第10話 ガールミーツケロッグ
ビッグトードを軽く始末して振り返ると、少女はもう既に起き上っていた。
まあスタンの効果時間はそう長い物じゃないからな。
「ありがとうございます」
彼女は俺に対して礼を言い、深く頭を下げた。
「ああ、気にしなくていい。たまたま通りかかっただけだからな。しかし……」
洞窟内は薄暗い。
そのためハッキリと少女の姿が見えなかった。
だが改めて彼女の姿を見ると……
金髪のショートカットに糞デカい金の瞳。
顔立ちは丸味を帯びつつも整っており。
「私全然可愛くないから」とか女性特有のふざけた事を言おうものなら、鼻っ面に正拳突きをかましたくなる程の美少女だ。
まあこの際、顔の事はどうでもいいだろう。
どうせゲームのNPCは美少女だらけなのだから、気にする程の事ではない。
――問題は、彼女の身に着けていた装備である。
「どうも余計な手出しだったみたいだな」
「え?」
「その装備、ミスリル製だろ」
彼女の身に着けている装備。
胸当てや小手、それに手にした短剣は鮮やかな青色をしていた。
これは
◆◇
軽く頑丈で、防具に使えば魔法に対する耐性も期待出来る金属だ。
基本非売品で有り、装備は制作やモンスターのドロップでのみ入手できる。
推奨装備レベル帯は100前後。
◆◇◆◇◆
廃人視点で言わせて貰えれば、ミスリル装備は手に入っても店売り直行程度の価値しかない。
だがそれでも、レベル20台の狩場で使うには確実にオーバースペックと言える代物だ。
「その装備なら、さっきの体当たりだってたいしてダメージを喰らってなかっただろ?」
「あ、はい。でも、私凄く弱くて……装備のお陰で受けるダメージは小さくても、倒せたかどうかは……」
確かに、酷い動きではあった。
攻撃する余裕すらなかった様だし、やられなくても倒せないと言うのはあながち間違っていないのだろう。
通常、ミスリル装備を用意できるレベルの人間がビッグトード如きにタイマンで梃子摺るなんてあり得ない。
ましてや勝てないなどと。
だが、それはあくまでもプレイヤーの話だ。
彼女はいいとこのお嬢さんか何かで、真面に戦えないのに強装備で無理してたって考えればしっくりと来る。
まあ本当にいいとこのお嬢さんなら、なんで一人でこんなとこ来てんだって疑問は出るが……
「そうか。この狩場は君には早いと思うから、もっと安全な所で狩りをした方がいいと思うぞ。じゃあな」
なので諦めて、忠告だけしてさっさとこの場を去る事にする。
特に用はないからな。
「げろげろ!」
少女に背を向けようとした瞬間、インナーの内側に下げている巾着からケロッグが勢いよくよじ登ってきて、俺の首元から顔を出して鳴き始めた。
ダンジョンで鳴くなっつったのに。
どうやら、教育的指導が足りていなかった様である。
「そ、そのモンスターはコーン!!」
ケロッグの姿を見た少女が驚きの声を上げる。
コーンと言うのは種族名な訳だが、それを知っているという事は、彼女はケロッグについて何か知っている様だ。
「こいつの事を知ってるのか?」
「も、勿論です!私はコーンを手に入れるために、このダンジョンへとやって来たんですから!!」
コーン欲しさにこのダンジョンへとやって来た。
その言葉に俺は首を捻る。
カエルの里には何種類かのカエル型モンスターが住み着いてはいるが、その中にコーンは存在していないからだ。
もしここにいるのなら、俺がテイムするまでケロッグの存在を知らない訳がない。
それに手に入れると言う事は、テイムすると言う事だろう。
彼女はどうやらテイマーの様だが、フォースエターナルでのテイムはクエスト限定となっている。
そのため、仮にここにコーンがいたとしても手に入れる事は出来ないのだが……ひょっとして、
「お願いします!その子を私に譲ってください!お礼ならしますから!!」
少女が俺に『ぐっ』と身を寄せる様に迫り、必死にそう訴えかけて来る。
何の能力も持ち合わせていないこんなカエルが欲しいとか、物好きもいい所だ。
いや、普通に考えたらゴミの様なモンスターを金持ちが求める訳がない。
きっと俺が知らないだけで、育てれば何か優秀なスキルでも習得するのだろう。
「いや、ちょっと落ちついてくれ」
取り敢えずテンションがウザいので、落ち着く様に言う。
「はっ!?私とした事がつい我を忘れてしまって……すいません。そう言えばまだ名乗ってもいませんでしたね。助けて貰って、私なにやってるんだろう」
俺に落ち着けと言われて我に返ったのか、少女が離れ、自己紹介する。
「私の名はエーリル・バルカンと言います」
「バルカン?」
バルカンと言うのは、今俺がいる地帯を修める国の名である。
当然その名字を名乗っていいのは王族だけだ。
つまり彼女は――
「ひょっとして王族なのか?」
――王族と言う事になる。
ま、騙りでなければの話だが。
常識的に考えれば、こんな場所で王家の人間と出会う可能性は限りなく0に近い。
だがここはゲーム世界だ。
そういう事が絶対ないとは言い切れない物がある。
まあ疑う理由も無ければ信じる理由も特にないので、そこの判断は保留にしておくとしよう。
エーリルが王族かそうでないかなど、俺にとってはたいして重要な要素でもないからな。
「……はい。一応……王家の末席に名を置かして貰っています」
少しエーリルが言いよどみ、その表情が曇る。
何か事情がありそうな雰囲気だ。
ま、その辺りはどうでもいいか。
俺には全く関係ない話だし。
「何で王族がこんなカエルを欲しがってるんだ?」
とりあえず、何故コーンが欲しいのかその理由を俺は尋ねた。
――理由次第でケロッグを譲る。
なんて事は一切考えていない。
そもそも、ケロッグを彼女に渡すのは不可能だ。
テイムしたモンスターは、解雇する事が出来ない仕様だからな。
だからこそ俺も、ケロッグの扱いに困っていたのだ。
もし解除できるのなら、そもそもこんな場所に等来てはいない。
なので話を聞くのは、あくまでもケロッグについての情報収集の一環である。
「実は――」
エーリルは自分が何故コーンを求めているのかを、語り出す。
そしてその中には、俺を驚かせる『ある情報』が含まれていた。
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