第8話 イベント?
「こい!こい!こいぃ!!」
目の前で、厳ついおっさんが槌を振り上げる。
俺は強く願う。
今度こそ成功してくれ、と。
何を?
勿論、オーバーエンチャントをだ。
現在俺の鉄の剣は+10。
エンチャントが成功すれば、+11の大台に乗る。
え?
大台は切りよく+10じゃないのかって?
まあ数字上はそうだな。
だがフォースエターナルでは、+11以降のオーバーエンチャントはそれまでよりも強化具合が上がる。
更に新しいオプションが追加され、見た目の方も白いオーラの様な物が纏わりつくカッコいいエフェクトが発生するのだ。
そのため、俺の中では+11からが大台という認識だった。
「おぉ!」
鍛冶職人の槌が俺の剣に叩きつけられた瞬間、鍛冶台の上に置かれている俺の剣から星が散らばり、刀身から白い光滲みだす。
これぞまさに+11の輝き!
「よし!やっと成功だ!!」
長かった。
+10から11に上げる際の成功率は30%だ。
なので運が悪くても、5回程度で成功すると思っていた。
が、ドハマりしてしまう。
通算12回目でやっと成功である。
お蔭で1月近く金策する羽目になってしまった。
全く、ついてねーぜ。
「おっさん、ありがとよ!」
「おう、成功してよかったな」
鍛冶職人のおっさんから鉄の剣を受け取り、ステータスを確認する。
【鉄の剣+11】
攻撃:5(+15)
【OP1】クリティカル+8%
【OP2】クリティカルダメージ+8%
【OP3】固定ダメージ+10
【OP4】カウンター+2%
さて、+11からの変更点だが――
・強化時の攻撃力上昇が基礎地の10%から15%に上昇(攻撃力5の鉄の剣には関係ないけど)。
・攻撃力上昇値の最低保証が、1から5に増加。
・オプションの固定ダメージ上昇が、5%から8%に上昇(これまた鉄の剣には関係ない)
・オプションの固定ダメージ上昇値の最低保証が1から3増加。
・4つ目のオプションとしてカウンター効果が付く。
・効果は1段階につき+2%。
――といった感じだ。
糞弱い鉄の剣にとって、強化の最低保証系が大幅に上がってくれるのは果てしなく大きい。
何せそれまでは固定ダメージと合わせて(大雑把に計算)1段階で2しか上がらなかった攻撃力の上昇が、一気に4倍の8に上がる訳だからな。
武器のオーバーエンチャントは、ここからが本場と言っていいだろう。
4つ目のオプションであるカウンターは、ダメージを喰らうと次の攻撃がヒットした際のダメージが上がると言う効果だ。
発生条件が『ダメージを喰らう』なので、実は別に敵からの攻撃でなくともよかったりする。
毒とか、自傷ダメージでもオッケーだ。
「ケロケロっ!」
武器を見て悦に浸っていると、首にかけた巾着から蛙が出てきて来た。
そして可愛らしく鳴きながら俺の首元に頭を擦り付けて来る。
こいつの名前はケロッグ。
適当に付けた。
「やれやれ、腹が減ったのか?」
こいつがこういった媚びを売って来る時は、基本腹が減った時だ。
俺は軽く溜息をつき、インベントリからテイムモンスター用の一番安い餌を出す。
☆安物の餌。
テイムモンスターの成長をほんの僅かだけ促す効果がある。
餌は飴玉サイズだ。
俺はそれを一粒摘まみ、くれてやる。
「ケロォ!」
ケロッグが勢いよく食いつき、餌を丸呑みしてしまう。
蛙の辞書に咀嚼の文字などないのだ。
丸のみが基本。
「まったく……」
最初は一切餌をやらないつもりだった
成長して万一デカくなられた日には、胸にしまって守るという行動がとれなくなってしまうからだ。
小さいままでいて貰わなければ困る。
そう思っていたのだが、恐ろしい事実が判明してしまう。
ゲームでは餌をやらなくとも不休で働くテイムモンスターだが、このゲーム世界では腹を減らす仕様だった。
そしてそれを放置して空腹が進行すると――
HPが減り出す。
そう、HPが減るのだ。
当然HPは連動しているので、俺のHPも同じ様に減る。
――つまりケロッグの餓死は、俺の餓死でもある訳だ。
「厄介極まりない話だ」
当然それを放置できる訳も無く。
俺は渋々、ケロッグに餌をやっているという分けである。
「ずいぶん可愛いの飼ってるじゃねぇか」
鍛冶職人のおっさんが、ケロッグを可愛いと言う。
爬虫類愛好家か何かだろうか?
因みに俺は、カエルやトカゲを可愛いと思った事は今まで一度もない。
「お前さん、テイマーなのか?」
「まあ一応、そうなるかな」
実際は違うが、事情を説明するのも面倒くさいので適当に肯定しておく。
ゲームだと鍛冶職人のおっさんが自分から話しかけて来る様な事はないのだが、テイムモンスターが腹を減らす事と言い、どうやらゲームとゲーム世界には若干仕様の違いがある様だ。
「そういや昔、俺はこんな噂話を聞いた事があるぞ。カエルの里の奥にある泉に、カエル型のテイムモンスターを入れるとスキルを習得するってな」
「えっ!?マジで?」
カエルの里。
里と呼ばれてはいるが、実際はダンジョンだ。
カエルだけが出現する事から、里と言う名が付けられている。
「まああくまでも噂話だ。気になる様なら、行って確かめて来な」
カエルの里の泉に浸けると、カエル型モンスターはスキルを覚える……か。
聞いた事のない情報だ。
これがただの与太話でないと仮定するなら、特定の条件――ケロッグのテイム――を満たす事で始まる、フラグイベントの可能性が高い。
「おっさん、情報ありがとな」
「何、お前さんはお得意様だからな」
俺は鍛冶職人のおっさんに礼を言い、工房を出てカエルの里へと向かう事を決める。
何せケロッグは、絶賛成長中だからな。
いずれ大きくなるという最悪の想定をするなら、自衛手段を持たせられないとまずい事になる。
可能な限り強化せんと。
まあ貰えるスキルが必ずしも有用とは限らないが……
「強力な防御スキルとかだと助かる」
もしくは自己回復とか。
とにかく、カエルの里に向かうとしよう。
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