料理

李仁の料理は本当に美味しい。それは目の前にある綺麗に並べられたおせちが物語る、と湊音は年始に改めて思う。


「美味しい?」

「わ。このチャシューうまい」

「自分が作ったからでしょ」

「でした、そうでした」

数年前から湊音も一緒に作るようになった。最初は得意なお菓子料理の延長線上で栗きんとんから始め、伊達巻き、詰め方も李仁に教えてもらった。

今回はチャーシューも作ってみた。気づけば半々でおせちを使っていた。


別に李仁は作るのが苦でもないし、湊音も毎回李仁の作るおせちが好きだったが流れ的に自分も作るようになったようである。


「でもまだ李仁みたいに見た目も美味しく作ったり並べたりするのは難しいや」

「そのうち上手くなるし、そうならないこともある」

李仁は笑いながら言うと湊音は苦笑い。

「もう少し希望のあるような言い方をしてくれ」

「あとはミナくん次第よ」

そんなことを言われても、な案件である。


「にしても李仁はなんでこんなに上手だんだい、料理」

「んー、食事って大事ってわかったからかな」

「なるほどね」

これまた湊音が作った鶏ハムを箸で摘んで口に入れてもぐもぐする李仁。


「ダンサーやってたし筋肉つけないと、じゃあ何からどうすれば、から始まって。いくら夜の仕事だからと見えないかもだけど肌は綺麗に見せたいじゃない。じゃあどうすれば? って」

「さすが……僕は死ななければいいやってただ食べてたわ」

「やっぱり」

「なにが」

湊音は黒豆を食べる。


「会った頃はミナくん、顔色も良くなかったし肌艶なくて本当に同じ歳かしらって心配したわ」

「……社畜高校教師の時だな」

「離婚して食生活もさらに乱れてたみたいだし」

「……まぁな」

今思えばこんなにまともに食事をとっていなかったと湊音は振り返る。


「だから元気になってもらいたいなーってご飯もちょいちょい作ってたのよね」

「それはそれは、ありがとうございます」

湊音は頭を下げると李仁は笑った。


「あとはちゃんと健康的に食べていれば夜の性生活もパワーアップしてエッチも楽しめるかなぁって」

といきなりの下ネタに湊音はお茶を吹き出す。

「……ま、まぁ。李仁のおかげで昔よりかは……。昔は酒の力ないと無理だった」

「今じゃ健康だもんね」

李仁は布巾で湊音のこぼしたあたりを拭く。少し盛り上がっている。


「あら、もう反応してる……」

「当たり前だろ」

「やんっ! ミナくんっ……」

湊音は李仁を押し倒した。新年一発目はこんな展開であった。

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