三月
本屋(777文字)
2人で本屋デートをしに少し郊外の大型モールに向かう。
互いに読書好きだから本屋デートだけでも出かけるのだ。
湊音は助手席で図書館で借りてきた本を読んでいる。人気書籍らしく予約者も多くていつもよりも早いペースで読み進めている。
「地元の本屋がよかったけど」
「多分あそこにはないんだろうし、読みたい本」
「しょうがないよ。あそこは店員のチョイスだから」
「まぁそうだけど……私だったらもっと別に置きたい本あるけどー」
「さすが李仁、元書店員だね」
「書店員からの書店営業部長よー」
「元ホストで夜のダンサー」
「異色の経歴ってやつよ」
と李仁の運転する車の中であーだこーだいつもの会話。
「そいやそこの本屋で自分の本棚作りませんかって募集あったよ」
「あら、そんな企画いいわね。応募しようかな」
「あ、もう募集終わってた……」
「なによーそれーっ」
李仁は自分の置きたい本を置けるチャンスを失ってがっかりな模様。
「散々本をレイアウトしてきたんだからいいでしょ」
「まぁね。未練は無いけども」
ふと思うと2人の家の中に本棚はいくつかある。しかし李仁と湊音それぞれ読む本の種類は違うし同じ本は無い。
元高校の国語科教師ともあって文学が多い。李仁は元本屋ともあってさまざまな分野だがサブカルなものの比重が大きい。
たまに李仁が興味津々で湊音の本棚から本を読むことはあるが結婚してから湊音は李仁の置いた本は読まない。何故か。
李仁は本の趣味も互いの価値観の一つになるというのを聞いたことがあった。
種類もだが相手の本を読むのか読まないのか、本の収納方法とか本の読み方とか積読や、多くの本を並行に読み進めていくなど……。
確かになぁと思いながらふと李仁は大型モールに向かう道から逸れた。
「モールあっちだよ」
「ん? ミナくんが地元の本屋がいいっていうから」
この日の夜は湊音からすごく甘えてきたのは……いうまでも無い。
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