第6話 本能 -side faro


 ナナセはこの日、調べ物をする為に図書館と

、ギルドに俺が当分クエストを受けない事を伝えに行くと言った。帰りに買い物もして帰ると言っていたが、帰りが遅い。何故帰って来ないのか?そんな事を考えていたら、大量の食糧を買い込んだナナセが帰宅した。しかし、戻ってきたのはナナセだけでは無かった。先程までは体調も悪くは無かったのに。


まただ。この殺気!うっっっ!


「気持ちが、悪っい……うぐっ」


「ファロ!大丈夫ですか?吐ききっていいから、我慢しないで!」


ナナセが俺の背中を摩ってくれている。殺気に充てられてゾワゾワと逆立つ体毛も、少し落ち着いてきた。


「なんっだった……うぐっ……はっ、はっ……凄い殺気がっぐぁ!」


頭が痛い。匂いで思考が纏まらない。助けてくれ!誰か!ナナセ、ナナセ、ナナセ!


「ファロ、匂い?殺気?どっちが辛い」


どっち?どっち?どっちも辛い。でも、匂いは思考が無くなる。


「匂……い」


「分かった」


 俺は頭を掻き毟りながら床を這いずり回り、唸りを上げた。いっそ殺してくれ。俺を殺してくれ!苦しいんだ!床を転がっても、身体を掻きむしってもこの苦しみからは逃れられない!


俺が意識を失いそうになった時だった。ふわりと草木の香りが鼻腔に充満した。少しペパールの葉の香りがして、意識がすっきりする。


あぁ、あの悪魔の香りじゃない、爽やかで心地いい香りだ。香りの出所を鼻で探すと、ぴとり。と香りの元に鼻がついた。


「ナナセ?」


 その香りはナナセの手首や、首元、脇、股倉から濃く香っている。


「ファロは鼻が効くでしょう?私の体臭で申し訳ないのですが、誤魔化せないですか?」


俺は、やっと生きた心地がしてナナセを抱き締め鼻を首元に押し付けた。


「いい香りだ。助けてくれて感謝する。はぁ、苦しかったのが嘘みたいだ」


「楽になったならそれでいいんです。暫くはこうしていましょう?」



 ナナセの優しさに甘える事にした。柔らかいナナセの身体は俺の物とは全く違っていて、体毛の無い腕や足、腰、胸元。指に触れる肌はしっとりしていて滑らかだ。身体が疼く。先程の悪魔の香りの残滓が下半身に集まっていく。グルッと喉が鳴った。


 自分の本能は分かっている。けれど、ナナセは相棒だ。手を出してはいけない。


「ファロ、なんで耐えているんですか?」


聞かないでくれ、ナナセ。頼むから、聞かないで欲しい。


「気持ちが…分からない。俺のナナセへの気持ちが…だから。こんな事はするべきじゃない」


俺の首に回されたナナセの腕に力が入った。


「辛い事を我慢するのも限界があります。私は役得ですし、ファロは楽になれる。気持ちを今探さなくていいんです。もし……気付いたなら、その時答えを教えて下さい」



 その日、俺はナナセを抱いた。抱いた、からなのかその日以降、俺の目がナナセをずっと追っている。追っていないと不安になった。それから、気持ちが分からないと言いながら本能に任せて毎日ナナセを抱いた。


「ファロ、どうします?すぐにでも旅に出ますか?それとも殺気の正体をさがしますか?」


 俺はあの恐怖を味わいたくなかったから、月の終わりに旅に出ようと言った。この気持ちの名前と、俺を追い詰める匂いと殺気の正体に気付かぬまま、俺達は旅に出る。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る