第5話 あなたの落としたのは……
「ぶもぉぉぉ!」
体長1メートル程。
丸々と固太りした体に、鋭い二本の牙を生やしたイノシシが突っ込んで来る。
魔物名はラッシュボア。
名前の通り、ひたすら突進を繰り返して来る魔物だ。
そのため、処理自体は簡単である。
「スラッシュ!」
突っ込んで来たイノシシを躱しながら、俺は攻撃スキルを発動させる。
スラッシュは消費SP5。
効果は攻撃力が20%増すという物だ。
再使用までの
初期スキルなのでたいして強くはないが、それでもないよりはましである。
「ぶふぅっ!」
手応えで分る。
クリティカルだ。
今のでかなりダメージが通ったはず。
「ぶうぅ!」
だがラッシュボアは構わず、再度突っ込んで来る。
正に猪突猛進。
俺は攻撃を躱しつつ、2撃、3撃と更に攻撃を加えていく。
え?
木に登って魔法作戦は使わないのかって?
イノシシは木に登って来るからその手は使えない。
何でオオカミは登れなくてそっちは登れんだよって思わなくもないが、そう言う仕様だから仕方がない。
だってゲームだし。
「よし」
4発目の攻撃で力尽きたラッシュボアが、地面に崩れ落ちた。
ドロップ品はラッシュボアの肉で、死体から出た光る球の中にでかいブロック肉が入っている。
因みにラッシュボアの肉は――
臭い!
固い!
不味い!
――の三拍子が揃った無敵の食材だ。
つまりゴミ。
まあ一応はした金とは言え売れるので、俺は革袋にそれをしまう。
「ふぅ……+5とはいっても、やっぱ鉄の剣じゃ今一だな」
【鉄の剣+5】
攻撃:5(+5)
【OP1】クリティカル+2%
【OP2】クリティカルダメージ+2%
【OP3】固定ダメージ+2
武器のエンチャントは、プラス10までは武器の基本攻撃力――左の5の数字――の10%づつ攻撃力が加算される。
攻撃力5の鉄の剣の10%は0,5しかないが、上昇値には最低保証があった。
最低保証は1なので、5段階強化した現在の攻撃力の加算は5となっている――右の括弧内の数字。
つまり、今の鉄の剣の攻撃力は5+5で10と言う事だ。
初心者がレベル20代で使うであろう鋼の剣は攻撃力20なので、まだまだ弱いと言わざる得ない。
頑張ってお金を稼ぎ、ガンガン強化していかないとな。
それとオーバーエンチャントに成功すると、装備種類ごとにオプションが付く。
剣の場合はクリティカル発生率アップと、クリティカルダメージが一段階ごとに1%。
それに基本攻撃力の3%が固定ダメージとして段階ごとに付与される。
これも固定ダメージの方も最低保証があり、攻撃力の低い武器でも10段階までは1づつプラスされていく感じだ。
「お、ウサギ発見!」
更に森の中の探索を進めると、少し開けた場所――湖畔に出た。
そしてその湖の畔で、キンキンキラキラのド派手な金色をウサギを発見する。
お金の元――金ウサギだ。
「死ねおらぁ!」
見つけた嬉しさにテンションが上がり、ついつい雄叫びを上げて突っ込んでしまった。
でも安心して欲しい。
他のゲームだとレアモンスターは直ぐ逃げるってイメージはあるが、この金ウサギは弱いくせに、最後まで狂った様に攻撃を仕掛けて来る狂戦士仕様だ。
逃げられる心配はない。
「きゅうん!」
「ちっ!外したか――あっ!」
突っ込んで剣を振ったら、後ろに大きく飛んで躱した金ウサギが湖に落ちてしまった。
そしてそのまま沈んで消えてしまう。
「……えーっと、バグか?」
魔物が水に落ちて溺れて消えるとか、初めて見るんだが?
ていうか、この場合ドロップはどうなるんだ?
ひょっとしてロスト?
……マジ勘弁しろよ。
プレイヤーに有利に働くバグは直ぐに治す癖に、こういうのは当たり前の様に残しやがって。
糞運営め。
いやまあ、単に発見されていない――現に俺も知らなかったし――だけの可能性もあるが。
もしくはゲームではなく、ゲーム世界としての違いという可能性もある。
と言うかその可能性が果てしく高そうだ。
「んあ?」
折角見つけた金ウサギを逃したのでがっくりしていると、急に湖にポコポコと泡が立ちだした。
金ウサギの落ちた辺りだ。
それはどんどんと勢いを増し、水面に大きな波紋を生み出す。
そして、その中から――
「貴様が落としたのは……」
白い布の様な服を体に巻き。
頭には月桂冠を被った。
白髪に白髭の。
――マッチョが出て来た。
その手には、右に金のウサギ。
そして左手には、なんか鉄っぽい見た目のウサギが握られている。
そしてそのマッチョは――
「この金のウサギか?それとも鉄の金のウサギか?」
と、聞いて来た。
……
…………
………………
鉄の金のウサギって何?
俺は意味不明な展開に、そんな事をぼんやりと考えるのだった。
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