第16話 言葉の夜露の赤い花


 少年の存在しない、黒い錫箔のように滑らかな前髪はするりするり、と夕風に靡き、そこだけが漆黒のコサージュが冷酷な銀製の鋏によって、引き裂かれ、散り際に見せる最後の雄姿のようにも見えた。


 少年の瞳が垂れ下がった前髪から垣間見えた。


 その憂いに満ちた瞳は世にも珍しい、黒いダイヤモンドのように硬質で、触れた者の指先を瞬時に凍らせてしまいそうなほどひやひやしていた。


 白い頬にはささやかな笑窪さえも生まれない。




 生きる力を喪った少年の哀しみと時折、呟かれる自嘲。


 その傷つけてしまった瘡蓋も痛々しいまでにとりわけ、まだ新鮮だった。


 言葉の夜露の赤い花。




 私はまだ傷がついていない。


 心にもこの手にも。


 見果てぬ未来の草原に咲く雛罌粟の花が枯れ果てそうになる。




 私は何がしたかったんだろう。


 一体の塑像のように立ち尽くす、少年が私のほうを振り向いた。


 少年の寂しげな微笑が私の眼を貫く。




 少年の仄かな微笑は波紋のように風と滴った。


 この幼気な年齢でどれだけの哀しみという重荷を背負い、他者との擦れ違いに傷つき、慄き、ハッと視界が豹変するように塗りたてのペンキのような怒りを零し続けたのだろう。


 少年の壊れそうな唇は開かない。


 私は何か導かれているのだろうか。


 少年が懐からごそごそと秘密を手繰り寄せた。



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