。

そのため、この発見クエストが必須になるのだ。


「分かった。任せろ」


この依頼を受けるまでに色々とたらいまわしにされてしまっているが、そこは割愛しておく。

クッソ詰まらない只のお使いで、ケロッグのスキルや転移ゲートを使ってサクッと終わらせているからな。


因みに、転移ゲートってのは主要な大都市と大都市を結ぶ転移装置だ。

勿論ただではなく、転移料は結構高め。


「期待しているぞ」


依頼を受けた俺は、早速東の森――死の森へと向かう。

死の森は、アンデッドモンスターが闊歩する場所となっている。


その適正レベルは100前後。

以前のままの強さだったら、少々厳しいクエストと言えただろう。


――が、今の俺は以前の俺とは違うのだ!


女神の転職は、見事にボーナス獲得が重複してくれた。

更に言うならスキルもだ。

何か知らんが、同じスキルを複数持つ形で習得してまっている。


スキルや魔法は別扱いっぽく、待機時間を気にせず――まあ微々たるものだが――連続して使えるようになったし。

何より、マスタリーの重複が大きい。

ウェポンマスタリーは武器装備時攻撃力が2割上がる効果があり、現在その効果は2割×2で4割にまで上がっている。


正にうれしい誤算だ。


現在のステータスは――


【コモン】


名前:大和猛やまとたける


LV:1

HP:1155(660)

SP:195(170)

MP:195(150)


筋力:39

速度:39

体力:25

魔力:33

器用:9

幸運:9


――といった感じだ。


相変わらずの微妙ステではあるが、マスタリーの重複があるので、火力は戦士系と遜色ないと言っても過言ではないだろう

武器もこの5ヶ月で溜めたお金で1段階強化しているし、アンデッド如き襲るるに足らずである。


「今日は東の森に行くぞ」


「はい」


俺はカフェで待ち合わせしていたエーリルと合流し、席に座る。

道中アンデッドを狩りながら進む事になるので、当然その経験値は彼女に吸わせる予定だ。


何せ推奨レベル100前後の狩場だからな。

今までとは比べ物にならない経験値効率を叩き出せる筈。


「ご注文はいかがいたしましょう?」


俺が席に座るのを目聡く見つけたウェイターが注文を取りに来る。

別に一息つくつくつもりも無いので、何かを頼むつもりはない。


「いや、俺は――」


「あんまいアイスカフェオレがいいカッパ!」


普段はノロノロとしか動かないケロッグが、凄い勢いで俺の懐を這い上がって来たかと思うと、聞いてもないのに自らの要望を口にする――いつの間にやら変身済み。

デブの癖に、こういう時だけは機敏で困る。


因みに、成長しないだけで、普通の食べ物もケロッグは口にする事が出来る仕様だ。


「ダイエットしろ、デブ」


「デブじゃないカッパ!とにかくカフェオレが欲しいカッパ!」


「いいから黙って懐で寝てろ」


「まあまあ、お代は私が持ちますから。アイスカフェオレを一つお願いします、甘いので」


「畏まりました」


俺が呆れてケロッグを懐に押し込もうとすると、エーリルがそれを制して注文を通してしまう。


お代の問題ではないのだが……


「やったカッパ!正義は勝つカッパ!」


ダイエットしないデブの癖に、なーにが正義だ。

まあまだ懐に収まる範囲だから見逃してやるが、本格的にやばくなったら地獄のダイエットをお前は経験する事になるだろう。

それまで精々自堕落生活を楽しむがいい。


必要になれば本人の意思がどうであれ、ダイエットは強制する。

冗談抜きで命にかかわって来る部分だからな。


「やれやれ、エーリルはケロッグを甘やかしすぎだぞ」


「何だか可愛い妹が出来たみたいで、つい」


「妹ねぇ……」


「私、昔っから妹が欲しかったんです」


話を聞く限り、エーリルは家族とかかわらず――関わる事が出来なかったが正解か――生活して来たみたいだからな。

家族の親愛みたいな物に飢えているのかもしれない。


でなきゃ、太って羽の生えた河童を妹代わりにとは考えんだろう。

不憫な話である。


「来たカッパ!」


程なくしてカフェオレが運ばれてきた。

エーリルがそれに金属製のストローを刺し、デブに飲ませてやる。


「うまうま……」


美少女が珍妙なデブカッパにカフェオレを飲ませるシーンは、違和感が凄い。

エーリルには悪いが、どう見ても姉妹の微笑ましいシーンには見えなかった。


ま、どうでもいっか。

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