04:現地取材


 そのあとも三人は、しばらく喫茶店で雑談を続けた。


「鈴風橋のお化け」は、夕方以降に発生する怪異であるように予測されたからだ。

 すぐにも現地へ「取材」におもむきたいのは山々だが、この際あせっても仕方がない。


 歓談中は主に颯馬が話題を提供し、結菜と桂太から言葉を引き出す展開になった。

 自分が引き合わせた人間同士で、いま少し互いの事情を共有させようとしていたらしい。

 より日常的な会話を交わすことで、コミュニケーションの円滑化をはかねらいなのだろう。


 結菜としては「ホラー漫画家+霊能力者」などという、怪しさ満点の身分に対する印象を、わずかでも払拭する好機でもあった。


 だから年齢相応の真っ当な女であることを、極力主張しようとしたのだが――

 実際には普段の生活を話せば話すほど、自堕落じだらくな日常が白日の下にさらされるばかりだった。


 漫画を描くために徹夜ばかりしていて、家の中ではだらしない恰好かっこうばかりしているとか。

 いつも面倒臭がって、食事はコンビニ弁当やレトルト食品で済ませてしまおうとするとか。

 部屋を掃除すると、床に置いた本の下から数日前に脱いだ下着類が出てくるとか。

 それで颯馬が結菜の様子をしばしば監督し、家事を肩代わりしているとか……。


 ひとしきり話が済む頃には、結菜の中にあったはずの「大人の女性」としての自尊心はズタズタに引き裂かれ、取りつくろう術も残されていなかった。

 初対面の男子学生に知られるには、あまりにもつらい事実である。


「僕のことはともかく、今後知り合う相手からこれ以上幻滅されたくなかったら」


 颯馬は、会話の最中にかぶりを振って、訓戒した。


「もう少し結さんには、生活態度を改善して欲しいな。そうすれば僕の苦労も減るわけだし」


 どうしようもなく正論なので、ひたすら結菜は身がちぢむばかりだった。


 桂太は、話に耳をかたむけながら、信じられない様子で何度も目をまたたかせていた。それでも馬鹿にして笑ったりしなかったのは、彼なりの気遣きづかいだろう。



 一方で、吉瀬桂太が語る自らの日常は、ここまでの面談で第一印象から想像したものと、それほど乖離かいりしていなかった。

 大柄な体躯と礼儀正しい態度から想起される通り、スポーツマンで、取り分け中高生の頃には野球に打ち込んでいたという。現在も大学の運動系サークルに所属し、定期的にクラブチームなどとの試合で汗を流しているそうだ。


 ただし野球の思い出の中には、名取香弥に関する記憶もふくまれているらしい。

 そのため桂太にとっては、すべてが必ずしも心楽しむものではないようだった。


「実は香弥が橋から川に転落した日、オレは野球部の試合があったんです。まだ地区予選の一回戦でしたけど、あいつはあとで応援に来るって言っていました」


 桂太は、表情が読み取れない顔で言った。


「陽乃丘から野球場へ行く方法はいくつかあるんですが、そのうちのひとつが大柿谷おおがきだに方面へ向かうバスを利用することなんです。そうして該当する路線の停留所は、鈴風橋を渡った先にある。それで香弥はあの日、橋のところを通り掛かったんじゃないかと思います」


 転落事故のあと、名取香弥の両親は娘の死亡推定時刻を知らされた。

 それは桂太が同じ日に球場入りした時刻と、ほとんど同じ時間帯だったそうだ。

 仮に事故発生から近い時刻のバスに乗車していた場合、プレイボールの声が掛かる前後には、おそらく香弥も野球場に到着していたものと思われるという。

 こうした事実の符合から、警察は事故に至る経過を「香弥は野球場へ幼馴染を応援しに行こうとした途中で、誤って川の中に転落した」と見ているらしい。


 結菜は、ひとまず香弥の死に関わる話題を、ここで殊更ことさらに深掘りする気にはなれなかった。

 もしかすると桂太は転落事故に対して、自責の念を抱いているかもしれないと感じたからだ。

 いまだに野球は続けているようだが、それによって幼馴染の不幸に間接的な影響を与えてしまった、と考えているとしてもおかしくはない。


 あるいはそれが怪奇現象について、桂太を余計に執着させているのかもしれなかった。




     ○  ○  ○




 結菜と颯馬、桂太の三人は結局、午後四半時頃に喫茶店を出た。


 怪異発生の現場である鈴風橋を目指し、藍ヶ崎市内を移動する。

 まずは電車で、新委住から藍ヶ崎を経由し、鐘羽かねばの駅へ向かう。

 次いで地下鉄に乗り換え、陽乃丘八条で降車した。

 改札を抜け、構内から一番出入り口で地上に出る。


 そこから鈴風橋までは、徒歩で約一〇分の距離らしい。

 地下鉄駅前には一応、橋の傍まで行けるバスもあるそうだが、利用するのは止めておいた。

 せいぜい停留所二区間の距離だし、車両が着くまでの時間待ちも馬鹿らしい気がしたからだ。

 三人は、陽乃丘の市道から住宅街へ入り、鈴風橋を目指す。



「この辺りの地域には、久し振りに来たけど」


 のんびり歩いていると、颯馬が周囲の街並みを眺めて言った。

 付近の交差点では、小学生と思しき児童数名が横断歩道を渡っている。

 放課後にひとしきり遊んだあと、帰路にいているところのように見えた。


「相変わらず住みやすそうで、いい場所だね。ごみごみしていなくて」


「そうかな。子供の頃から住んでいるから、オレにはよくわからないな」


 桂太は、とぼけた口調で返事したが、面持ちは満更でもなさそうだった。

 住み慣れた土地を持ち上げられて、悪い気はしないのだろう。


 颯馬は、友人の反応を横目で見てから、続けてたずねた。


「子供の頃と言うと、何歳ぐらいから?」


「今の家で暮らしはじめたのは、たぶん五、六歳からだな。もっとも陽乃丘自体には、それ以前から住んでいる。陽乃丘生まれの陽乃丘育ちってやつだ」


「たしか桂太の自宅は、ここからわりと近いんだよね」


 桂太が回答すると、颯馬は尚も質問を重ねる。


「もちろん、今住んでいる家のことだけど」


「おう。もう少し先にある街路を右折して、そこから五分も歩けばすぐに着くぞ」


「向こうの交差点を小学生が歩いていたけど、学校もこの近所にあるの?」


「そうだな、陽乃丘第一小学校っていうのがある」


「この辺りで生まれ育った子供は大抵、そこが母校なのかな」


「ああ、そうさ。オレも香弥も……」


 やり取りの途中で、いったん桂太は口をつぐんだ。

 行く道の前方を向いた目には、にわかにかすかな影が差したかに思われる。

 故人の名前を持ち出したことで、不意に古い記憶がよみがえったのかもしれない。


 結菜は、男子学生二人の様子をうかがいながら、桂太と香弥の過去に思いをいたしていた。

 小学校に上がった時分から幼馴染だとするなら、高校二年生で香弥と死別するまで、桂太は彼女と一〇年ほどの期間を共有していたことになる。


 未成年にとっての一〇年というのは、大人が感じる以上に長い年月だ。

「一〇年ひと昔」という慣用表現があるぐらいだから、一世代相当の時間と考えて良かろう。

 そう、おそらくは人間が何かしらの執着を醸成するに充分な長さではないだろうか……



「もし『鈴風橋のお化け』が香弥のやつだとしたら」


 桂太は、ぽつりとつぶやいた。


「どうしてあいつ、今頃になって化けて出たんだろうな」


「……幽霊が元々生きていた世界へ現れるについて、桂太は盆行事以外で何か合理的な理由があると思うかい?」


「わからん。だからおまえや天城さんに相談したわけだしな」


「噂じゃ『鈴風橋のお化け』が出没するようになったのは、去年の夏頃だったよね」


「うん。正確なところはわからないが、概ねその時期からみたいだな」


「ということは、名取香弥さんが亡くなってから三年後、というわけだ……」


 颯馬は、浅く呼気を吐き出すと、やり取りに間を挟んだ。

 頭の中を手探りするようにして、考察をはじめたらしい。



「なぜ三年後なのかという部分で、試しに『三』という数字に注目してみようか。世の中には案外、三年、三度、三回というような基準と結び付く、不吉な俗信や都市伝説が存在する」


 颯馬は、ほどなく再び口を開き、思い掛けない話題を持ち出した。


「例えば京都には、清水寺きよみずでらの近辺に『三年坂さんねんざか』という場所がある。ここには『三年坂で転ぶと、三年以内に死ぬ』という不吉な俗信があるんだ。他にもアメリカでは、鏡に向かって三度『ブラッディ・メアリー』と唱えると、血塗れの女性が鏡面に写り込む、という怪異譚がある。日本で有名な『トイレの花子さん』も、出現条件のひとつはトイレで個室のドアを三回ノックすることだよね」


 そこまで話してから、またもや言葉を切る。

 今一度友人の反応を窺っているようだった。

 桂太は、無言で先をうながす。


「またこれは同音異義の言葉遊びのようになってしまうけれど、数字の『サン』を、出産の『サン』と重ねて、不吉なものと見做みなすこともできるかもしれない。現代人の感覚からすれば、お産は子供の誕生だからめでたいものと考える方が普通だけれど、古い俗信ではそうとも限らなかったみたいだからね。数字の『四』が『死』を連想させる、というのと近しい俗信のようにも思うけど……」


 颯馬は、ゆっくりとたしかめるような口調で続けた。


「いわゆる『ハレ』と『ケ』についてはわかるかな。ハレは晴れ、つまり主に特別な、非日常の事物を表す概念だ。晴れの日、晴れ着なんて言葉もあるよね。反対にケは日常を表す」


 そうして、日常からハレのちからが失われることを、「ケの枯れた状態=ケガレ(けがれ)」という――

 颯馬は、そう手短に説明した。


 ケガレは、に結び付いたものとして認識されることもある。

 だから健康な日常が損なわれる「怪我けが」は、ケガレの一種と見做される。

 俗信で出産をケガレとしてむ原因も、分娩ぶんべんが出血をともなうからだそうだ。


 もしかすると、それゆえ『三』はケガレを暗示しており、名取香弥の霊が死後三年で怪異化したことに関連しているとは考えられないだろうか? 

 仮説を提示しながら、颯馬はさらに付け足した。


「実は最初に言及した京都の『三年坂』という地名も、『産寧坂さんねいざか』と書き換えられる場合があるんだ。一説では平安時代の前期、坂上さかのうえの田村麻呂たむらまろが夫人の安産を祈念したことに由来するかららしい。僕が『三』と『産』に同音異義的な意味合いを勘繰かんぐりたくなるのは、そのせいさ」


 もっとも颯馬は、「三年坂」に不吉な俗信が伝わる理由と、異なる文字で書き換えられた地名(及びケガレの俗信)が関連しているかについては、一切不明だという。「三年坂」という名称の由来には諸説あり、どれかひとつが正しいと断定できないからだそうだ。


 また国内の怪異譚にはケガレの概念を持ち込めても、海外のそれには当然適用されない。

 だから「ブラッディ・メアリー」の逸話で名前を唱える回数が三度なのは、純粋に偶然の一致であり、たぶん深い文化的背景はない。


「……まあ結局、桂太が嫌う迷信の観点から言っても」


 颯馬は、見解をまとめるように言った。


「香弥さんが亡くなって去年の夏で三年が経過したのち、いきなり幽霊が出現する状況になったことについて、現時点で断定的に語れるような理由は思い付かない。とはいえ今話したような傾向の可能性なら、逆にどれだってあり得るとも考えられそうだ」



 次の交差点に差し掛かったところで、信号が赤になった。

 三人そろって立ち止まる。目の前の車道を、乗用車が何台か行き交う。

 歩行者信号が変わるのを待つあいだ、誰もがじっと黙り込んでいた。

 やがて信号が青になり、再度歩き出すタイミングで桂太が口を開いた。


「そういう話はやっぱり、おまえが普段から勉強している『民俗学』ってやつの知識なのか」


「まあそうだね。ただし実際の民俗学はこういう問題に限らず、もっと幅広い分野の学問だよ」


 颯馬が答えると、桂太は「ふうん」と思案顔でつぶやく。

 それから不意に目だけで、結菜の顔を意味深長に見た。

 結菜は、それがどこか鑑定するような目つきだったので、やや面食らってしまった。

 しかし視線を浴びることに対して、なぜか不躾ぶしつけさより、居たたまれなさを強く感じた。


 桂太は、すぐに前へ向き直り、颯馬に低い声で漏らした。


「おまえがなぜ大学でああいうことを学んでいるのか、わかったような気がするよ」




 そのまま街路を歩き続けると、ほどなく住宅街の外れに着いた。

 道幅が次第に狭くなり、車道と歩道の区別も曖昧あいまいになっていた。

 周囲に立ち並ぶ家屋は、建築が明らかに旧式で、平成初期以前のおもむきがある。

 そこを尚も先へ進むと、アスファルトの路面が途切れ、目の前に石橋が現れた。


「ここが鈴風橋だ。やっと着いたな」


 桂太は、橋の手前まで来たところで言った。


 鈴風橋は、想像以上に古びた石橋だった。

 通行用の建造物としては、それほど大きなものではない。橋が架かった両岸を結ぶ距離は、おそらく五〇メートル足らずといったところだろう。

 全体を構成する石材は、長年風雨にさらされ、表面の摩耗が見て取れる。継ぎ目には土や砂が入り込んで、苔生こけむしている箇所も散見された。



 颯馬がつと顔を上げ、頭上をあおぎ見た。

 空では陽が地平の彼方へ沈み掛け、徐々に薄暗くなりつつある。

 スマートフォンで時刻を確認すると、午後五時四〇分に近かった。


「とりあえず橋を渡ってから、周りの様子を見て回ってみようか?」


 結菜は、颯馬の提案に「そうだね」と同意した。

 桂太もうなずき、その方針に従う。


 三人は、鈴風橋へ踏み出し、石造りの建造物を渡りはじめた。

 この橋の上も、歩道と車道の区別がなく、道幅はせまい。

 途中で一瞬、結菜は足元がふら付くような感覚に襲われた。

 石畳の足場でつまづきそうになったが、辛うじて平衡を保つ。


 脇を見ると、自分たちが立つ場所の下を、小川が流れているのがわかる。

 それほど大きな川ではないが、わりと水流は速く、水位も深そうだった。


「ここの川は、夏場だとけっこう増水することもあるんですよ」


 結菜が川面を眺めていると、桂太が彼女の所感を見抜いたように言った。


「この橋の辺りが晴れていても、上流が雨の日もあるので。そのぶん降雨がこっちにも押し寄せて、危険な状態になったりするみたいなんです」


「それはまた危なっかしい橋だね」


 横から会話に加わりつつ、颯馬は石橋の片側へ歩み寄った。

 視線の高さを水平より下げ、すぐかたわらの手摺てすりをつぶさに見詰める。


 足場の縁に作り付けられた欄干らんかんは、二重の構造になっていた。

 内側は古い石造りのもので、外側は鉄製の柵だ。石造りの方は成人女性の腰の高さより低い。ただし鉄柵の方は、成人男性の胸の位置ほど高さがある。



「石造りの欄干は、元々ある橋の手摺りみたいだね」


 颯馬は、欄干の上にそっと手を置き、考え深そうにつぶやく。


「逆に外側の鉄柵は、あとから工事で取り付けたものみたいだけど」


「たしか鉄製の柵は、香弥の事故があったあとに作られたものだ」


 桂太は僅かにしずんだ声で、疑問に答えた。


「古い欄干だけじゃ、やっぱり危険だからな……。いや実は香弥の件が起きる以前にも、石造りの欄干と鉄柵の中間ぐらいの高さで、木製の柵が橋の外側を囲っていたんだが」


「つまり香弥さんの事故が発生した際にも、転落防止の柵があったってこと?」


「うん、そうだったはずだ。もっとも事故当時、木製の柵は経年劣化でもろくなっていたらしい」


 颯馬が事実関係を確認すると、桂太は首肯してから付け加えるように続ける。


「あのとき香弥は、橋の上で足を滑らせ、転んでしまったみたいだ。弾みで身体が石造りの欄干を乗り越え、木柵に倒れ込んだ。柵は呆気あっけなく破損し、あいつが川へ落ちるのを防げなかった」


 颯馬は「……なるほど」と言ってうなずき、また少し沈思する素振りを見せた。



 それから三人で橋を渡り切り、反対側の岸に着く。

 ふと河原の方を眺めると、土手を下った辺りに看板が立っていた。

 濃い青地の板に白い字で、イラスト入りの警告文が書かれている。


【 ちゅうい! かわのなかへはいってはいけません! 】


「こっち側の河川敷は、昔から近所の子供が遊び場にしていて、遊歩道にもなっている。それでこんなものが立てられているんだ」


 桂太は、河原の看板を土手の上から見下ろし、苦笑交じりに言った。

 結菜と颯馬の関心がそちらへ向いているのを、すぐ察したのだろう。


「すぐそばで橋から川に落ちた女子高生が死ぬ事故があって、地元の人間はみんな危険を承知しているはずなのにどうかしていると思うか? ……しかし古くから根付いた地域的な慣習ってのは、やっぱり易々やすやすと変えられないようだな。迂闊うかつに近付くと危ないからって、何でもかんでも地域の住人に禁止するのがいいことなのか、って意見だってあるし」


「子供の頃には、桂太もここでよく遊んだのかい」


 颯馬が何気ない調子でたずねると、桂太はもちろんだと答えた。


「小学生の頃は丁度これぐらいの時間まで、よく下の河川敷でキャッチボールしたもんさ。まあ中高生になって以後も、このへんをたまに散歩するぐらいはしたが」


「香弥さんはどうだったのかな。やっぱり昔は同じように河原へ来ていた?」


「そうだな、香弥もちょくちょく来ていたと思う」


 桂太は、河原を眺める目を、現在地から上流側へ移した。

 右手の人差し指で、幾分離れた場所に注意をうながす。


「ほら、向こうを見てみろよ。ベンチが置いてあるだろう? ちょっと古くて汚いが、香弥は大抵あそこに腰掛けて、オレが野球の練習しているのを眺めていたんだ。たまに文庫本の小説を持ってきて、膝の上でページをめくって読みながらな」


 桂太の言葉通り、指し示す先には草臥れたベンチが置かれていた。

 塗装が所々げ落ち、肘掛けや脚の金属部分はび付いている。


「それとこの河原には時折、子犬や子猫が捨てられていたりするんだよ。あいつは優しいから、そういう動物を見付けると、いつも可愛がっていたな。家の都合で拾って飼うことはできなかったみたいだが、えさになりそうな食べ物を与えてやったりしていた」


 桂太は、問わず語りに話しながら、ベンチの辺りを静かに見据えていた。

 かすかな夕陽の光が目に差し込むせいか、少しだけまぶしそうにしている。

 だが、すぐに眼下の河川敷から視線を外して、軽くかぶりを振った。



「ふん、何だかちょっと感傷的になっちまったな。いや、香弥が昔かまってやっていた犬や猫の中には、オレにもなついてくれるやつがいたりしたからさ……」


 桂太は、どこか言い訳するような口振りで付け足した。

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