第5話 女神、村を救う

 通りすがりの旅人さんが言っていたとおり、村にたどり着いたわたしを待っていた光景は何とも荒れ果てた状態となっていた。


 元々の光景を知らないとはいえ、入口から建ち並ぶ小屋は無残にも壊されているし、地面は至る所に抉られた跡が残っている。


「どうしてこんなひどいことを……」


 何も知らずに助けてしまったわたしにも責任があるのは間違いないし、何とかしないと。


「あ、あの、どうかこの村をどうかお救いください……」

「どなたかは存じませんけれど、何かして頂けるつもりなのでしょうか? そうだとしたら、どうかどうか」


 小屋の片隅に隠れていたのか、村の女性や男性数人が顔を見せた。一様に必死に助けを求めているその姿を見るだけでも、何とかしたい気持ちになってくる。


「お任せ下さい! 女神であるわたしが必ず何とかしちゃいますので! 全てを終えるまで安全な所で休んでてくださいね」


 期待していた英雄さんじゃないかもだけど、女神として救ってあげないと。そうじゃないとこの世界に転移してきた意味がないし。


「……女神さま?」

「よくは分かりませんけれど、あの者さえ何とかしていただければこの村はきっと救われると思います……よろしくお願いします」

「大丈夫ですよ~! あっさりと解決しちゃいますから」


 怯えて震える村人たちの期待を背に、悪意に満ちた男の気配に近づく。村の建物のあちこちが破壊されまくっているのを見ると、リーダーの男が単なる賊ではないことが分かる。


 さらに近づくと、わたしが来たことが分かったのか男が目の前に現れた。


「ちっ、あいつらしくじりやがったな。まぁいい……」

「崖を登れなかったなんて嘘でしたね? あの崖は人為的な力が働いていました。おそらくあなたたちを懲らしめるための力だったはずです。そしてその悪意……あなたは何がしたいんですか? 罪なき村を荒らして何がしたいんですか?」


 助けてしまった人間がまさかの悪人だったのは失敗。それでも今度こそ、目の前の悪人を懲らしめてこの村を救ってあげないと。


「登れなかったのは本当だ。あの崖もどこぞの魔法使いが出現させたくだらねえもんに過ぎねえ。で、だ。せっかく助けてもらった礼に、あんただけは見逃してやろうと思ってんだが、どうするよ?」


 何て勝手な言い分なんだろう。それと魔法を使用しての懲らしめをされたということは、この男は相当な悪に違いない。


 町から手練れの冒険者たちが来る前に、わたしが救ってみせる。


「それはわたしのセリフですっ! 見逃すことなんてしませんよ! あなたがどんな悪かは分かりませんけど、どんな力を持っていたとしてもわたしには通用しません!」

「そうかよ……それならあばよ!!」


 男が思いきり地面を蹴りつける。すると、激しい土塵がまき上がり半空を掻き濁らせた。


「へへっ、何も見えねえだろうが、容赦しねえぞ? 土にまみれながら吹っ飛びやがれ!! 化け物め!」


 何らかの魔法でも来るかと思っていたら、濁った視界に紛れて伸びてきたのは破壊力に自信のある男の鋭い蹴りだった。  


 村の地面のあちこちが抉れていたのは、おそらくこの蹴りが原因かも。そういうことならわたしも遠慮なくお見舞いしてあげよう。


 といっても、女神が蹴りで直接命中させるわけにもいかないので、ここは元に戻せることを前提にした攻撃にしないと。


「それじゃあ、こっちからもいきますよ~! えいっ!!」

「へっ、俺の真似ごとかよ! いくら化け物じみても所詮は女の蹴り……んなっ!?」

「これなら避けようがないですよ~! 穴底で大いに反省してください~」

「なっんだこりゃあああ!!! でっかい大穴を開けやがって、こんなの絶対避けれるわけねええええええ!! くそおおおおおお」


 ――という間に、悪意に満ちた彼を大穴に落とすことに成功。穴であればまた元に戻すことが出来るので、村の人にもさほど影響がないはず。


「すまないが、そこの方!」

「はい?」

「――って、む、村の大部分が陥没しているではないか!? これは一体何事が起きているのだ?」


 なるほど、おそらくこの人が町から来た上位の冒険者さん。でもまさか大穴が村の半分にまで影響していたなんて……。


 反応を見る限りは村の人に影響はないみたいだけど。


「ええとですね、村を襲っていた悪意の人間でしたらわたしが懲らしめてあげました。目の前に広がる大穴の底で今頃は反省をしているはずですよ」

「何と!? では、この穴はあなたが開けた……そういうことなのですか?」

「そうなんですよ。でもあの、悪人はのぞいて穴自体はすぐに元通りにすることが出来ますので、安心してくださいね~」

「むむむ……こんなことが出来るのは、伝え聞いた英雄とやらに限られるのだが……いや、しかし――」


 冒険者の人はわたしと地面の大穴を交互に見ながら、何か悩み始めた。

 しばらく考え込んで答えが出たようで、


「申し訳ありません。すぐにでも気付くべきでしたが、あなたは世界を救う英雄ではありませんか?」

「ほえっ!? わたしがですか?」

「はい、そうとしか考えられません。我は上位の冒険者として名がありますが、せいぜい戒めの岩を出現させることしか出来ません。ですが、この穴の開き方は普通ではあり得ぬのです」


 もしかしなくても、わたし何だかやりすぎちゃった?


「考えた結果、あなたこそがこの世界に舞い降りた英雄に違いないのです! どうか名をお聞かせ願います。そして英雄の力をもって、この世界に大いなる救いを!」


 英雄、英雄かあ……。

 代行して力を注いだ別の世界は混迷を極めてしまったのに、まさかわたしが英雄になるなんて。


 そう言われてもこんな少しの力では善を積んだうちに入らないし、英雄として認められるにしてもこんなことだけでは全然駄目だと思うし。


「わたしは、あのぅ女神ルキア……と言いまして、まだ英雄と呼ばれるようなことは何もしてなくてですね……」

「女神ルキアさま!」


 女神が通じたのかは分からないけど、目の前の彼は膝をついてわたしを崇め始めた。


「頭をあげてください~! 本当に大したことしてないんですから~」

「そんなことはありません! 現にこの村を救い、悪なる者をことごとく懲らしめたではありませんか! これを英雄と呼ばずして何と呼ぶと言うのですか!」

「え、えーと、それでもですね、わたしはまだ何も積んでいないので……この先どこかを渡り歩き続けて、いつかきちんと認められるように英雄を極めちゃいたいと思うので、その時まで預けてもらっていいですか?」

「お待ちしております!」

「は、はい、英雄、極めちゃいますのでお待ちください~」


 英雄を極めたら、女神界に戻れる――のかな。

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やり直し女神さまの異世界さんぽ旅~英雄、極めちゃいます~ 遥 かずら @hkz7

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