深夜の散歩で起きた出来事(777文字)

「月綺麗だねー」

「それって……告白かしら?」

「違うって、それにそのセリフは実際に言われたかどうかは不確実であって!」

「はいはい、何度も聞いたわよ」

 李仁と湊音はよく深夜に散歩することがある。不安定な湊音を外に連れて行こう、そんなきっかけで前から続けていた。


 ふとダンボールを抱えて泣いている青年とすれ違う。

「今の見た?」

「泣いてたわよね……こんな夜に。恋人に振られて荷物抱えて泣いてたのかしら」

「んなわけないだろ、李仁……どっからそういう……まぁ案外そうかもしれんが」

 こうやってすれ違う人のことを話すのも楽しい。


「ねぇ、あの焼き鳥屋さん」

 湊音が指さすとよく見かける焼きたら屋台があった。数回食べたことがあったが深夜には流石に食べない2人。


「若いのに頑張ってるわねー。また夕方見かけたら焼き鳥買ってこー」

「だね。焼きたてが美味しいし、でも今は流石に」

「夜ご飯も親子丼だったから」

「さすがに鳥喰らいすぎ」

 と笑う。


 目の前に黒ずくめの男が歩いている。

 他に歩行者は先ほどの青年のようにちらほら見かける。

 2人と同じく深夜に行動するのが好きな人も他にもいるわけで。

 人間観察もいちいち全員にはしない。


「満月も綺麗だから充電されたって感じ」

「それはよかったー。寒さも和らいだしこれからも歩きやすいわ」

 湊音は満月に向かって手を広げる。これは充電のポーズなのだろう。


「明日からも頑張れそう?」

「うん」

 なんとこの2人、明日というかこの後日中は仕事なのだ。なのにこんな深夜に散歩だなんて。


「ぎゅーしていい?」

 湊音が手を下ろして李仁にそういうと

「いいわよ、おいで」

 と李仁は手を広げて微笑む。

「好き好き好き」

「それは月が綺麗、といいたいの?」

「違うー」

 ただの2人のいちゃつき話になってしまった。


 こんな真夜中だからできることである。皆さんも深夜にこの2人見かけてもそっとしておいてください。

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