第11話 ミソッカス
私の名はエーリル・バルカン。
バルカン王国国王、グランジャー・バルカンの娘だ。
バルカン王家は神に選ばれた血筋と呼ばれ、生まれながらに特殊なクラスの力を持って生まれて来る。
それらは一般のクラスよりも遥かに優れており、それ故、バルカン王家では力を尊ぶ能力至上主義の風潮が強かった。
そしてそんな王家では、無能と判断された者は恥と切り捨てられ、名ばかりの王族に成り下がってしまう。
私の様に……
私のクラスはそれまでになかった、特殊な物だった。
だから生まれて直ぐは、お祭り騒ぎだったらしい。
新たな道を開拓する天運の持ち主が生まれたと。
だが魔法を使って初期スキルや特性を確認した所で、その致命的な欠点が露見する。
正に天国から地獄と言っていいだろう。
それ以降、私は王家の恥部として離宮に閉じ込められる形で過ごして来た。
「お久しぶりです、お母様」
私が15になったある日、唐突に母が離宮を訪れた。
顔を合わせるのは数年振りの事だ。
久しぶりに会いに来てくれた事が嬉しくて、私は浮かれる。
「貴方の婚約が決まったわ、お相手は――」
だがそんな私に、母は私の婚約を告げる。
相手は隣国の貴族で、年齢は50を超えている評判の悪い人物だった。
「……」
私は思わず固まってしまう。
ずっと年上。
しかもこの国まで悪い評判の響いている様な相手との婚約。
――それは私にとって、死刑宣告に近い言葉だった。
立場を考えれば、政略結婚が求められるのはある程度覚悟はしていた事だ。
だがまさかずっと年上の、それも酷い悪評のある人物に嫁がされるなんて流石に思っていないかった。
私は今年で15歳。
結婚は三年後の成人が済んでから執り行われると一方的に告げ、母は離宮を去っていった。
……天国から地獄とは、まさにこの事だろう。
呆然自失のまま自身の部屋に戻った私は、ベッドにうつ伏せに身を投げ出す。
最初はショックで何も考えられなかったが、次第に体の内から怒りが沸々と沸き上がって来た。
「いやだ……いやだ、いやだいやだいやだ!」
怒りをぶつけるかの様に、私はベッドに握りこぶしを何度も何度も叩きつける。
「何で私がこんな目に……」
世の中、探せば私より不幸な人間はきっといくらでもいるだろう。
だが、だからと言って自らの不幸を黙って受け入れる気には到底なれない。
「もっと普通のクラスだったら……」
何故こんな訳の分からないクラスで生まれて来たのか?
神を呪わずにはいられない。
だが嘆いた所で、現状が変わる事はない
なら、諦めて受け入れるのか?
そんなのは嫌だ。
絶対に。
「もう、こうなったらコーンを見つけるしかない……」
私もこの離宮でずっと遊んでいた訳ではない。
何とか書物を集め、自分の困難を乗り越えるための手段を探してはいたのだ。
そして見つけていた。
自分の境遇を逆転させる存在。
カエルタイプのモンスターと精霊の中間の存在である、コーンを。
「どこに居るのかは全く分からない。でも、何としても見つけ出さないと……」
コーンのみが持つとされるスキル。
【ひっくりカエル】
それだけが、私の窮地を引っ繰り返す事の出来る手段だ。
もうこれに賭けるしかない。
そう心に決めた私は、生まれて初めて
本来なら謁見までに相当長い時間が待たされる所だ。
だが、無茶な婚約者をあてがった事に対する負い目が僅かにでもあったのだろう。
ほんの数日で謁見は許可され、そこで私は膝を付いて父へと懇願する。
「お父様!どうか私に、婚約を破棄するチャンスを下さい!」
と。
「よかろう。自らの力で勝ち取って見せよ」
頂いた期間は二年半。
それまでに私のレベルを100まで上げる。
それが父から貰った、婚約破棄を許可する条件だった。
「ありがとうございます!!」
私はその足で騎士団へと向かい、身に着けられるミスリル装備を借り受けた。
ミスリル装備は国から配給される新兵用の装備なので、王族が身に着けるには不釣り合いな粗末な装備と言えるだろう。
だが既に我儘を聞いて貰っている身で、これ以上の贅沢は言えない。
私はミスリル装備を身に着け。
まずはこの国でカエルが集まる場所と言われている、カエルの里と呼ばれるダンジョンへと向かう。
単独で。
王族が護衛も無しでと思うかもしれないが、しょせん私はミソッカスでしかない。
しかも、これは自分の我儘を通すための行動だ。
そんな状況で、護衛などつけて貰える筈もない。
王家は力を尊ぶ。
きっと私が命を落とす事になっても、周囲は愚かな弱者が死んだ、程度にしか思わない事だろう。
「絶対コーンを見つけ出して見せるわ!」
決意を固め、私はカエルの里に乗り込んだ。
「くっ……」
付け焼刃ではあるが、事前に戦い方は練習しておいた。
出て来るモンスターの強さも大した事がないので、ミスリル装備さえあればどうにでもなる。
そう思っていたのだが……
全く上手く行かない。
想像以上に相手の動きが早く、私は防戦一方になってしまう。
一匹も真面に倒せないなんて……
幸い、ミスリル製の防具のお陰で相手の攻撃はほとんど効いていない。
だが攻撃できなければ、完全にジリ貧だ。
どうすればいいの……
普通なら一旦引き返し、十分レベルを上げてから挑戦するのがセオリーなのだろう。
だがその手は使えない。
何故なら――私のレベル上げには、通常の1000倍の経験値が必要となるからだ。
そしてそれこそが、私が切り捨てられた最大の理由だった。
「2年半しかないんだ……」
そんな状態でレベル上げなどしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまう。
だから無理をしてでも――
「きゃあっ!?」
無理やり攻撃を仕掛けようとしたら、そこに体当たりを受けて吹っ飛ばされてしまう。
「ゲコ!」
カエルが倒れている私に突っ込んで来る。
慌てて起き上がろうとするけど、体が痺れて動けない。
スタンを喰らってしまった様だ。
……不味い、このままだと滅多打ちにされてしまう。
スタンの効果時間は基本的に短い。
だから殺されてしまう様な事はないだろうが、それでも相当なダメージを受ける事になる。
そうなればもはや撤退しかない。
その時――
「ちっ!助けてやるんだから通報すんなよ!」
一人の男性が良く分からない言葉を発しながら、カエルと私との間に割り込んで来た。
どうやら私を助けてくれる気の様だ。
「スラッシュ!」
その人は容易くモンスターを圧倒してしまう。
「この狩場は君には早いと思うから、もっと安全な所で狩りをした方がいいと思うぞ。じゃあな」
そしてほんの僅かなやり取りの後、そう言って彼はその場を立ち去ろうとする。
「げろげろ!」
すると彼の首元から、小さな緑色のカエル型モンスターに似た生き物が姿を現して鳴き声を上げた。
「そ、そのモンスターはコーン!!」
カエル型モンスターは小さな物でも、両手で抱える様なサイズがある。
手のひらに乗る様なサイズはコーンだけだ。
まさか即発見に繋がるとは思っていなかった私は、思わず声を荒げてしまう。
「お願いします!どうかその子を私に譲ってください!」
正に幸運。
女神は私を見捨てていなかったのだ。
「何で王族がこんなカエルを欲しがってるんだ?」
彼に何故必要なのかと聞かれ、私はその理由を嘘偽りなく素直に答えた。
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