第6話 ゲロげーろ

鉄の金のウサギってなんだ?


黄金の鉄の塊の親戚?

まあそこは置いておこう。


一瞬あっけに捕らわれてしまったが、恐らくこれはイベントだ。


「聞こえなかったか?貴様の落としたのは金のウサギか?それとも、この鉄の金のウサギか?」


廃人である俺の知らないイベント。

発生条件は、金のウサギを湖に落とすって所だろう。

そら発見されんわ。


このイベントはどう考えても、西洋の童話のアレをパク……モチーフにしてる。


出て来る湖の精を、女性から古代ローマにいそうなマッチョに変えている点。

また、銀の部分を鉄に変えている辺り、運営のセコさが良くにじみ出ているイベントである。


いったい何を恐れて、こんな変更を加えたのやら。


さて、俺はどう返事した物かと思案する。

大本は鉄を落として、それを素直に答えて御褒美を貰っている。


なら鉄と答えるべきか?


だがそもそも、俺はウサギなど落としていない。

勝手に落ちたのだって、金のウサギだ。

つまり童話通り鉄と答えると、嘘を吐いた事になる。


この童話の肝は、誠実である事。


つまり嘘はつかず、正直に話すのが一番と言う事だ。

だから俺は正直に答えた。


「いいえ、どちらも落としていません。でも両方下さい」


――欲望というエッセンスを少々加えて。


何もいらないって言ったら嘘になるからな。

お金になる金のウサギは勿論だが、謎だらけな鉄の金のウサギにも興味がある。

ぶっちゃけ、両方欲しい。


それが嘘偽らざる、俺の本音だ。

ファイナルアンサー!


いやまあ最後の一言はいらんかった気もするが、まあ大丈夫だろう。

選択肢のポップが出ない自分で考えて答えを出すタイプのクエストは、判定が緩いと相場が決まっているのだ。


「貴様は自分に正直だな。そんな貴様には――」


「あっ!」


マッチョが無造作に、手にしていたウサギを両方ともぽいと泉に投げ捨ててしまう。

どうやら選択を誤って――


「特別にこれをやろう」


――と思ったが、マッチョは懐に手をやりもぞもぞとさせる。


ウサギの代わりに何かくれる様だ。

アイテムか装備かは分からんが、出来れば金のウサギ以上の金銭価値の物で有れば有難い。


「……」


期待を込めて見ていると、マッチョが緑色の手のひらサイズの蛙を掴んで胸元から取り出してくる。


……胸元になんちゅうもん入れてんだ、このおっさんは。


てか、それが報酬?

ぱっと見、普通の蛙にしか見えないんだが?

クエストアイテムか何かだろうか?


「さあ、受け取るがいい」


マッチョは蛙を両手で掴み、ゆっくりとピッチャー振りかぶってのポーズを取る。

何をする気だとポカーンと眺めていたら、次の瞬間、奴は勢いよく俺に向かって蛙を投げつけた。


「ぶえっ!?おえぇぇ……」


突然の事で躱す間もなかった。

高速で飛んで来た蛙は、半開きになっていた俺の口に見事にホールインワン。

慌てて俺はそれを吐き出す。


気持ちわる!


「テメー!何しやがる!!」


「礼には及ばん。ではさらばだ」


「礼などしとらんわ!」


水の精(マッチョ)は俺の苦情などスルーして、そのままさっさと水の中に消えてしまう。

なんちゅう不快なイベントだ。


「ん?」


その時、突然目の前に青っぽいウィンドウが開いた。

そこには――


『コーンのテイムに成功しました』


「は?」


テイム?

コーンってなんだ?


「まさか――」


視線を下に向けると、先程吐き出した蛙が『ゲコゲコ』と鳴きながら俺の足元で楽しげにピョンピョン飛び跳ねている。

そして俺には、そいつのステータスが見えた。


【コーン幼体(初期)】


マスター:大和猛やまとたける

名前:none


LV:―

成長:0/100

HP:462

SP:88

MP:80


筋力:1

速度:4

体力:1

魔力:1

器用:1

幸運:1


『契約方法:口に入れる』


「……」


どんな強制契約だよ!


Nの字で始まる公共放送もびっくりレベルだ。

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