第4話 女神、村を目指す

 村へ向かってしまったリーダーの男は後にするとして、まずは襲い掛かって来る彼らを何とかしないと。


「うらぁっ!!」

「ナイフを喰らうっす!」


 リーダーの男をアニキと呼んでいた彼らは、わたしを左右から挟むようにして武器を振り上げる。


「せっかく善意の力が発揮されたのに、こんなことをしては駄目ですよ?」 


 そびえ立っていた崖は彼らが気付いて無いだけで、実は足下に存在している。しかも人助けのつもりで沈めたに過ぎないので、この力は間もなく……。


「けっ、何が善意だ! 崖が自然に引っ込んだだけだろうが!」

「そうっすよ! 悪いんすけど、アニキが先に行っちゃったんで覚悟するっす!」


 彼らが振り上げている武器が間近にまで近付きそうな中、そろそろ事象が戻る気配を感じ始めた。


「……仕方ないです。良かれと思ってして差し上げたのですけど、悪意が漏れているようですので受け入れて下さ~い」

「何を言ってやがる!」

「あ、ああああ……アニ、アニキイイイ! あ、足が揺れてるっす!」

「何を言って……うおおお!? こ、これは……」


 彼らが驚いて取り乱す中、地中に沈んでいた崖の頂上部分がせり出してくる。

 そして、ものの数分も経たないうちに再び崖がそびえ立った。


「ひっひいいいいい!! た、高い所は駄目すぎるぜ」

「な、何が起きたんすか!? こ、ここは登れる気がしなかった崖のてっぺんっすか!?」

「心を入れ替えるまでここで反省してくださいね! そうしないと、地上に降りることが叶わなくなっちゃいますよ? それではわたしはリーダーさんを追いかけます!」


 崖の頂上から飛び降りてすぐに、彼を追うために地上へ降り立つことに。泣き叫んでいた手下の彼らには反省の意味も込めて、しばらく頂上にいてもらわないと。

 

 崖を背に道を歩き進むと、土がむき出しだった道から石畳に整えられた道に変わってきた。


 悪意に満ちたリーダーの男の気配は道の先の方にあって、分かれ道があってもまるでわたしを導くかのように黒い気配が続いている。


 空から飛んでいけば早く着くけど、村の人たちを驚かせるわけにもいかないし畏れられるかもしれない。そうなると慎重に歩いて向かうしかなさそう。


 山あいのけもの道と違って魔獣が出て来る危険性も無いようだし、しばらく歩けば必ず村にたどり着くはず。


 そう思いながら歩いていると、


「あんた、どこへ行くんだい?」


 前方から歩いて来た旅人らしき老齢の女性が声をかけてきた。


「こんにちは~! この先にある村へ向かってるんですよ」

「それはやめた方がいい! アタシは村に泊まっていたんだがね、乱暴を働く奴が来て村の様子が変わってしまったんだよ。町から高位の冒険者たちが向かってるようだけど果たして間に合うかどうか。悪いことは言わない、村に近づくのはやめな」


 そうなると多分わたしのほうが早く着くのかな。


「ご忠告ありがとうございます! でも、それならなおさらわたしが何とかしないと駄目だと思うんです。わたしにも責任がありまして……」

「……? よく分からないが、止めたからね。どう見てもあんたは強そうに見えないが、とにかく危ないと思ったら隠れてやり過ごすことだね」

「はい~! 頑張ります!」

「はぁ……。この世界に救世主、いや英雄でもいればね……じゃあアタシは行くよ」

「お気をつけて~!」


 わたしが転移して来たこの異世界には、強い力を持つ英雄はいないみたい。女神として何が出来るのか分からないけど、まずはあの男を懲らしめてやらないと。

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