第15話 耳鳴り
残酷な夜明けを私は臨まないといけない。
冴えた両目はなかなか眠りの境地には達せず、時間を追うごとに瞼が薄くなる。
やばい。このまま朝を迎えてしまうかもしれない。
スマートフォンでいじるべきか、かなり迷った。
睡眠の女神様?
そんな八百万の神様っていたかな。
私のイメージではギリシャ神話のヘラのように厳めしい、強気な女神を思い起こした。
眠れない夜に限って思考回路は活性化する。
夜の毒素を知らず知らずに左の肺の中に吸い込む。かすかな鼻息の音も聞こえる。
シーツカバーが身体の内奥から発する湿気で充満し、焼きたてのトーストの表面のように熱くなる。
眠り眼になりつつある、真夜中にサイレンが鳴っていた。
薄明かりが漏れ出す、目をハッと開けると窓際のカーテンが微妙に赤く照らされている。
ここ最近はサイレンが鳴る夜が多い。
耳鳴りがひどい。
繭に包まれた、ふにゃふにゃの蚕のように密閉空間で苦しみ、喘いだ。
アクシデントに見舞われる、氷雨のような心の気候にイエロー信号が灯った。
しんどい。冷たい。
意識が軽く遠のいた。
視界の目線が貫く果てには、だだっ広い滑走路が遥か先まで連なっていた。
私はアスファルトを素足で踏んでいた。
どうやら黄昏時だったようだ。
地平線を差すほうに赤々とした円形の光が見えたような気がしたからだ。
遠くの霞に人影が見えた。
誰だろう、と思い立って急ぎ足で向かうと華奢な肩を震わせ、腕に赤い傷跡を宙に見せた少年が虚空を見ていた。
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