幕間 金の弾銀の弾

「うわっどこ、ここ」


 メルは、どこかの湖畔に佇んでおりました。


「みんなどこ? ウルーベルー。アダマスやーい。」


 呼べど呼べど返事はありません。


「と、とりあえず座標の確認……。」


 メルは空気薄膜索敵の応用で周りの立体物を走査しました。しかし、走査範囲内には木と林と森しかありません。


「全部樹じゃねぇか……。」


 ポーチの中からコンパスを取り出そうとしたとき、雷銀弾をひとつ、ころりと落としてしまいました。


「あっぶな! ちょっとまて!」


 雷銀弾は、ころりころりと転がって湖の中へと吸い込まれていきました。


「貴重な銀が……。それよりも生態系とか爆発の危険性とかうんぬん。」


 そうしていると、湖面が輝きだし、それはそれは美しい女神が現れました。


「な、なに!? ずっと潜ってたの!?」

「黙りなさい。」


 短く諭されます。中々、舌の強い女神の様です


「あんまり長いと読まれません。身に染みて解っているでしょう。はい。貴女が落としたのは、銀の弾、金の弾、どちらですか?」

「なんのこと言ってるの……?」


 メルはここまで、理解が追い付いたことがありませんでしたが、この指摘は特に不可解でした。しかし、質問に対しての答は明白です。


「銀だよ、銀。危ないからこちらに寄越しなさい。」


 すると、女神は冷や汗を隠した笑顔でこう言いました。


「本当ですよ。二度と爆弾を湖に落とさないで頂きたい。次は助走をつけて投げつけます。」

「え、やめて……。」


 女神は銀の弾をメルに、ゆっくり丁寧な手付きで手渡します。


「あと、金の弾なんてありません。そんな危ないものないです。必要なら自分で造りなさい。はい、以上、帰ります。」


 そう言い残すと、女神は湖の底へと帰っていきました。


「なんだったんだ……。そして、これからどうすれば……。」


 呆然と佇んでいると、ポーチの中から眩い光が漏れだします。輝く輝石。踊る多胞体。


「まてまて……。」


 雷銀弾は錬成の後、理論通りの挙動を見せます。


「あっ……。」


 射すような強い光を伴い、轟音が響きます。メルの命運や如何に。


「だあっ!! 死ぬ!!」


 次に目が醒めた時、自室のベットの上でした。すると、どたばたと廊下を走る音が聞こえてきました。


「おおおお師何事ですか!?」

「メルちゃん無事!?!?」

「ままーおなかすいたー。」


 どうやら、夢だった様です。


「なんて日だ……。」


 メルはそう呟くと、研究室の室員の顔を見回しました。


「いや、悪くない日、かな……。」


 メルは夢に見たことを、みんなに話し始めました。


 おしまい。


 記 2023/4/1

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