付録2 細菌とウィルスとホムンクルス

 【付録の取扱いについて】

 付録では本編で扱いきれなかった理論や考え方について解説していきます。本編を読む上で必須な知識ではないので読み飛ばし推奨とさせて頂きます。つまり、作者の自己満足のための文字列です。悪しからず悪しからず。


 1. 細菌とウィルスの相違点


 〝バイ菌〟等の口語的な呼び方で同一視されがちな、細菌とウィルス。しかし、明確な定義の差異があり、全く別物である。最も端的に表せば、細菌は生物であるが、ウィルスは生物ではない。それ程に大きな隔たりがある。


 2. 細菌


 細菌というのは微生物のことであり、狭義には人体に(良かれ悪かれ)影響を与えるものを指す場合もある。微生物の名の通り、微小ではあれど生物であり、細胞という単位構造は人間とも共通する。

 防疫的な観点で語ると、いくつか条件はあるものの、細菌には〝抗生物質〟が有効に効くため、感染した後に死滅させることが可能な事が多い。(グラム陽性菌であれば有効であり、陰性菌には効き目がない。)


 3. ウィルス


 ウィルスというのは自己増殖する機能がない。これが生物とは呼称できない大きな理由である。生物は本来、無精あるいは有精に関わらず、遺伝子のコピーによって増殖することが出来る。寧ろ、その様なものを生物とは定義している。微生物も例に漏れず、無精生殖によって増殖する。感染するのは、人体という場が、増殖するのに有利な環境だからである。

 ウィルスはどの様に増えるのか。それは、感染した宿主の増殖機能を借りるのである。自らは持ち得ない増殖機能を外部の生物に頼り、宿主の細胞を破壊していくことで増殖する。この様な非生物性に因んで、半物質半生物と表現されることもある。

 さらに、防疫的観点で見ると、ウィルスには抗生物質を始めとする薬剤が有効に効くことはほぼない。故に、ワクチンという形で免疫を獲得し、事前に感染する際のリスクを下げることしか出来ない。


 4. ホムンクルス


 話しは大きく変わる。錬金術の伝承の1つに〝フラスコの中の小人〟ホムンクルスという生物が存在する。これは完全に人工的な生命を錬成する述の極致である。ホムンクルスの作り方は、現在にも伝承されている。

 その方法は以下の通り。蒸留器に人間の精液を入れ、40日密閉し、腐敗させる。すると、透明でヒトの形をした物質ではないものが現れる。それに、毎日人間の血液を与え、馬の胎内と同等の温度で保温し、40週間保存する。そうすると、人間の子供ができる。ただし、体躯は人間のそれに比するとずっと小さく、フラスコからは出られないという性質を持つらしい。

 勿論、この方法を踏襲しても小人が錬成できることはない。方法の不備というレベルではなく、現在の理論上、この方法で小人が出来上がる可能性は皆無と言って差し支えない。では、錬金術師達は何を錬成していたのか。

 ここからは仮説になるが、上記の方法で得られたのは細菌ないしはウィルスだったのではないか。現在であれば、フラスコの内部に微生物がおり、培地と温度管理により増殖したことが想像できる。しかし、当時の錬金術師には、密閉した無生物環境のフラスコの中に生命が現れることは大変神秘的であったに違いない。この生物の錬成が飛躍し、人間の錬成という夢を描いたのではないか。今では知る由もない。


 本編のシン・アダムスも、元はウィルスに似た半物質半生物であったホムンクルスを、メルのDNAによって補完することにより、曲がりなりにも人の形を得ている。実際、生命の発生はそこまで単純ではないかもしれないが、メルの情熱と卓越した錬金術が成せる業だったのかもしれない。


 以上

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