ぐちゃぐちゃ(777文字)

 李仁はまた取り出した。以前湊音の部屋の奥から出てきたぐちゃぐちゃに黒のペンで消された日記を……。


 確かにこの時期の頃はまだ二人は付き合った頃で。李仁は奔放的なまま……住んでる部屋に男たちを呼んでパーティしたり部屋の持ち主である元彼はと愛を交わしてたり(李仁曰く元彼から強制的に、とのことだが)。


 不安定な湊音だからこそ日記をこんなふうにしてしまったのだと李仁は反省する。


 夜になって湊音と映画を見た。悲しいラブストーリー。結末は知っていたのになぜこんなのを選んだのか李仁は思ったが黙って見ている。


「この2人、今はこうはしゃいでるけどさ……その後の悲劇を知らないんだよね。その対比が好きなんだ」

 なんだ、湊音も知ってるのではないか……と思いつつところどころこうでね、あーでねという解説をうんうんと李仁が聴きながら結末のどんでん返しの悲劇のシーンで、湊音はぐちゃぐちゃに声を上げて泣いた。李仁も迫力のある役者の演技に涙した。もらい泣きもある。


 少し経ってから2人で映画の余韻に浸る。

 湊音は少し落ち着いて李仁の出したホットココアを飲んでいるが李仁はさっきの泣いた湊音の顔を見てあの日記をぐちゃぐちゃにした時もあんなに泣いたのだろうかと涙で滲んだ跡があったからそうだと思った。


「たまにね、こうやって悲しい結末を知りながらも見てたくさん涙流すのもいいんだよね」

「私はそんなのしないわ」

「パトラッシュとか」

「パトラッシュを知ってるから見ないわ」

「李仁って大泣きしてるの見たことないもん」

「子供じゃないんだから」


 とさっきの泣き顔はどこいった湊音と思うほど笑っている。


「前は何でもかんでもすぐ泣いてたけどね、悲しいことあると」

 と湊音が言うと李仁はドキッとした。

「もうそういうの嫌だからこういうときに泣くの」


 李仁はもう、湊音を嫌な思いで泣かせたかなあと思ってソファーに押し倒した。


 終

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