第3話 目先の
「むう……リセット無限強化は出来ないか」
安全圏の強化は安い。
腰の革袋に入っていた初期資金でも、10回は出来るほどに。
なので弱い雑魚を狩ってお金を稼ぎ、狂った様に強化する予定だったのだが、残念ながら武器は強化されたままだったのでその夢は断たれてしまった。
まあ出来ない物は仕方がない。
気持ちを切り替え、新たな可能性を俺は模索する。
「強化は継続な訳だが、このまま強化して行って……オーバーエンチャントしたらどうなるだろう?」
強化は+3までは安全圏で、+4以降は成否に確率の判定が発生する。
その成功率は強化段階が上がれば上がるほど下がり、失敗すれ装備はロストだ。
「普通なら失敗したら装備は消える。でも、俺って初期装備縛りなんだよな」
クラスとは違い、武器の強化はリセットされなかった。
だがロストはどうだろうか?
装備自体が消えたら、初期装備で無くなってしまう。
それは
神の祝福さえキャンセルする程の法則なのだから、装備品の破損も無かった事になるのではないだろうか?
「試してみるか……取り敢えず、剣以外で」
鉄の剣は最弱級の武器で、攻撃力は極端に低い。
万一失っても、闘士の格闘マスタリーで素手で戦うという選択も出来る。
だがそれでも、あると無しとじゃ戦い方に差が大きく出てしまう。
そう考えると剣を失うリスクは避けたかった。
俺の装備品――初期装備は3つ。
剣、皮の鎧――ジャケットっぽいの。
そして革製の小手。
最悪無くなってもいいのは……防御力が最も低い小手だ。
因みに、服の上下やベルトに靴。
それにベルトにかかっている革袋なんかは、装備には含まれない。
「小手をオーバーエンチャントしてみるか」
鍛冶職人は武器しか強化できない。
俺は小手を外し、反対側にいるエンチャントマジシャンに声をかけた。
「小手を強化して欲しい」
マジシャンは赤メッシュの入った金のロングヘアで、ケバイメイクを施している少し年増の女だ。
顔はあんまり可愛くない。
いやまあ、そんな事はどうでもいいか。
「あらあら、そんな装備で大丈夫かしら?」
「大丈夫だ。問題ない」
料金と小手を渡すと、彼女は作業台の上に置いて魔法をかけた。
小手からいくつも星が舞う。
それが三回。
強化に関しては、安全圏の三回までは一纏めに請け負ってくれる。
これで俺の小手は+3になった。
「オーバーエンチャントも頼むよ」
「お兄さん、ギャンブラーね。後悔しても知らないわよ?」
「ふ……男には、時には賭けに出なければならない事もあるのさ」
ちょっと格好よく返してみた。
何となくノリで。
「あら、カッコいいわね。それじゃあ――」
小手にエンチャントの魔法がかけられる。
が、先ほどの様に星は舞わず小手からは煙が上がる。
どうやら無事失敗した様だ。
いや、失敗して無事って言うのもおかしいが。
とにかく――
「あら?おかしいわね?失敗したのに消えないわ?」
――オーバーエンチャントが失敗しても、装備が無くならない事が確定した。
「特別製なんで気にしないでくれ」
「そうなの?」
エンチャントマジシャンの女性は怪訝そうな顔をするが、余計な詮索はせずに小手を返して来る。
あれこれ聞いてこないのは有難い。
一々適当な理由で煙に巻くのは面倒くさいからな。
小手の状態を確認すると――
【小手+3】
防御力:1(+3)
俺は小手の状態が+3のままなのを確認して、心の中でがっつポーズする。
+が消えていないと言う事は、オーバーエンチャントに失敗しても強化値がリセットされないという事だからだ。
つまり――金さえかければ確率を気にせず強化し放題!
無限強化は夢の泡となって消えたが、上限である+50までなら強化できる。
それもほぼノーリスク――ひたすら金がかかるけど、稼げばいいだけ――に近い状態で。
これが喜ばずにいられようか?
「おっちゃん、強化を頼むよ」
俺は再び鍛冶職人の元へ行き、武器の強化を頼んだ。
強化の優先度は、防具よりも武器の方が高い。
何故なら、攻撃力は序盤の狩り効率に直結してくるからだ。
なのでまずは剣からである。
さて、お金は強化に直結する。
となれば、稼いで強化しまくるしかないよな?
クラスチェンジアイテム?
そんなもんは後回しだ、後回し。
俺は目先のニンジンに飛びつく派だからな!
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