第9話 雑魚かよ
カエルの里はレベル20代の狩場だ。
ゲームサービス開始当時は人気狩場で大混雑していた場所ではあるが、度重なるアップデートで美味しい狩場が追加されまくった結果、クエスト関連でカエルの足を集める用途以外ではもはや誰も寄り付かない超過疎狩場と化していた。
まあそのカエルの足集めのクエストも、新規でもなければすっ飛ばす程度の報酬なのだが……
「げこげこげこげこ!」
ダンジョンに入ると、胸元のケロッグがやかましく鳴き始める。
カエルだけに、同型種だらけのダンジョンに何か感じる者があるのだろう。
が……
「うっせー!大声で鳴いたら魔物が寄って来るだろうが!」
「げこぉ……」
軽く頭をはたいて黙らせる。
え?
小さなカエルを叩くとか虐待?
聞いてくれ……
カエルの足を集めるクエストの報酬は、経験値と初心者向けの専用装備だ。
当然専用装備は売れず、俺に至っては装備すらできない。
いや、正確には手に持って攻撃する事自体は出来るのだが……
但し初期武器と格闘以外での攻撃は、全て0になってしまう素敵仕様。
まあどちらにせよ、手に入れる価値は0だ。
そしてハンターギルドの褒章対象に、此処のモンスターは入っていない。
しかもドロップの殆どは、ゴミ値でしか売れないカエルの足のみ。
つまり、この狩場の金銭効率は終わっている訳だ。
しかも俺は経験値を必要としない。
この二つから導き出される答えは――
『カエルを狩っても完全に無駄』
――である。
此処まで聞けばもうお分かりだろう。
俺は敵を無視したいのだ!
が、ケロッグにゲコゲコ鳴かれていたのでは敵が無駄に寄って来てしまう。
それを可及的速やかに黙らせるには、暴力に訴えるしかない。
「そう!これは虐待ではなく戦術!」
という訳で、俺はカエルの里と呼ばれるダンジョンを進む。
岩肌剥き出しの内部は、湿度が高くじめじめしている。
本来洞窟などは真っ暗闇であるべきだが、此処はゲーム世界だ。
薄暗く若干見通しは悪いが、視界自体は問題なかった。
「ん?」
ダンジョンを少し進むと、カエルの鳴き声と、何故か人間の声が聞こえて来た。
どうやら、誰かがここでモンスターを狩っている様だ。
「こんな所で狩りとか、物好きな奴もいるもんだな」
少し先に進むと、狭い通路で金髪の少女がデカいカエルと戦っていた。
モンスターはビッグフロッグ。
人間サイズの緑の蛙で、このダンジョン最弱のモンスターだ。
相対する少女はパッと見、15-6歳ぐらい。
格好は軽装で、手に短剣を装備している事からクラスは盗賊系と予想される。
「ふむ……通路が狭すぎて、横を素通りし辛いな」
このまま進めば、戦っているギリギリ直ぐ横を通る事になるだろう。
だがそれは、フォースエターナルではマナー違反と捉えられる行為となっていた。
――他人が戦っているモンスターに手を出す行為を、MMO系ゲームでは横殴りと言う。
これは果てしなく嫌われる行動に当たり、厳しい裁定を下す運営の場合なんかは問答無用で
でも手を出さないのなら、特に問題ないのではないか?
まあそうとも言えるが、そもそも警戒させる行為――狩りをしているプレイヤーに無暗に接近する等――自体、暗黙のルールとして忌避されているのがフォースエターナルだ。
「ゲーム廃人として、それを破るのは好ましくない。素直に戦闘が終わるのを待つか……」
バグを利用している癖に、そこは順守するのか?
そこは仕方がないだろう。
やらんとゲーム自体が成り立たない訳だし。
ケースバイケースである。
「ていうか……ひょっとして負ける?」
さっきから少女が押されまくっていた。
カエルの攻撃に防御と回避一辺倒で、それも上手く出来ていない感じだ。
「どこの初心者だよ。雑魚カエルなんて、適当に攻撃躱して斬りつけるだけだろうに」
「きゃあっ!?」
カエルの体当たりを受けて、少女が俺の直ぐ傍まで吹っ飛んで来た。
体当たりは威力高めで、ノックバック&低確率スタン付きの攻撃スキルだ。
「不味いなこりゃ……」
今のは結構喰らったはず。
しかも倒れて動かない所を見ると、スタンも喰らってしまっている様だ。
打たれ弱い盗賊で、このまま連続攻撃を喰らったら冗談抜きで死にかねない。
これがゲームなら「さっさとリスタートしろ糞雑魚が」と思う所だが、ここはゲームそのまんまであっても、一応は現実の世界だ。
死ねば完全にゲームオーバーである――少なくとも、NPC共はそうっぽい。
「ゲコ!」
ビッグトードが此方に突進して来た。
「ちっ!助けてやるんだから通報すんなよ!」
俺は離れるかどうか少し迷ってから、少女を救うため加勢する事に決める。
ゲーム世界で何処に通報するんだって気はするが、まあなんとなくだ。
「ゲコゲコ!」
ビッグトートが倒れたままの少女を舌で攻撃しようとする。
それを俺は剣で弾き、奴の懐に潜り込んだ。
「スラッシュ!」
「ゲコォ!」
俺の放ったスラッシュが綺麗に決まる。
だが、流石に一撃とはいかない。
なので、そのまま相手に反撃の隙を与えず滅多打ちにしてやる。
俺からすれば、ビックトードをボコるのなど朝飯前だ。
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