第3話 女神、見せつける

 強面の男たちはわたしのやる気に負けたのか、渋々目的の場所へ案内してくれた。


「ほえー……立派にそびえ立ってますねー」


 彼らに案内されて来たところは、道の真ん中に突如として出来たようなそびえ立つ崖だった。遥か上空まで続いていそうなくらいの高さで、行く手を見事に阻んでいる。


 彼らの説明によると何度か登ってみたものの、頂上まで行けずに諦めかけているのだとか。


「そうだろそうだろ? 見上げりゃあ分かるが、とてもじゃねえがてっぺんはもちろん、崖の向こう側にすら行けやしねえ! いいところまでは行ったんだがな……」

「無理っすよね、本当に」

「嬢ちゃんみたいな素人に説明したって無理に決まってんだぜ、アニキ」


 強面で強そうなのに頂上にも届かずに諦めかけている――と。


 それならさっそく役に立つことを見せつけてあげないと。そうすれば人助けで善を稼げそう。


「えーと、要するにそびえ立っている崖を越えて向こう側に行きたいってことですよね?」

「可能ならな」

「分かりましたっ! ちょっと見て来ますね!」

「あん? 見て来るってどう――!?」


 こんな時こそわたしの出番と言わんばかりに、崖の頂上まで一気に飛び上がり彼らが行きたがっている向こう側にたどり着いた。


 なるほど。


 なぜ道の途中に崖が出来たのか分からないものの、こちら側にはいくつかの村や町といった光景が広がっているみたいだった。


 ここが異世界だからかもしれないけど、わたしが知らないだけで地震か何かで地形変動があって崖が出来ているかも。


「――というわけでして、向こう側には村や町がありましたよ!」

「……て、てててて」

「はい? 手を貸して欲しいってことですか~?」

「て、てめぇぇぇ!! なにもんだ!? 何でそんな簡単に空を飛びやがるうえに向こう側にまで行きやがるんだ……」


 リーダーさんに手を差し出すと、手を差し出されるよりも先に警戒されてしまった。もしかして飛ぶのが怖かったりするのかも。

 

「わたし、空を飛ぶのが得意でして!」

「あり得ねえだろうが!! 空なんて飛べる人間なぞいねえんだぞ? だから散々苦労してるって話をしただろうが!」

「あり得ねえっす!」

「しかしこいつがいないと向こう側に行けそうに無いぜ……どうするよ? アニキ」


 見た感じ確かに身軽そうに見えないし、飛べそうな要素は見当たらないような。そうなると、彼らを導くには連れて行くしかなさそう。


「驚かれている状態で恐縮なんですが~、わたしがみなさんを連れて行くのはどうですかっ?」


 ちょっと重そうだけど、一人ずつなら何とかなるかも。


「じょ、冗談じゃねえ! てめえは飛ぶのが得意だろうが、俺らは高いところは得意じゃねえんだよ! 他のやり方で崖を何とかしろ!!」

「ええ? だけど飛ぶのが早いし確実ですよ? 他にと言われてもですね……うーんうーん……」


 力をそこなった状態でどこまで出来るのか分からないけど、人助けをするということなら潜在的な力を出せそうな気もするしやってみようかな。


「やっぱり見習いには無理っすよ、アニキ」

「仕方ないぜアニキ」

「くっ……狩りに戻ろうとしただけなのに、奴ら魔法を使用しやがって! 人里から追放することねえだろうが!」


 何か文句を言っているようだけど、これも人助けになるなら少しくらい力を使っても叱られないはず。


「お待たせしました! みなさんを崖の向こう側に通して差し上げます! 恐れ入るんですが~少しだけこの場から離れてもらってもいいでしょうか?」

「あぁ? 今度は何をするつもりだ? 言っとくが空は――」


 ――などなどリーダーさんが文句を言い続けそう。その前に崖の遥か上空まで飛び上がり……。


 崖の頂上めがけて重力をかけて一気に着地してみた。


 すると、ズウウゥンッ。という鈍い音を響かせて、そびえ立つ崖がみるみるうちに地上部分まで沈んでいくのが見て取れる。


「ア、アニキ……なんすかなんすか、これは!!」

「へ、へへへへ……よく分からねえが、魔法使いどもの青ざめた表情が拝めそうだな。あの自称見習いが何なのかなんてどうでもいい」

「そうだぜ。要は村に行ければいいってわけだ。あの女が何であろうとな!」


 いい感じに崖を地中深くにまで沈めることが出来た。これなら彼らも村や町に行けるはず。


 願えば女神の力が潜在的に発揮するみたいで、そびえ立っていた崖は轟音を響かせながら地中に引っ込んでくれた。


「崖を沈めることに成功しましたよ! これで村に行くことが出来ますよ。さぁ、どうぞどうぞ~。えっ?」  


 驚愕して腰を抜かしているかと思えば、彼らは引きつった笑いを見せながらわたしに向けて武器を見せつけている。


「あれ、その武器は何ですか? どうして構えているんでしょう?」

「さぁな。まぁ、てめえが化け物でも何でも構わねえ。おかげで村に再襲撃出来るってわけだ! 礼を言うぜ」

「えええっ!? もしかして悪者さんたちなんですか?」

「それを知ったところでもう遅い!! お前ら、やれっ!」


 リーダーの男が合図すると同時に、残りの二人が武器を構えて襲い掛かってくる。その隙に、リーダーの男だけが村がある方角へ向かって走り出した。


 もしかしなくても村の人たちが危険な目に?

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