第17話 デブ

薄暗い渓谷。

そこで俺は狩をしていた。


「ふっ!」


俺は剣を振るい、目の前にいる熊サイズの巨大な蜘蛛の胴体を斬りつける。


マザースパイダー。


蜘蛛型のスピードタイプで、粘着糸の吹きかけによる鈍足デバフをかけて来たり、牙による麻痺や、爪による毒攻撃を持つモンスターだ。


粘着糸は立ち上がる様なモーションから、尻を向けての前方に向けて吹き出して来るので見切りやすい。

動きに合わせて、相手のサイドに回り込めば簡単に躱す事が出来るので大した脅威ではないだろう。


毒や麻痺のある攻撃も、余程油断しない限り喰らう事はない。

よって完封だ。


まあ複数相手だと若干厄介になる相手だが、ライフル使って基本単体を釣る様にしているのでその心配は殆どない。


「ギシャアアア!」


俺の攻撃を受けて、HPが0になった蜘蛛がそのまま崩れ落ちた。

その周囲に小さな――中型犬サイズの――蜘蛛が複数ポップする。


「お、当たりか」


マザースパイダーは倒した際、一定確率で子蜘蛛がポップする。

こいつらは弱くただ逃げるだけの存在なのだが、倒した際の経験値は親と同じなのでかなり美味しい。


「スラッシュ!」


ポップしたのは3匹。

まずはスラッシュで一匹倒し。


「はっ!」


更に一匹、子蜘蛛を倒す。

だが二匹を始末している間に、一匹には逃げられてしまう。


が――


「やあ!」


その一匹を、エーリルが手にした青い短剣で切り裂いて仕留める。


「ナイスだ」


エーリルのレベル上げを初めて、もう5ヶ月ほど経つ。

レベルも48まで上がっており、俺が動きの指導なんかもしているため、初めて会った頃とは比べ物にならない程彼女は強くなっていた。


まあそれでも、レベル的にみたら今一ではあるが。

主にステータス的に。


まあコイントスの都合上、幸運がメインのステータスになってるからしょうがないんだが……


幸運は主に製造系のステータスである。

一応クリティカル発生率アップの効果もあるが、幸運1につき上がるクリティカル率はたった0,1%しかない。

そのため、戦闘能力の大きな向上を期待出来るステータスではなかった。


戦闘職は幸運がほとんど上がらないのに、リバースナイトはその真逆を行くからな。


単純な強さに直結する筋力や速度がメインステータスではない以上、コインの補正込みで考えても、基礎能力はどうしても他職に劣ってしまう。

これは仕方がない事だ。


え?

最強格じゃなかったのかって?


もちろん最強格だぞ。

高レベルになると、強力なコイントス系のスキルが色々と増えて来るからな。

ま、要は大器晩成型って訳だ。


「上手く表がでてくれましたから」


エーリルが照れ臭そうにはにかむ。

彼女が逃げだしたモンスターに追いつけたのは、コイントススキルを使ったからだ。


リバースワープ。


表が出れば短距離――最大5メートル――ワープ。

裏が出ればHPが1割減少。


表が出る確率は、レベルアップ時のコイントスと同じだ。

裏が出たらHPが減ってしまうが、まあ1割程度なら微々たる物なので気にする程でもないだろう。


「さて、今日はこれぐらいにしとこう。明日は特別な日だからな」


「お誕生日ですか?」


「それよりもっといいもんさ」


明日は待ちに待った女神降臨日。

ガツンとステータスが上がるので、気分はウッキウキである。


え?

かぶりだから貰えない可能性もある?


考えたら負け。

信じる事こそ、勝利への第一歩だ。


「ケロッグ出て来い。転移を頼む」


「げぇろげぇろ」


声をかけると、ノロノロと這い登ってケロッグが首元から顔を出す。

その姿は丸々と肥え太っていた。

そこそこいい餌を食わせまくったら、太ってしまったのだ。


「カッパー」


ケロッグが妖精に変身する。

当然その姿も腹が出たぶくぶく太った姿だ。


「飛ぶの怠いカッパ」


彼女は気怠そうに、俺の肩にしがみつく。


「別に飛ばんでいいから、転移スキルを頼む」


ケロッグはこの5ヶ月で、成体の後期まで成長していた。

そして成長した事で使えるスキルが増え、町などに転移できるスキルを習得している。


まあその代償が、この太り切った姿な訳だが。


「お腹空いたカッパ」


「ちょい前に餌やっただろうが。我慢しろ」


成長のために食わせまくると決めてはいたが、流石にこう太られるとダイエットさせざる得ない。

これ以上太ってデカくなられると、懐に入れておけなくなってしまいかねないからな。


「お腹空いたカッパ!ご飯くれなきゃスキル使わないカッパ!!」


何処の世界にマスターの命令を断るテイムモンスターがいると言うのか。

変な挙動すんなよ、全く。


「糞デブが」


「太ってないカッパ!適性体重だカッパ!」


「適性体重の妖精は飛ぶのが怠いとか言わねーよ」


「細かい事を気にしないカッパ!とにかくご飯が欲しいカッパ!!」


「この豚野郎……」


アホな態度にぶん殴ってやりたい気分だが、それをすると俺のHPが減ってしまう。

厄介な仕様だ。


「まあまあタケルさん。ケロッグちゃんは凄くお腹が空いてるみたいですし、ここはご飯を上げましょう。はい、アーンして」


ケロッグといがみ合っていると、エーリルが割って入ってきて餌をやってしまう。


「うまうま……」


「うふふ。可愛いですね」


デブが飯を頬張る姿の何処が可愛いいんだか。

女の感性は理解できん。


「もう一個食べますか?」


「食べるカッパ!」


結局、餌を三つも食べてからケロッグは転移スキルを使用する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る