第12話 ナンバー2

「成程……それでコーンが欲しい訳か」


エーリルの話は中々に興味深い物だった。

コーンが面白いスキルを持っていた事もそうだが、何より、俺を驚かせたのは彼女の生まれついてのクラス――


リバースロードだ。


リバースロードは入手条件が特殊で、フォースエターナルにおいてこのクラスを所持しているプレイヤーは2人しかいない。


そう、俺とあいつだけだ……


フォースエターナルはサービス開始2年目から、年に一度の大型対人イベントを実装している。

アルティメット・チャンピオン・バトル。

通称、UCBと呼ばれる物だ。


これはフォースエターナル最強のプレイヤーを決める個人戦で、その優勝者は栄光以外にも、通常のプレイでは手に入らない報酬を受け取る事が出来た。

それがリバースロードである。


UCBはいままで4回開催されており、その優勝者は2人。

そのためリバースロードというクラスは、ゲーム内にまだ2体しか存在していない。


何故4回開催されたのに、優勝者が2人しかいないのか?


簡単な話である。

第一回から第三回までのUCB優勝者は、同一人物だからだ。


三連覇って奴さ。

そしてその三連覇の偉業を達成したのが俺――と言いたい所だが、残念ながら違う。

リョウと言うプレイヤーだ。


フォースエターナル最強の称号を冠するプレイヤー。

それがリョウである。


因みに、俺が優勝したのは第4回大会だ。


え?

リョウを倒して優勝したんなら、現最強はお前じゃないかって?


そうだったらどれだけ良かったか。


リョウは3連覇後、少ししてからログインしなくなっている。

ま、引退って奴だな。


そして奴不在のUCBで俺が優勝。


匿名掲示板では最強(笑)とか書かれてたな。

リョウは無敵だけど、こいつなら勝てそうとかも。


その時はカッとなって、思いっきりレスバしてしまった訳だが……


まあそんな事はどうでもいいか。


リバースロードの性能だが、育ち切れば文句なしの最強格と言えるスペックをしている。

但し育成はかなりきつく、特に序盤は地獄に近いと言っていいだろう。


まずその一員として挙げられるのが、必要経験値が100倍である点だ。

こいつをカンストのレベル300まで上げると言う事は、100キャラレベルカンストを作るのに等しい。

そう考えると、どれ程大変か分かるだろう。


更にこいつには、基本スキルとしてレベルコイントスと言う初期スキルが備わっている。

これはレベルアップ時に強制発動するスキルで、出るのが表か裏かで強烈な明暗の分かれる効果をしていた。


表の効果は全ステータス50%アップに、装備している武器の攻撃力50%アップだ。

逆に裏の効果は全ステータス50%ダウン。

更に武器の攻撃力70%ダウンに加え、次のレベルアップまでの必要経験値が10倍になるという驚異のデバフ付き。


表は天国。

裏は正に地獄。


因みに、表が出る確率は250分のXだ。

このXの所は、幸運の数字が当て嵌まる。


リバースロードは幸運が上がるクラスなので、レベルが上がって来ると表が出る確率が高くなる。

が、逆に言うと、低レベル時はひたすら裏が出続けると言う訳だ。


――その為、序盤は正に地獄の連続である。


だからこそ、エーリルはコーンを求めた。

どうやらコーンの覚えるスキル【ひっくりカエル】には、コイントスの結果を変更する効果がある様だ。

つまり、そのスキルを得られれば、常に表を出し続ける事が出来ると言う訳である。


そら必死にもなるわ。


「はい!お願いします!今すぐには大したお礼は出来ませんが、王家の一員と正式に認められれば多少の無茶は効きます!ですから!!」


そう言って、エーリルが頭を下げる。


最初リーバーシロードと聞いた時、実はこの子はリョウの奴が転生した――何らかの原因で死んだと仮定して――姿かと思ったのだが、まあ違うだろう。

クールな奴と彼女とでは、そのイメージが余りにもかけ離れすぎている。


そもそも、リョウなら同じ条件でもビッグトード如きに絶対負けたりしないだろうし。


「ふむ。少し言いにくいんだけど……」


事情が事情なだけに、譲ってやりたいのはやまやまだ。

が、ケロッグは既に契約して俺のテイムモンスターになってしまっている。

くださいと言われても、はい分かりましたとくれてやる事は出来ないのだ。


「もうこいつとは契約しちまってて、俺のテイムモンスターになっちまってるんだ」


「口に入れられたんですか!?」


どうやらエーリルは、コーンとの契約方法まで知っている様だ。

俺が契約済みと伝えると、驚いてその口元を押さえる。


カエルを口に突っ込むとか、どう考えても滅茶苦茶だからな。

彼女から見た俺は、きっと基地外に映ってる事だろう。


まあ不可抗力な訳だが。


「という訳で、譲る事は出来ない」


「そんな……」


エーリルが落胆して顔を俯かせる。

折角見つけた希望が遠のいたのだ、落ち込むのも無理はない。


だがまあ――


「こいつを譲る事は出来ないけど……別途手に入れる方法なら知ってるぜ」


「えっ!本当ですか!?」


俺の言葉に、エーリルは俯かせていた顔を跳ね上げる。

良い反応だ。


「もちろん……ただで教えるって訳にはいかないけどな」


彼女の境遇には、正直同情する。

俺がその立場だったら発狂物だ。


が、だからと言ってタダで情報をくれてやるほどお人好しではない。


俺には金が大量に必要なのだ。

オーバーエンチャントの為に。


「私の手持ちを……いえ、王宮に帰ればある程度ご用意できます!それでも足りなければ出世払いでお願いします!」


「いいぜ」


俺は自分がどうやってコーンを手に入れたかを、エーリルに教えてやる。

ついでに報酬の額も添えて。


「そんな方法が……ありがとうございます!お礼は必ず!!」


「礼を言うのはまだはやい。言っちゃなんだが、今の君の実力じゃ金のウサギを湖に叩き落すのは無理だ」


ビッグトードと、金のウサギの実力はどっこいどっこいレベルである。

ビッグトードに苦戦している様じゃ、ウサギを湖に叩き落すなど夢のまた夢。

それどころか、道中のポイズンウルフに毒を喰らいまくって湖まで辿り着けないまである。


「そこで、だ。追加報酬をくれるのなら、俺が手伝ってやってもいいぜ」


お金を稼ぐビッグチャンス。

そう判断した俺は、彼女の手伝いを申し出る。


さあ、ガッツリ稼ぐぞ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る