第9話 南野さん(警備員)再び

 見事、雫の賭けた馬が一着でゴールしました。

 2着、3着は、人気のあまりなかった馬も来ました。

 そう、荒れるエリザベス女王杯。

 雫たちは、エリザベス女王杯で万馬券を当てたのでした。


 雫たちは勝ったのです。


「すごい! 本当に当たった!」

「こんなことってあるんだ!  夢じゃない! 夢じゃないんだ!」

「やったーー!」


 当たったお金を換金して、雫たちはオッズのいる競馬場へと戻った。


 戻ってくると、競馬場ある大きなスクリーン画面には、オッズでは無く404エラーが表示されていました。

 そう、計算しつくされて導いてくれていたオッズは偉大な魔法使いでは無く、ただの予想Webサイトでした。

 スクリーンの後ろから、Webサイト管理人のオジさんが出てきました。


「申し訳ない。オッズの魔法使いなんて存在しないんだ。データを収集して競馬の予想をしていただけだったんだ。大画面をジャックして、みんなを負け馬の方へと誘導して自分の賭ける馬のオッズを調整していたんだ」



 そう、自分の好きなように馬の人気順を勝手に操作して、オッズを変えて自らが予想した馬のオッズを上げる。

 オッズは魔法使いではなかったのでした。


 オッズは雫たちの願いをかなえられないので、どうにかオッズを調整して万馬券を当ててもらおうとしているだけでした。


 そんな、じゃあ僕たちの願い事はどうなるんだ。

 雷音らいおんさんは言いました。


 その時、美しく輝く南野さん(警備員)が再び現れました。

 どこがとは言わない、美しく輝く南野さんが現れました。


「よく考えてみてください。あなたたちは力を合わせてエリザベス女王杯を獲りました。もう知恵も、折れない心も、勇気もみんなが持っています」


 そう言われて、雫たちはハッとしました。

 たしかに、知恵や心や勇気は誰かからもらうものでは無いのかもしれません。


「そうか! ありがとうございます」

「これで競馬にも打ち込めます!」

「いろんなかけ方ができる!」


「良い流れが来てそうだし、私も馬券買おうっと」

 雫は早速スマホで馬券を買おうとしましたが、長旅でスマホの充電が切れてしまっていました。


「どうしよう。これじゃ馬券が買えない……」


 南野さんは優しく諭すように話してくれました。


「競馬は、競馬場で馬を見ながら賭けるのが一番です。さあ、泥沼雫。その馬券購入用紙に、3着までの馬を着順に記入すると馬券が購入できます。知恵を授けてくれるのは、経験。そしてその経験は、長く競馬に付き合っていけばいくほど手に入る。間近で馬を見て、勝負師の感を鍛えるのです」


 南野さんはそう言って、オジさん達にも鉛筆を差し出しました。


 泥沼雫たちはそれを受け取ると、馬券購入用紙に書き始めます。

「そうですね。ありがとうございます。倍率の向こう側へ! オーバーザレート!」


 この言葉には誰も反応してくれなかったので、雫はあらためてみんなに呼びかけました。


「みんな書くよー! それ! いち、に、さーん!」


 万馬券の夢の彼方へ、競馬ほど夢のある賭け事は無い。

 この言葉は、競馬場へと戻るために必要な言葉です。


 他人の予想に影響されない。

 自分なりの賭け方が一番素敵な賭け方。


 こうして、雫たちの冒険は幕を閉じました。


 ――面白いと思いましたら星を下さいませ。

 それ、いち、に、さーん。


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