第13話 カッパ
「あれか……」
カエルの里。
ダンジョンマップは脳内に入っているので、その最奥と思わしき場所に向かうと小さな泉が沸いていた。
因みに道中のカエル共は積極的に狩ってきている。
戦うのは無駄じゃなかったのか?
入った時点と現在では、事情が変わっている。
なにせ、今の俺にはエーリルの育成という仕事があるからな。
そのため、道中の敵は避けずに始末して進んで来た訳だ。
パーティーシステムを使って、エーリルのレベル上げをする為に。
――パーティーシステム。
パーティーを組んでモンスターを狩れば、経験値が分配されるシステムだ。
2人なら1人50%、3人なら33,3%といった感じで頭割りされる。
但し、レベル差が9以上になると低い方には経験値が一切入らない。
まあネットゲーム等でよくある、パワーレベリングへの制限だ。
尤も、この制限は俺がエーリルを育てるのにおいて何の支障にもならいが。
何せ俺はレベル0固定だからな。
狩りにエーリルが10になっても、経験値が入らなくなるのは俺の方だけである。
全く影響なし。
「あの泉にケロッグちゃんを浸けると、スキルを覚えるんですか?」
「まあそう言う話だ」
鍛冶職人のただの与太話だった可能性も0ではない。
寧ろそっちの方が高い位だ。
なので、覚えたらラッキーくらいの感覚である。
「どれ、入れてみるか」
俺はケロッグを巾着から取り出し、泉に放り投げた。
「げろげろ」
泉から顔を出したケロッグが、雑な扱いに抗議して――何となく分かった――鳴く。
爬虫類如きが生意気な。
いや、エーリルの話が本当なら、精霊寄りの生き物だから実際は爬虫類でも何でもない訳だが。
「お!?」
「凄い!」
泉の水が光り、そして勢いよくケロッグを中心に渦を巻き出した。
ド派手なエフェクト。
やはりイベントだった様だ。
「けろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろけろ」
ケロッグが狂った様に鳴きだした。
自分に起こっている変化に興奮している様だ。
「ヤマトさん!泉の水が!!」
渦を巻いていた泉の水がどんどん減っていく。
まるでケロッグの体に吸い込まれていくかの様に。
いや、実際にケロッグの体が吸い込んでいるのだろう。
「全部なくなったな」
泉の水が完全に枯れる。
その底からケロッグが跳ね上がって来て、一回転して俺の肩に綺麗に着地した。
心なしか動きの切れがいい。
「どれどれ」
俺は早速、ケロッグのステータスを確認する。
【コーン幼体(後期)】
マスター:
名前:ケロッグ
LV:―
成長:250/300
HP:462
SP:88
MP:80
筋力:4
速度:7
体力:4
魔力:4
器用:4
幸運:4
【スキル】
・妖精変身
・月光
・ひっくりカエル
どうも動きの切れがいいと思ったら、中期だった筈のケロッグが後期に成長していた。
それに合わせてステータスも少しだけ上昇している
ケロッグが習得したスキルは三つ。
一つは妖精変身。
どうやらコーンは妖精に変身できる様だ。
カエルの癖に生意気な、と言いたい所だが、まあ精霊に近い存在らしいからな。
妖精に変身できてもおかしくはない。
二つ目は月光。
カエルの鳴き声である、ゲコゲコ辺りにかけてそうなそうな名前である。
効果は支援スキルで、武器に光の力を付与するという物だ。
威力の方は後で試してみるとする。
そして三つめが、エーリルの言っていたひっくりカエルだ。
支援スキルで、コイントスを自由に引っ繰り返す効果がある。
但し、1度かけた相手には24時間程かけなおしが出来ない。
使用者側ではなく、対象側にクールタイムが設定されるタイプだな。
「ひっくりカエルを覚えてるな」
「本当ですか!」
俺の報告に、エーリルが歓喜の声を上げる。
古い書物。
しかもその一冊だけにしか乗っていなかった情報だそうなので、間違っている可能性も十分考えられた。
なので確定して嬉しいのだろう。
「エーリルにもかけられるみたいだけど、試しにかけてみるか?」
既にエーリルのコイントスは確定している。
それもずっと以前に。
なので、今更かけても意味がない可能性は高い。
だが物は試しだ。
出来ない事を確認するのも、スキルの効果チェックの一環だからな。
「お……お願いします」
「けろけろ!」
心の中で俺が命じると、ケロッグが地面に降りてスキルを発動させる。
某テイマー小僧の様に、スキルを使わせるのに口にする必要はない。
あんなのこっちの行動が筒抜けだからな。
非効率極まりない話だ。
ケロッグの足元に光る魔法陣が生まれ、その口から光の玉が吐き出される。
それはエーリルに飛んでいき、彼女の体の中に吸い込まれた。
「あ……引っ繰り返せます!」
どうやら、今からでも効果で変更できる様だ。
「引っ繰り返したらレベルアップしました!!」
自身のレベルアップに、エーリルが歓喜の声を上げる。
裏のマイナス効果が表になった事で、必要経験値10倍が無くなった影響だろうと思われる。
しかし有難いな。
エーリルをパワーレベルリングする予定だったが、ケロッグが泉の効果でスキルを覚えてくれたお蔭で、それが相当楽になった。
経験値が十分の一で済む訳だからな。
それに彼女のステータスも上がるので、目的達成までに必要なレベルもかなり低く抑えられる。
これなら結構早く終わりそうだ。
いやまあ、それでも100倍だからそこそこ時間はかかるだろうが。
「おめでとう」
「ありがとうございます!」
取り敢えず、ひっくりカエルの効果は確認できた。
次は、妖精変身でも確認してみよう。
月光は敵がいないと確認しようがないから、帰り道で試すとする。
「げろん!」
ケロッグが跳ねあがり、空中でクルクルと回転する。
その体からは淡い光が放たれ、カエルだった姿が回転しながらだんだん人型へと変わっていく。
背中には羽の様な物も生えて来た。
「わあ、可愛い!」
変身完了。
その姿を見て、エーリルは可愛いと言うが……
「何で
その姿は手のひらサイズの、甲羅の代わりに透明な羽の生えた河童だった。
緑の体には、何か知らんがピンクのレオタードの様な物を身に着けている。
カッパと妖精を適当に合わせた様な、雑なビジュアル。
可愛いどころか、完全に不気味って言葉に両足突っ込んでる怪奇な見た目なんだが?
何でもかんでもかわいいと言う、女の感性は本当に意味不明だ。
因みに、胸の部分が膨らんでいる事から、ケロッグが雌だったという事が判明する。
果てしなくどうでもいい情報ではあるが。
「かっぱー!」
姿に合わせたのか、ケロッグの鳴き声がカエルからカッパの物へと変わる。
カッパの鳴き声雑過ぎ。
「ご主人様!お腹空いたカッパ!」
「え?お前喋れんの?」
カッパカッパ鳴くだけかと思ったら、ケロッグが普通に喋り出す。
流石にこれには俺も驚かされた。
まあ語尾に関しては突っ込むまい。
「変身したから喋れるカッパ!お腹空いたカッパ!」
「死ぬ訳じゃあるまいし、ダイエットしろ」
HPを確認したが、特に減ってはいない。
ならまだ不要だ。
泉のせいで成長が無駄にかそくしてしまっているからな。
これ以上の無駄な成長は、可能な限り抑えたい所である。
「カッパ!?太ってないカッパ!だからご飯欲しいカッパ!!」
ケロッグが空中でごろごろと転がり出す。
まるで子供のやる癇癪の様だ。
カエルの時はそんな真似しなかったのに、カッパに変身した影響か?
もしくは幼体後期に入ったからか。
どちらにせよウザさ倍増である。
「あの……凄くお腹を空かせてるみたいですし、ご飯を上げられてはいかがでしょうか」
HPが減っていないので、限界まで腹を空かせている訳ではない。
だがケロッグのオーバーな行動のせいで、俺が酷い事をしている様に見えてしまっているのだろう。
同情したエーリルが、おずおずとそう言って来た。
面倒臭い話ではあるが、これから行動を暫く一緒にする相手にろくでなしと思われるのは好ましくない。
ここは取り敢えず、餌をやっておいた方が無難だろう。
成長さえなければ、こんな悩みを抱える必要はないんだが。
全く、困った話し……
ん……そう言えば、ケロッグは普通に喋れるんだよな?
だったら――
「おい、ケロッグ。お前らコーンって種族は、成長したら体がデカくなったりするのか?これに答えたら飯をやる」
成長したら体が巨大化するのかを、俺は本人に尋ねてみた。
自分の事だから、知っている可能性は十分ある。
「本当カッパ!?コーンは一生小さなままカッパよ!」
どうやら大きくはならない様だ。
なら、もう何も気にする必要はない。
むしろ餌を食わせまくって、さっさと成長させた方が色々と有利だ。
「よし!たらふく喰え!」
俺は腰の革袋から餌をガッツリ取り出し、コーンに与えるのだった。
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