第4話 金銭狩場

目の前には、鬱蒼とした森が広がっている。

スタートの街の、少し東にある森だ。


「さて、金ウサギ狩りの開始だな」


武器の強化を終えた――金が尽きた――俺は、早速金策を始める。


そのために、まずはハンターギルドに登録。

ハンターギルド員は特定の魔物を狩ると、褒章が出る様になっていた――倒したかどうかの判定はギルド証が勝手に判定してくれる。


そして魔物は倒すと、ゲーム等でよくあるアイテムがドロップする仕様だ。

大抵は素材で、それを売りさばくために商人ギルドにも登録しておいた。


褒章と、素材の売却。

これがこのゲームの金策の基本となっている。


一攫千金はないのか?


勿論ある。

が、俺の戦えるレベルでそんな物に挑める訳もない。

そう言うのは、強いボス級を狩れて初めて成立する物だ。


今の俺に出来る事は、狩れるであろう範囲で最高の金銭効率を追求する事だけ。

そしてそれが金ウサギ狩りである。


「金ウサギがいっぱい出てくれるといいんだがな」


金ウサギはレアモンスターだ。

そのため、その生息数は少ない。

こいつをいかに見つけて狩るかが、金銭効率に直結していると言っていいだろう。


因みに、こいつ以外のモンスターは激マズレベルだ。


ドロップはほぼゴミ。

経験値も鼻糞レベル。

褒章対象なのが唯一の救いだが、それも雀の涙。


そのため、ここは金ウサギがいなければ完全にゴミ以外何物でもない狩場となっている。


更にその金銭効率も、レベルを上げて強くなりさえすれば自然と上がっていくので、経験値を捨ててまでこの狩場に来る者は少ない。

かくいう俺も、此処には片手で数えられる程しか来た事がなった。


「ま、今の俺には経験値関係ないからな」


俺のチート?である初期レベル固定。

それのせいで俺はレベルが上がらない。

そのため、経験値効率を一切気にする必要がないのだ。


因みに、俺が魔物を倒しても経験値自体入って来ない可能性が高い。


このゲームのステータスは、レベルの横に現在の経験値と、レベルアップまでの経験値が表示される。

だが、俺のステータスにはそれ自体がないのだ。


「経験値が入るなら、レベルリセットで無限成長的なバグを期待できたんだがなぁ……」


まあ出来ない物は仕方がない。

今はお金稼ぎに集中するとしよう。


そして装備強化だ!


俺は森の中に入り、早速金ウサギの探索を始める。

最初に遭遇したのは緑色の狼。

ポイズンウルフだ。


体長は2メートル程とそれほど大きくはないが――


「いきなりこいつかよ」


ポイズンウルフはこの森で一番厄介な魔物だ。

緑色とか言う見た目の毒々しさから分かる通り、奴は毒を持っている。


経験値×。

金銭×。

毒〇。


誰がこんなモンスターを好んで狩るのか?

完全に嫌がらせの為に配置されたとしか思えない。


「ぐるるるる」


ポイズンウルフが唸り声を上げて近づいて来る。

その口の端から垂れる涎も緑色で、いかにも毒ですよってのがにじみ出ていた。

息めっちゃ臭そう。


「毒消しは一応買って来てるけど……数はそんなにないし、出来るだけ喰らわない様にしないとな」


調子に乗ってオーバーエンチャントしたせいで、狩りに必要な物は最低限しか買えていない。

その分は知識プレイヤースキルでカバーだ。


「ちょっとせこいけど、あの手を使うか」


「ぐぉう!」


ある程度距離が詰まった所で、ポイズンウルフが一気に襲い掛かって来た。


開けた場所とは違い、此処は森の中。

足場も悪ければ、周囲の木々が動きを制限してくる。

そのため、大立ち回りには向かない。


だが――


本来なら邪魔にしかならない地形だが、俺は逆にそれを利用する。

直ぐ傍の木に取り付き、素早く高い枝まで昇って攻撃をやり過ごした。


「へっ!テメーは昇って来れねぇだろ!」


木登り。

これはゲームでも普通に出来る行動となっている。

鳥や猿の様な、木の上にも魔物がいる為だ――そいつらを近接攻撃で倒すには、木に登る必要がある。


俺はその仕様を使い、木に昇れないポイズンウルフの攻撃を無力化してやった。


この状態なら攻撃は喰らわない。

正に手も足も出ないとはこの事だろう。

ウルフが悔し気に唸り、必死に木の幹をがりがりしてくる。


「ざまぁ!」


煽ってるけど、お前だって攻撃できないじゃないか?


おいおい、忘れたのか?

俺には魔法があるんだぜ?


「コールド!」


俺は魔法を詠唱し、氷系の初期魔法を放つ。

魔法――冷気の塊が直撃したポイズンウルフの体表が僅かに凍り付いた。


「あんま効いてないな。所詮は初級魔法か」


魔力がそれ程高くないと言うのもあるだろう。

しょせん前衛寄りのバランスステだからな。


「手間がかかりそうだ」


動物なら、氷より火の魔法の方が効くんじゃないか?


いや、弱点も耐性もないからダメージは同じだ。

一応、魔法の副次効果としての状態異常――火傷・凍傷という違いはあるが、発生率は超低いし効果も誤差でしかない。


因みに、どっちでもいいのにコールドを選んだのには訳がある。


炎の魔法だと、木が燃えてしまう可能性があったからだ。

ゲームではこの手のオブジェクトは燃えたりしないんだが、ここは現実っぽい世界だからな。

一応、慎重を期したと言う訳だ。


「森の木が燃えるかどうかは、後で確認しとかんとな」


役に立つかどうかは分からないが、仕様は把握して損する事はない。


俺はそのままポイズンウルフにコールドをぶちかまし続ける。

初期魔法は消費がたったの2で撃てるので、重複転職で80もある俺のMPが枯渇する心配はないだろう。


「ぎゅおう!」


HPを削り切られたポイズンウルフが断末魔の声を上げてその場で倒れ、奴の死体から小さな光の玉が浮かび上がる。

その中には、二本の牙が見えた。

ドロップアイテムだ。


「12発か……」


想像以上に魔法の火力は低かった。

せめて補正のある杖でも装備できればマシになるんだろうが、初期装備固定だからまあ無理である。


「魔法にはあんまり期待しない方がいいな」


俺は木から降りて、ドロップ品を腰の革袋にしまう。


あ、そうそう。

この革袋はインベントリ仕様だ。

だから剣とか鎧なんかの大きな物も、普通に収納する事ができる様になっている。


「さて、金ウサギちゃん早く出ておいでー」


取り敢えず初戦闘は完封。

さあ、金ウサギ探索を再開するとしよう。

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