第18話 乱反射した屋上
休校明けの学校生活は地味との戦いだった。
体育祭、文化祭も中止に決まり、落胆した声さえ聴けない。
燕としばらく、会っていない。
あまりにも音沙汰がないので待たされている数日間、そわそわしてしょうがなかった。
悪い予感って都合よく発動する。
まるで、まがい物の電化製品を誤って発火させて、消防署にお世話になっているみたいにね。
燕に三回ラインを送っても既読さえもつかなかった。
朝凪に数週間ぶりに行くとマンションの屋上に人影が見えた。
嫌な予感がそっと立ち寄った。
あの人影はもしや、と思い、私は駆け足で階段を上った。
乱反射した夕影が足首に触れる。
四階まで上るまで慣れない息切れがする。
不安感が拭えないまま、私の両足は不器用に上がり下がりを繰り返した。
屋上だ。
高さは五階。
ここから落ちたら間違いなく、三途の川の岸辺で待ち受けた死神が手招く。
運命を分けた階下。
息を整えながら屋上に到着するとそこにいたのは燕だった。
「俺、暗礁に乗り上げちまった。ははは」
常に能天気な歓声をあげてばかりの燕にしては考えられないほどの変貌ぶりだった。
「死にたい奴のこと、弱いなー、と笑っていたかつての俺、ごめん」
小学生の男子のように明るさだけが取り柄だった燕が馬鹿な真似をしようとしている、とはさすがに切り捨てされなかった。
死が這うように近づいている。
死が私を掌握しようと断崖絶壁から這いつくばっている。
ネットニュースでも流れていた記事を不意に思い出した。
死を選ぶ人は何の人生に不満がないように見えた人に多いのだ、と。
普通の人があるときを境に豹変し、その境界を飛んでしまうんだ、とそのニュースには冷酷に記されていた。
そのニュースには自ら命を絶つ人は『それに成功してしまった人』だと書いてあった。
死によってもとらされた成功なんて、あまりにも理不尽だと思う。
それに、という指示語がどんな酷薄な意味を持ち合わせるか。
その境界線を私はやすやすと超えてしまうのか。
怖い。怖い。怖いしか心の口が開かない。
電線柱を車窓から追いかける私にはなりたくないのに思わず口づけたカラカラのペットボトルには粛々と刹那の味が染み込んでいた。
「年を重ねるということは言い訳の時間が必然と短くなるんだよ。若いうちには思いきり言い訳して大いに失敗すればいいんだ。すぐに素晴らしい結果を求めなくてもいい」
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