第15話 レベリング
「さて、さっさとクエストを終わらせるとするか」
俺は今、オークが住まう森へとやって来ていた。
ここへはエーリルのレベル上げ兼、俺のクラスチェンジクエストの為にやって来ている。
経験値効率だけなら、もっと別の場所の方がいいだろう。
だがとある事実が発覚し、今は少し事情が変わって来ていた。
「コーンはこの世界に一匹しかいないカッパ!」
ケロッグ曰く、コーンは単一の存在だそうだ。
現在のコーンが死んで初めて、次のコーンが生まれて来る。
そのためエーリルが手に入れるには、ケロッグが死ぬ必要があった。
まあその場合、俺も死ぬので当然それは却下だ。
じゃあどうするのか?
毎回レベルアップする度、俺に頼めば問題はないだろう。
だがそれだと問題がある。
リアルタイムでエーリルが絶望していく姿を、見せつけられてしまう事だ。
彼女は【ひっくりカエル】の効果さえあれば、二年半でレベル100まで上げられると思っている様だが、世の中そんなに甘くはない。
何せ表でも、結局経験値100倍な訳だからな。
エーリルは腕も知識も装備も初心者レベルと大差ない人間だ――俺から見ればミスリル如きは初心者装備に等しかった。
しかもリバースロードはコイントスで表が出ても、その成長やスキルの仕様上、低レベル時は驚く程弱い。
なので、その期間でそこまでもっていくのはまず無理だろうと俺は判断している。
そしてそうなると必然、リアルタイムで進行していくエーリルの絶望顔を拝む羽目になるだろう。
まあ基本
だったら報酬を盛大に吹っ掛けて、俺がレベリングしてやるのがいいかと考えた訳だ。
とは言え、俺の能力は30台の他の戦闘職より劣る。
武器もそこそこ強くなったとはいえ、まだまだ優秀とは言えないレベルだ。
今の武器の強さは――
【鉄の剣+21】
攻撃:5(+80)
【OP1】クリティカル+18%
【OP2】クリティカルダメージ+18%
【OP3】固定ダメージ+40
【OP4】カウンター+12%
【OP5】攻撃時状態異常
+21以降の効果だが、ここからは武器攻撃力の上昇は一律20上がる様に変わる。
強い武器の場合は下方修正だが、ゴミ武器だった鉄の剣にとっては超上方修正と言っていい。
それ以外だと、5つ目のオプションが追加される。
これは攻撃ヒット時に、毒、出血、呪いの状態異常が発生する効果だ。
発生率はあまり高くないが、攻撃のついでに出てくれるので損はないだろう。
ああ、そうそう。
出血が状態異常としてある事からも分る通り、普通の攻撃なんかだと、この世界では出血は起こらない仕様となっていた。
HPの仕様を知る為に以前自分を攻撃して色々試してみたのだが、どれだけ深く切りつけてもHPが減るだけで深い傷なんかは一瞬でふさがってしまう仕様だ――擦り傷なんかの小さな傷は、何故かそのまま残る。
それと感じる傷みも、明らかに怪我に対して軽い。
これは非常に助かる仕様だ。
強い痛みで気が動転したり、判断が鈍ってミスをする心配がなくなるからな。
で、防具は――
【小手+11】
防御力:1(+13)
【OP1】ダメージ減少(-9)
【OP2】出血耐性
【皮のジャケット+11】
防御力:2(+13)
【OP1】ダメージ減少(-9)
【OP2】毒耐性
防具のオバーエンチャント――OEによる上昇は武器と同じだ。
但し、+11以降の固定上昇は若干低くなっている。
【OP1】のダメージ減少は、物理魔法共にダメージを下げてくれる仕様だ。
但し毒や出血による状態異常のダメージは軽減してくれないし、武器オプションの固定ダメージなんかも減らしてはくれない。
これも+11以降は、上昇の最低保証値が武器より低くなっている。
【OP2】は異常に対する耐性だな。
初期の効果はかなり弱いが、OEを進めていくと強化されていく。
今のステータスとこの程度の装備で、高速レベリングなど夢のまた夢。
なので、俺は自身の強化を同時進行すべくこの狩場を選んでいた。
「さて、エーリルはもし敵に狙われたら防御に徹してくれ」
「は、はい!」
エーリルはミスリル装備で身を固めている――今回は盾を持って来させている――ので、レベル3ではあってもそう簡単に倒される事はないだろう。
とは言え、下手に戦闘に参加されても邪魔なので、亀になっておいてもらう。
「ケロッグは俺の懐から出て来るなよ」
こいつがダメージを喰らうと、おれのHPが減るからな。
武器オプションのカウンター効果発動のトリガーにはなるかもしれないが、そんな物は自分で適当に足でも殴ればいいだけの事。
防具効果のないケロッグで、意図せぬ大ダメージを喰らうリスクを背負う気はない。
「分かったカッパー!」
因みに、ケロッグはまだ幼体後期のままだ。
餌をドカ食いさせて成長させようにも、本人が腹を空かせてねぇと一切喰いやしねえ。
フォアグラ見習えっての。
「いるな」
森に入って程なく、オーク達を発見する。
少し開けた場所で休憩を取っている様で、隙だらけだ。
オークは人型の巨体に、豚の様な顔をした魔物である。
レベルは40代で、強さはそれ程大した事はない。
1対1なら今の俺なら瞬殺出来る程度だ。
問題は、奴らが集団で行動する事にあった。
この森で出て来るオークの種類は前衛タイプであるノーマルオーク――槍か大きな棍棒を手に持っている。
それに、後衛タイプのウィザードとアーチャーの3種類だ。
大体オークは前衛1から2匹、後衛1から2匹の編成で群れて行動している。
今回は棍棒持ち前衛2に、ウィザード1匹の編成だ。
「まあ楽な方だし、サクッと片付けるか」
オークの中で最も面倒くさいのは、弓を扱うアーチャーである。
同じ後衛でもウィザードの方が威力はあるが、詠唱が糞長いので攻撃頻度が低く対処しやすい。
それに対しアーチャーは結構素早く、ちょこまか逃げ回りながら弓をぺちぺち打ってきて面倒くさい存在だ。
奇襲が出来るのなら、オーク戦ではまず最初にこいつを片付けるのがソロの基本となっている。
「奇襲をかけるから、エーリルはここで待機だ。但し、他のオークが寄ってくるかもしれないからちゃんと周囲を警戒しろ」
戦闘になれば、オークは奇声を発する。
その声に他のオークが寄ってこないとも限らないのだ。
なので俺はエーリルに警戒を促す。
「は、はい」
「んで、万一襲われそうになったら俺に助けを呼ぶんだ。いいな」
「はい」
モンスター達はまだこちらに気付いていない。
事前準備として、まずは軽く自分の足を強く殴ってカウンターを発動させる。
剣で切ると、どれだけ軽く切っても――ヒットの仕方でダメージは変わる――武器オプションによる固定ダメージ(40)が入ってしまうからだ。
因みに、殴ってダメージが普通に出るのは、闘士のスキルである格闘マスタリーのお陰である。
これがなかったら、防具のオプション効果で完全に防がれてしまっていただろう。
「んじゃ、行って来る」
俺は木々の影を利用し、出来る限り音を立てずにオーク達に近づき奇襲を仕掛ける。
まずは一番処理しやすいウィザードからだ。
「スラッシュ!」
「ギャヒィ!?」
ウィザードの背中に、俺の攻撃がクリーンヒットする。
だが腐ってもオークなので、耐久力は後衛でもそこまで低くはないため一撃で仕留めるには至らない。
まあクリティカルが出れば一発だったが、18%じゃ早々毎回と言う訳にもいかない。
「ふっ!」
更に追撃を叩き込み、俺はウィザードを静める。
「ぎひゅうぅぅぅ!!」
「ぎゅああああぁぁぁ!!」
奇襲で仲間をやられたのオークが怒りの咆哮を上げる。
そして棍棒を振り回し、襲撃者である俺に襲い掛かって来た。
「当たるかよ」
オーク達の動きは単純だ。
ただただ手にした棍棒を俺に振り下ろして来るだけ。
タフネスなので後衛がいると――特にアーチャー――がいると面倒な壁になってしまうが、前衛二匹きだけなら対処は容易い。
何せ今の俺には、強化しまくった鉄の剣がある訳だからな。
「はっ!」
「ぎゅふうぅぅぅ……」
「ぎゅがぁぁぁ……」
敵の攻撃を躱しつつ、攻撃を集中させてまずは一匹処理。
そして残る一匹もサクッと始末して終わらせる。
「終了っと……」
ドロップはオークの牙。
これはクエストを受けている時だけに出る物で、これを集める事で転職用アイテムを手に入れる事が出来る。
アイテムを回収し、少し離れた場所にいるエーリルの元に戻ると……
「……」
エーリルが何故か小刻みに体を震わしていた。
何事かと思ったら――
「凄いです!こんなに直ぐにレベルアップするなんて!」
――レベルアップを喜んでいただけだった。
オークはレベルが40代だけあって、経験値の量が多い。
いくら100倍とは言え、レベル3程度ならまだ直ぐに上がるだろう。
きつくなってくるのはまだ先なので、喜ぶのは早いんだが……
まあそれを言って水を差す必要はないか。
「因みにコインの目は?」
確率が確立なので、当然裏にはなるだろうと思っている。
だが一応念のために確認してみた。
「あ……それは裏です」
エーリルのテンションが目に見えて下がる。
「ああ気にするな。とりあえず、暫くは【ひっくりカエル】無しで行こうか」
【ひっくりカエル】は効果時間30分で、対象に再度かけなおすには24時間かかる仕様であるため維持は出来ない。
オーク狩りなら低レベル時は10倍でもバンバンレベルが上がるので、上がり辛くなってきたと感じた所で使った方が効率はいいだろう。
「さて、じゃあ次の獲物を探すとしようか」
俺は経験値とクエストアイテムを求め、更に森の奥へと進む。
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