生徒会選挙はツンデレで 6ページ目

「お母さん、いってきまーすっ」


「気をつけていってらっしゃいね、朱音」


 澄み切った青空が私の背中を押してるみたい。


 昨日は出だしで失敗したけど、今日は二段構えのおかげで朝はバッチリ。


 でもここだけの話、最終的にはお母さんが起こしてくれたの。だけどこれは、二段構えの目覚ましがあってこその成果。


 だから、私がひとりで起きたのと同じことよ。


「この時間に登校するのは初めてね」


 朝の空気は新鮮で気持ちがいい。


 誰もいない教室は私だけの特別な空間。


 荷物を机に放り投げ、私は正門へゆっくり歩いていく。心に余裕を持たせ、奈乃さんから送られた文章を脳内に展開する。暗記は苦手でも、ツンデレ語なら完璧に覚えられるの。


 だって私は──クイーン・オブ・ツンデレなのだから。


「あら、昨日来なかったので、負けを認めて辞退したのかと思いましたわ。まっ、何をやったところで、どうせ、わたくしには勝てませんけどね」


 どうやら正門には先客がいたようで……。


「ま、魔性さん……」


「わたくしは、魔性ではなく、舞星、ま、い、ぼ、し、ですっ!」


「名前が似てるから、魔性さんでいいかなって……」


「いいわけありませんわよっ。まっ、そんなことより、今さら演説したところで、この魔性なる女、舞星が勝つことには、かわりませんけどっ」


 自分で魔性とか言ってるし、気がついてないのかな。ううん、これはきっと春の陽気のせいだよね。絶対にそう、毎年必ずといっていいほど、こういう人が出てくるもんね。



 舞星さんって、妖艶な姿は魅力的なんだけど、どこか抜けてる気がするかな。


 なんかこう……残念な魔性系という感じ?

 この前の気迫はどこ吹く風だし、今の舞星さんからは残念オーラしか感じない。


 しかも、支持率は圧倒的な劣勢のはずだけど、負ける気がしないんだよね。


 だって舞星さん、自分で負けフラグ立てちゃったし。


 やっぱり残念系魔性なんだね……。



「べ、別に私はそんなこと気にしてないからねっ。私はただ、自分のベストを尽くすだけ、なんだから……」


「くっ、さすがツンデレ貧乳。このわたくしに、多少のダメージを与えるとか、なかなかやりますわね……。ですが、所詮は貧乳、この高貴なる巨乳には誰も抗えないのですよ!」


「た、確かに──って、胸の大きさで価値なんか決まらないんだからねっ。それに、いくら胸が大きくても、器が小さければすぐ捨てられるのがオチ、なんだからっ!」


「ぐはっ、ど、どうせ、わたくしは器が小さいですわよ。で、でも、たとえ、捨てられたとしても、この美貌があれば男のひとりやふたり、簡単に見つかりますもの。ツンデレ貧乳とは違ってねっ!」


 まさかのブーメラン返しだなんて、魔性もあどれないよ。でもこのままだと、お互いのHPを削りあって共倒れになるのは確実ね。


 なんとか、この不毛な戦いを終わらせ、私に有利な展開へ導かないと……。


 くっ、ダメね、私には、腹黒系悪女のような考えが浮かばない。今だけはあの属性が欲しくなるよ。


 だけど、ないものに縋っても仕方ありません。今あるもので対処するのが、一流のツンデレというものよ。

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