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「見てください! このお花、とてもきれいじゃありませんか?」


 王都の中央通り。エリーは花屋の店先を指して笑顔を見せてきた。


「わかったから。もう少し落ち着け」


 対照的にディアは全くといっていいほど興味を示さない。咲きほこるオレンジ色のパンジーを素通りすると「あ、ちょっと」とエリーが後を追う。


「今日は中央通りを往復するんだから、のんびりしてると日が暮れちまうぞ」

「は、はい。でもその……ディアさん」

「なんだ」

「本当にいいんでしょうか? こんなことをしていて」


 ふたりが今やっているのは、王都のメインストリートをウロウロ、もといウィンドウショッピング。

 一昨日は西通り、昨日は東通り。そして今日は中央通りだった。エリーの依頼をディアが受けると宣言してから毎日。


「いいんだよ。今は種をまいているんだ」

「種、ですか?」

「ああ」


 エリーはよくわからないといった風に首をかしげる。それでいい、その方がより種は芽吹きやすい・・・・・・


「不安か?」

「いえ、そんなことはありません」


 首を振る。今度ははっきりと。


「ディアさんはプロですもの。それに、私はディアさんを信頼していますから」

「はっ、そう言われるとプレッシャーだな」

「でも……ありがとうございます」


 エリーは雑貨屋の前に立ち止まり、陳列された商品をながめながら言った。


「どうした急に」

「だって、ディアさんがこうしてくれなかったら私、お城の外がどんな場所なのかわかりませんでしたから」


 たくさんのお店が並んでいて、いろんな人が笑って、時に頑張って生活していることに、と。装飾が施された小物に慈しむような視線を送りながら。そんな横顔に見惚みとれてしまいそうになるディアだったが、


「言っておくが、今さら後悔したって遅いからな? オレはちゃんと、お前を殺すぞ?」

「わかってます。死ぬ前に、私が何のために死ぬかを知っておきたいだけです」

「……強いな」


 正直なところ、アンタには死んでほしくない。そんな言葉が思わず出そうになって、ディアは慌てる。


 ――だが、その言葉が彼女届くことはなかった。


「――――っ!?」


 それは、一瞬の出来事だった。

 大柄の男数人が、王女を取り囲んだ。かと思えば素早い動きでその口を塞ぎ、身体を拘束する。


「見つけたぞ!」

「間違いない、この女だ!」

「来いっ!」


 王女が声を上げる暇もなく。殺し屋が涙を流す余裕もなく。


「っっ……っ!!」


 そして気づけばそこには風とちりしかなくて。


 王女は、殺し屋の前から姿を消した。

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