いいわけの裏側(777文字)

 李仁はビーフシチューを煮込んでいた。鍋底を焦がさないようかき混ぜ、丁寧に。


 スマホから着信音。湊音か? と李仁は慌てて出る。

 表示にはジュリからと。

「ジュリー」

『李仁。こんばんは。湊音くん帰った?』

「まだよ」

『たく、シバったらなに湊音君を連れ回して……ごめんなさいね』

「大丈夫、寄り道してるだけよ」

『寄り道ねぇー』

「こちらこそシバをアッシーにしちゃつたし……」

『いーのよ、あいつがしたいって言うから』

「甘えちゃってるのはこっちの方だから」

『あ、風呂上がりにうちの晩ごはんのビーフシチューちょっとあげちゃったけどよかった?』

 と言う、ジュリに李仁は目の前で煮込んでいるビーフシチューを見た。

「あー、いいわよ。いつもありがとうね」

『どういたしまして。シバには早く帰ってきてって伝えておいて』

「わかったわー」


 と電話は切れた。

 ビーフシチュー……ねぇと李仁は思いながらも煮込む。

 グツグツ。


 ピンポーン



 インターフォンに向かってマンションのエントランスを開けた。

 モニターには2人が映る。


 あっちは見えてるか知ってるか知らないかどうかわからないが湊音がシバに寄り添う姿。


 でも部屋に来るまでに手は離している。


 またインターフォンが鳴る。2人が来た。李仁はドアを開ければやはり湊音1人前に立ち、シバが後ろに立つ。


「ただいま、李仁」

「おかえり。シバ、ありがとう」

 シバはオッスと手を挙げた。

「ジュリが寄り道せず帰りなさいよって言ってたわよ」

「はいはい、じゃあまたな」

 シバが帰ると湊音はシバの後ろ姿を名残惜しそうに見ている。


 だがすぐ李仁の顔を見て

「ただいま」

 と微笑む。

「おかえり、ミナくん」

 李仁も微笑む。


「いい匂いするね」

「うん、ビーフシチューよ」

「そうなんだ……あ、コンビニ行ってお菓子買ってたから遅くなっちゃったよ」

「あらこんなにいっぱい。じゃあ食べましょう」


 李仁は湊音の手を強く握った。


 終

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