第2章第3節 どくどく

 メルは地図を開いた。青い円の上に、鉤爪の様な形の黄土色の図形がひとつ浮いている。

 

「この前はドイツの地図だったが、今度はパンゲア大陸全土の地図に小人憑きの目撃日時が書いてある。気付いたことは?」

 

 メルは他の面々に問う。

 

「こんなに……。薔薇十字団ローゼン・クロイツは壊滅したのに……。」

んだろう。」

 

 そこには、大陸の至るところに記されたバツ印。薔薇十字団ローゼン・クロイツが壊滅した後から、むしろ目撃頻度が増加している。

 

「メルちゃん! なんとかしないと!」

 

 ベルが青い顔をメルの顔に近付ける。

 

「解ってる。だが、オレ達だけじゃ捌ききれないし、いつか死ぬ。」

「だからって……。」

 

 ベルが今度は下を向いた。表情は伺えないが、強く握られた拳から心の内が滲む。

 

「解ってるよ。だから応援を乞うことにする。」

「応援?」

 

 メルは地図に丸印を書いていく。

 

「これは、名前持ちネームド錬金術師の居住地だ。」

「なるほど。しかし、協力してくれるでしょうか。」

 

 錬金術師にとって、小人憑きの討伐は謂わば慈善事業である。錬金術師が元凶であることに同業者としての責任を感じる者もいれば、他人事と考える者もいる。

 

「全員とはいかないだろうが、出来る限りはやる。」

「解りました。」

「うん。お願いしてみよう!」

 

 ここから居住地が近い名前持ちネームド錬金術師の元へ向かうことにした。最初は〝小人使い〟。伝聞によれば〝土〟の錬金術師だとか。

 

「〝小人使い〟ってのが大丈夫なのか? だけどな。」

「じゃあ急いで行かなきゃ!」

「いや、まだこの街でやることがある。あの暗殺者に訊かなきゃいけない。薔薇のブローチについて。」

 

 メル達は、あの暗殺者アッシュが収容されている、自警団管理の留置場へ向かった。そこで面会の申請のために窓口へ問い合わせたが、思わぬ返答がある。

 

「アッシュが死んだ……?」

 

 状況から見て毒殺だという。現場検証と検死を申し出て、一度は断られたが、名前持ちネームドであることで推し通した。

 自警団員同席のもと、メルとウルはアッシュの遺体を目の前にする。

 

「成る程。外傷はない。争った形跡もない。」

「彼の食事はいつ頃?」

「亡くなっているのが見付かったのが早朝でした。そこから数えて7時間前です。」

 

 遅効性の毒を食事に混入させたか、食事以外の経路での服毒であろうか。

 

「面会に訪れた人物は?」

「いません……。」

「なんでもいい。気になったことは?」

 

 訊かれた自警団員は少し思案した後、こう答えた。

 

「笑っていました。不気味なほど口角が上がっていて。恐ろしくて目も合わせていません……。それと……。」

「それと?」 

 

 手掛かりの少なさに起因して前のめりになる。

 

「仲間が必ず救ってくれる、と言っていました。」

 

 助け、ではなく、救い。それは何を指して言っていたのか。今では知る由もない。

 

「とりあえず、毒を特定する。検体を採取するぞ。」

「御意。」

 

 毒物はすぐに特定出来た。それ程の濃度で検出された。

 

「亜酸化窒素、つまり笑気ガスだな。」

「全身麻酔に使用される?」

「そうだ。しかし、麻酔に使うには濃度が高すぎる。」

 

 通常、手術などで麻酔として用いられる笑気ガスは、患者の体重に合わせて20~40%の亜酸化窒素とバランスとして酸素を混合させたものである。この濃度を間違えれば、窒息、あるいは昏睡の後死亡するケースもある。

 

「ドラッグ感覚で吸った奴が死んだりもしててな。目に見えないから危険性が認知しづらい。さておき。」

「しかし、そんなガスどこから?」

 

 メルは顎に手を当て考える。

 

「自警団のヒト。換気口とかはあるのか?」

「それなら……ここに。」

 

 自警団員は床近くに空いた丸い穴を指差す。

 

「この穴、どこに繋がってる?」

「少し待って下さい……。」

 

 自警団員はこの留置所の見取図を取り出す。どうやら、換気口は留置所の裏まで繋がっているらしい。

 

「そこに案内してくれ。」

 

 留置所の裏、換気口の下には小さい足跡があった。女性か子供くらいのサイズの靴。真っ直ぐ換気口に向かい、迷いなく引き返している。実行犯の足跡の可能性が高い。

 

「大した手掛かりにはならんだろうが、足形を取るぞ。」

 

 ここまでの状況を整理する。

 

「アッシュが殺害された。死因は亜酸化窒素による中毒死。苦しまずに死んだろうよ。」

「実行犯は換気口からガスを供給した。しかし、そうすると看守さんも被害に遭うのでは?」

「亜酸化窒素は空気より重いからな。立ってるか椅子に座ってれば吸い込むことはなかったんだろう。」

 

 メルが独房の一角を指差す。

 

「あそこが寝床だな? 床に布団が敷いてある。重いガスが流れてきたら吸い込む位置だ。」

 

 これで、大方の状況は掴めた。しかし、実行犯特定に繋がる手掛かりは見付からなかった。

 

「これなら錬金術師じゃなくても殺害可能だな。」

「これで手掛かりを失いましたね……。」

「いや、まだだ。自警団のヒト。所持品に薔薇のブローチなかったか?」

 

 自警団員が怪訝な顔をする。

 

「あるにはありましたが……。現場を見せるのと検死させるので大分無茶してるんですよ……。」

「そこをなんとか……! そうだ、ギルド長の一人娘が一緒なんだよ。優しい自警団員が居たって言っとくから……。」


 乗り気ではないまでも、渋々了承を得られた。

 自警団員が持ち出した薔薇のブローチを手に取った。


「錬成波スキャンするぞ。」


 メルはブローチに掌を向けた。


〝TRANSIMULATION〟錬成起動


 メルの目にブローチの透過像が映し出される。


「これは、宝石か? ハートの形にカットしてある。」

「宝石ですか。何の鉱物ですか?」

「回折像を撮ってみよう……。ふむ。」


 メルは目を閉じて再び掌をブローチに向けた。


「単結晶のアルミナ。つまり、コランダムだな。透過像じゃ色が解らん。サファイアなのかルビーなのか。」

「……開けてみてはダメですか?」


 恐る恐る自警団員に訊いてみる。


「もう、ここまで来たら良いですよ。本当にギルド長の評価期待してますよ!」


 自棄糞気味だが、了承は得られた。


「ウルやってくれ。オレより壊さないだろ。」

「はい。やってみます。」

 

 ウルは平たい金属製の棒を錬成し、ブローチの隙間に差し込んでいく。そして、テコの原理で隙間を拡げていく。

 

「……開きました。赤、ルビーですね。それに……宝石の中に糸状のインクリュージョンが見えます。」

「何か術式が組み込まれてるかもしれない。が、ここですぐには解析出来ないな……。」

 

 メルはそう言うと自警団員の方を一瞥する。

 

「解りましたよ……。最初から所持品の中にブローチなんて無かった。いいですね?」

「すまんな……。恩に着る。」

 

 メルとウルはブローチを預かり留置所を後にした。

 クレイオスでベルとアダマスが待っていた。

 

「長かったね。何か解った?」

「それがなんとも。これを借りれたのは成果かな。」

 

 メルはポーチから薔薇のブローチを取り出した。

 

「これが小人憑きに命令出来るっていうブローチ?」

「そうだ。中にルビーが入ってる。原理はまだ解らん。……どうした? アダマス。」


 アダマスがメルの手の中にあるブローチを覗き込んでいる。釘で縫われたように目を離さない。


「声が聞こえるの。ママがお話してたあふろでぃーてさんの声。」

「姉ちゃんの声!?」


 メルはアダマスからブローチに目線を移す。


「調べるのはやめだ。原理なんて解るはずない。いや、これ自体が原理だ。。」

「あの女……アフロディーテの権能ですか。」


 メルが頷く。視線をまたアダマスに戻す。


「姉ちゃん……アフロディーテは何て言ってるんだ?」

「うーん……言葉というよりはお歌? 聴いてるとふわふわしてくる。」

「解った。もう聴かなくていい。」


 次はベルに問いかける。


「ベルは、あとナックさんは何か聴こえるか?」

「私は何も……ナックさんは?」

 

 ベルは無言で返答を待つ。

 

「ナックさんには聴こえるみたい。」


 どうやら、アダマスとナックにも影響が出ているらしい。もしも、これまでの小人憑きの様に使役されることがあったならば、現状取りうる対策が無い。


「それで……アダマスくんと話がしたいみたい。」

「ぼくと?」

 

 アダマスはベルの胸元を見ながら頭の中でナックに話しかける。

 

「ぼくだよ、ナックさん。」

「小僧、あの歌に抗えなければお前は破滅するだろう。それでも構わんが、宿主に死なれては困るからな。」

 

 ナックは結論から入った。そして、その補強を述べ始める。

 

「あの歌は服従の呪いだ。聴き入ればお前の意思に関係なく、あの小娘を害するだろう。」

「そんなの嫌だ。」

「ならば抗う術を知れ。心を閉ざせ。」

 

 アダマスは首を傾げる。

 

「どうやるの?」

「そこまで面倒はみれん。丁度お誂えの練習台があるだろう。推して知るべし。」

 

 そこで頭の中からナックの声は消えた。

 

「アダマス? ナックさんは何て?」


 アダマスが意識を取り戻したのを確認し、メルが話し掛けた。


「心を閉ざす練習をしろって。服従の呪いだから。」

「課題提供か。アダマス頑張れるか?」

「うん!」

 

 ここまでの議論で、アフロディーテが小人憑きを使役する権能を有している可能性が高まった。それが、使役対象に条件があるのか、どの程度の動作を強制出来るのか、本当に抗う術があるのか、全く不明なままである。

 

「ここで思案してても答えは出なさそうだ。本来の目的に戻ろう。〝小人使い〟に会いに行く。」

 

 メル達はクレイオスを走らせ始めた。



 街を出てから暫く走った。背の高い草むらに挟まれた道に差し掛かった時、茂みから人影が現れた。クレイオスが歩を止める。


「誰だ?」

「子供のようですね。様子を見てきますね。」


 ウルがクレイオスから降り少年に近付いて行く。そして、少年の前に立ち何かを話していると、突然ウルが口元を押さえて苦悶し始めた。


「え!? ウルさんどうしたの!?」


 ウルは程なくして膝を折り、力無く地に伏した。その後、動き出す様子は無い。


「メルちゃん!」

「解ってる。……ベルとアダマスは絶対外に出るなよ。」


 メルは胸のブローチに手をあてた。


〝TRANSIMULATION〟錬成起動


 ブローチの輝石が光を放ち、メルの周囲を多胞体が浮遊する。いつもとは異なり、多胞体はすぐには消えず輝き続けた。メルは一息吐くと素早く外へ出るやいなや、すぐに扉を閉めた。

 外に出た途端、鋭い腐卵臭を感じた。その後追い掛けるように頭痛と吐き気を催す。思わず口を手で塞ぐ。周囲に何かしらの毒ガスが充満している証査だ。


「へぇー。さすが〝狼狩り〟。毒の〝その場分解〟もお手の物か。」


 そこには見た目で言えばメルと同じくらいの歳の少年が立っていた。少年は、自身の顔と大きさが同じくらいのフラスコを持っている。

 少年の言う通り、メルは錬金術を使って毒ガスの成分分析と分解反応の促進を並列で行い、なんとか意識を保っていた。炎症で皮膚が痛む。


〝TRANSIMULATION〟錬成起動


 メルの周辺に旋風つむじかぜが吹き始めた。しかし、毒ガスの濃度は変わらない。


「無駄だよ。割りと広い範囲にガスを留めてる。少しかき混ぜたくらいじゃ濃度は下げられないよ。」


 少年が口元を隠しながらクスクスと笑う。屋外という開放系にも関わらず、広範囲に毒ガスを留めておける技術。風や人の動きを考慮するとなると、かなり大規模な測定と計算が必要なはずである。


 メルは倒れているウルを見下ろす。


「ウル、そんなとこで寝てると風邪ひくぞ。」


 倒れてから1分弱。充満しているガスが〝硫化水素〟であることは分析によって解った。

 硫化水素はオキシダーゼという酵素を不活性化し、酸素による代謝を阻害、延いては呼吸中枢を停止に至らしめる。


 幸い、即死する濃度では無かったものの、容態によっては早急な措置が必要だ。

 

「こっちは体調不良なんでな。用があるなら手短に頼むよ、チビッ子。」

 

 少年の額に皺がよる。

 

「お前もチビじゃないか。まぁいいや。このまま衰弱するのを眺めてるのも乙だけど、仕事だからね。」

 

 少年はポケットから薔薇のブローチを取り出した。

 

「……!? お前もか。何もんなんだお前ら。」

「答えるわけないだろ。COME ON MY BROS. 」

 

 少年がブローチに語り掛けると、脇の茂みからさそりの様な生物が現れた。しかし、鋏の様な前腕を除けば、足は4本しか見えない。

 

「小人憑き……なのか?」


 その姿は四つん這いになった人間のを思わせる。そう想像しながら観察すると、鋏の付いた前腕が肩から生えている。今までより一層歪な姿に戦慄を覚える。


「そうだよ。特別に創って貰ったんだ。毒もこっちで仕込めるような構造になってる。イカすだろ?」


 小人憑きを創るという表現。小人憑きを使役出来る薔薇のブローチ。アフロディーテは小人憑きをどの様に創るのか。小人憑きにどの程度の機能を持たせることが出来るのか。


「玩具貰ってはしゃいでんのか。可愛いね坊や。」

「お前、自分の置かれてる立場、解ってんの?」


 少年は明らかに苛立った。そして、左手をメルに向け、こう言い放った。


「GO. 」


 さそり型の小人憑きが、高速で地を這いながらメルに接近する。そして、臀部から伸びている先端が針状になった尻尾で刺突する。

 

「……っ!」

 

 メルは辛うじて刺突を回避するが、意識が遠のき失神しそうになる。どうやら、少年は毒ガスに〝一酸化炭素〟を混ぜたらしい。一酸化炭素は、血液中の赤血球と結合し、全身への酸素の輸送を阻害する。


「くそっ……!」


 即座に分解スキームを追加する。しかし、毒に侵されつつある精神回路の状態では分解が追い付かない。

 この状況が長引けば、メルが毒によって倒れるか、そうならずともクレイオスの中の2人が次の被害者になる。

 

「大した事無いな〝狼狩り〟。アッシュの奴やっぱ雑魚だったか。」

 

 やはり、アッシュを殺害したのはこの少年。

 

「さあ、アンタレス。KILL! KILL! KILL!」

 

 アンタレスと呼ばれた小人憑きが直線的に向かってくる。

 

「……舐めるなよ。」

 

 メルはホルスターから雷銀弩を取り出し、雷銀弾を撃ち放った。雷銀弾は小人憑きの頭部、と思われる部位に命中したが、小人憑きは白煙を掻き分けながら突進を続ける。


「くっ……固い!」


 メルは突進を回避する。しかし、次第に跳躍出来る距離が狭まってきた。猶予は少ない。

 メルはポーチから雷弾を取り出し、雷銀弩に装填した。


「ならこっちだ……ハァハァ。」


 息が千切れそうになる。繰り返される小人憑きの突進を辛うじて躱すが、体力に底が見える。


〝TRANSIMULATION〟錬成起動


 小人憑きが尻尾による刺突に放った直後を狙って雷金弾を撃ち出す。金色の線分が小人憑きの頭部に向かって伸びる。

 しかし、攻撃の後隙にも関わらず小人憑きはこれを躱す。


「おい、避けんな……!」


 メルにはこれ以上の継戦能力は僅かも残っていない。雷銀弩が途轍もなく重い。一定の精度で雷金弾を撃ち出せるのは、次が最後かもしれない。

 メルは最後の攻防を挑む。再び雷金弾を装填した。


「さあさあ、虫公、手の鳴る方へ……。」


 小人憑きが迫る。射程範囲ギリギリの位置で雷金弾を撃ち放った。弾は小人憑きの脚部に命中し、小人憑きの突進が一時的に止まった。

 小人憑きの尻尾にがメルの眼前まで迫り、貫く直前で停止した。尻尾の先端から液体が滴るのが見えた。


 メルはすかさず、右手を空へ高々と掲げた。

 

〝TRANSIMULATION〟錬成起動

 

 すると、周囲からメルを目掛けて風が集まっていく。そして、束ねられた風は上昇気流となり、毒ガスを上空へと運んで行った。

 毒ガスの濃度が極端に低下すると共に、酸素濃度が正常値に戻る。朦朧としていた意識が僅かながら澄んでいくのが分かる。

 

「へぇ。そういうのもアリなんだ。でもどうする? そんな大規模な錬成しながら闘ってみる?」

 

 少年の言う通り、かなりの広範囲から空気を集めているため、毒に侵されているメルの演算リソース、その9割を割いていた。継戦はほぼ不可能と思われる。

 

「こういう時は決まってんだろ。こうすんだよ!」

 

 風が逆流し、メルから遠ざかる方向へ突風が起きる。この風により少年は2 m程後方に飛ばされた。

 

「いったー! なにすんだ……。」

「ベル!!」

 

 メルが最後の力でそう叫ぶと、クレイオスからベルが飛び出しメルとウルを肩に担いだ。

 

「この借りは必ず返す。覚えてろよチビッ子。」


 肩に担がれた状態で毒使いの少年を指差しながら悪態を吐く。


「何それ。悪役みたいな捨て台詞だね。チビ女。」

 

 ベルはそのままクレイオスに飛び乗り、クレイオスを起動した。


「クレイオスさん、緊急発進!!」


 途中、小人憑きを轢きながら、毒使いの少年から遠ざかる。少年はクレイオスのリアを眺めながら佇んでいる。

 

「僕が殺すまで生きててよね? 〝狼狩り〟のメル。」

 

 

 走るクレイオスの中ではウルへの応急処置が始まっていた。しかし、出来ることは少ない。体外からの錬成で少しずつ硫化水素と一酸化炭素を分解しながら、酸素を吸入させる。

 

「手持ちの吸入器じゃ不足だ。人工呼吸器が無いと危ないかもしれない。でかい病院がある街に急ぐぞ。」

「ウルさん……。」

 

 ベルが泣きそうな顔でウルの手を握る。

 

「やるだけのことはやるぞ。泣くのはその結果を見てから決めよう。」

「……うん。」

 

 

 メル達は救急医療の出来る病院に辿り着いた。ウルへの処置が始まる。メルも軽傷ではなかったようで、ウルに続いて運ばれて行った。


「ベル、アダマスのご飯とか頼んだぞ……。」

「……うん! 任せて!」


 一通りの処置が終わり、面会が許された。病室に入ると、気管に挿管され人工呼吸器に繋がれたウルの姿。一命は取り留めたとのこと。

 

「……良かった。誰も死ななくて……。」

「メルちゃん……。」

 

 隣のベッドにメルが横たわっている。

 

「私、何も出来なくてごめんね……。」

「いや、誰しも向き不向きがある。ベルにはいつも助けられてるよ。ありがとう。」

 

 アダマスも弱々しい声で話し始める。

 

「ママ、早く良くなってね……。」

「ああ、少しだけ待ってなさい。」


 そう言うと、メルは眠ってしまった。

 


 その後、1週間程でメルは快復し、ウルも意識を取り戻したの。認知機能に問題はなく、後遺症はほぼ残らなかったのは幸いである。

 

「あの毒使い。次に会ったら取っ捕まえてやる。」

「僕が倒れる前にお願いしますね……。」

 

 ウルが震える声で懇願する。

 

「わ、分かってるよ……。」

「ウル、知らない人には近付いちゃだめなんだって。ママが言ってたよ?」

「か、忝ない。」

 

 かなりの時間と体力を浪費することになった。

 一行は〝小人使い〟の元へと急ぐ。

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