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「心配したぞ、エリザルデ」


 入口から、暗い部屋の中に向かってのっぺりとした声が響く。現国王、ジェラルド3世のものだ。


「……」


 それに対して、部屋の中央でうずくまる王女は無言を返す。聞こえるのは暖炉だんろからまきぜる音だけ。

 部屋は広いはずなのに閉塞感が漂っていて、どこか牢屋ろうやのような雰囲気がある。


「……ともかく、無事に見つかってよかった。お前はワシの、この国の宝なのだからな」


 国王は左右に護衛をひとりずつはべらせている。宝石を裏社会で売るようになってから、命を狙われる危険性を考慮してひとりになることは極力避けていた。


「不用意に出歩くと危ないぞ。城の中は退屈かもしれんが、それがお前のためだ」

「……」

「それとも、何かほしいものがあるのか? あるなら言いなさい。用意させよう」

「……」


 いくつも言葉を投げかける。だが王女は何も発しない。


「まあよい。お前も疲れただろう、ゆっくり休みなさい」


 そう言い残して、部屋の扉を閉じる。廊下には自身と、ふたりの護衛。


「……まったく、余計な手間をかけさせよって」


 途端に国王は苦虫を噛み潰したような表情になった。


「アイツがいなくなったせいで、うまくいくはずだった商談が止まってしまったではないか」


 先方はアイツの宝石をえらく気に入ってくれたというのに。5日も行方ゆくえ知れずだったせいで宝石のストックも少なくなってきている。


「このまま商談が取りやめになってしまったらどう責任をとるつもりなのか」

「王様、それは問題ないかと存じます」


 と、右側の護衛が進言する。


「エリザルデ王女がこちらを」


 小さな袋を国王に手渡す。じゃらり、と音が鳴り彼は中身を察する。

 思った通り袋の中には、大量のダイヤモンド。だが予想外だったのはその数。数えていないからわからないが、4~50粒近く入っていることは間違いない。


「……ふむ」


 即座に頭の中で計算を始める。これだけあれば商談はなんとかなりそうだ。

 やれやれ。本当に余計な手間をかけさせる。まあ城の外へ逃げ出しても1日10粒という言いつけをちゃんと守っているのは感心だが。あるいは連れ戻された悲しみから、たった数時間でこれだけの涙を流したのか。考えるが国王にとってはどちらでもよかった。


「む?」


 すると、袋の中にある宝石の1つが国王の目に留まった。それを見て、彼はまた別のことに考えを巡らせる。


「王様?」

「ああいや。それよりなんだ?」

「明日からですが、これまでと同様、私がエリザルデ王女から宝石を受け取ってきて王様にお渡しするのでよろしいでしょうか?」


 左側の護衛が言う。それが彼の役割にひとつでもあった。

 だが、


「いや、よい」


 国王は首を振る。そしてたっぷり生えた自分の口髭くちひげを撫でると、護衛たちに告げる。


「明日からはワシが行こう」

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