第2話 女神、やり直す
「――到着~っと!」
ここがどの辺りなのかは分からないけど、まずは近くを歩いていけばすぐに原因がつかめるはず。
そう思っていたところで、
「ちょっとルキア!! 何で人の話を聞かずに転移するの! よりにもよって異世界転移だなんて。はぁー……」
勢い任せに転移してきてすぐのこと、女神シャクティからすぐに念話が飛んできた。それも随分と深刻そうな声色で。
「ごめんねー。えっと、思わず転移してきたんだけど、わたしが着いた世界で合ってるかなあ?」
「その世界は混迷していないから全く違うわね」
それならすぐに女神界に戻らないと。
「そっか~じゃあ今すぐ戻るね!」
「残念だけどルキア。女神が異世界へ転移すると、使えるスキルが限られるうえにその世界からしばらく動けなくなるわ」
「えっ? そうだったっけ?」
ずっと女神界で役目を務めてきたせいか、いわゆる制約的なことに疎かったりする。
「それはそうでしょう! だってあなたが与える光の力は、地上世界では強大なものなのよ? そんな世界に強力な女神がいたら、それこそ混迷を招くわ!」
「ええ!? じゃあわたし、女神の力も使えないの?」
もしかしなくても早まってしまった?
「全く使えないわけじゃないけれど、その世界に馴染むまでは女神が持つ特性しか使えないはずだわ」
異世界に転移してきたと思ったら、全く別の世界でそのうえ女神としての力も
「そんなの聞いてないよ~」
「だってあなた、すぐに転移したじゃない。それに混迷世界のことだって、本来は上位神に伝えれば済む話だったのよ? それをあなたったら!」
「えっと、つまり~……」
「あなたが女神本来の力を取り戻すには、見習い女神だった頃のようにその世界でやり直す必要があるわね」
見習い女神の時に繰り返ししてきたのは、とても長く厳しいものだった。
それは、
「善を積んで悪しきものを正しき道へ導く……だったよね?」
「そう、それ。そういうわけだから、その世界で辛抱すれば転移する力は戻るかもしれないわよ? とにかく頑張りなさいね。またね、ルキア!」
そう言った直後、シャクティとの念話は閉ざされた。
まさか転移してきたら女神としての力が損なわれるなんて、思いきり早まった気がする。でもこの世界が混迷世界じゃないなら、やり直すのにいいかもしれない。
あてもないけど歩きながら女神らしいことを続けていけば、きっとすぐにでも元の場所に戻れるはずだから。
まずは目の前に見えている道を歩いて、困っている人を探そう。
わたしにとってもそれが始まり。
――というのも、つかの間。
転移した場所がちょうど山あいだったせいもあって、どこを見回しても深く生い茂った木々しか見えない。
見上げればもうすぐ暗くなる空色で、辺りは薄暗く今にも何かが出そうな予感さえする。
すると狙いすましたかのように、
「ギギッ、獲物……喰う」
揺れる木々から現れたのは鋭い爪をした四肢なる魔獣。それもわたしをめがけて勢いよく襲い掛かって来た。
「ひえっ!!」
どういう力が損なわれたのか不明ながら、"傷がつきませんように"と思いながら目を閉じてその場で飛び跳ねてみると――。
「――……あれっ? 飛んでる?」
何事も無く過ごせたかと思っていたら、魔獣を眼下にして空に浮いていた。どうやら目に見えない翼があって、空を飛ぶことだけは失わずに済んだみたいだった。
空中を飛ぶことに疲労も感じないようなので、そのまま山あいを抜けたところのけもの道に降りることに。
そこからまたしばらく歩いていると、何人かの人間たちが道の途中で立ち止まって神妙な顔つきで話し込んでいるのが見える。
これはもしかしなくても人助けする機会かも。
「あの~、道の真ん中でどうかしましたか?」
わたしが呼びかけると、
「あんっ? ぬおわ!? ど、どこから現れた?」
「お、女が一人だけで行動してるっす?」
「女戦士……にしては軽装すぎるぜ。何者なんだ……」
わたしからの呼びかけに、重厚そうな装備で身を固めた男たちは一様に驚いている。訝し気な視線で見つめながら、戸惑いを隠せていない感じで。
見たところ腕に覚えがありそうな人たちのようにも見えるけど。
「わたしはルキアと言いまして、えーと見習いなんです」
女神と言っても信じてくれないだろうし、怪しまれそうだから控えないと。
「見習いぃ? 冒険初心者ってやつか」
「はい。そんなところです! でも、困っているのが見えたのでどうしたのかなあと声をかけさせて頂いたんです!」
魔獣に襲われたと思ったらすぐに人間たちに会えるなんて。困っている人たちを救えば、案外早く力を取り戻せそう。
「ちっ、そうかよ。見習いか……じゃあどうにも出来ねえな」
「どうにもならないっすね」
「……俺らでどうにも出来ねえし、話にならないぜ」
簡単に話をしてくれないけど、困ってるのを何とかしたらきっと心を開いてくれるはず。
「諦めたら駄目です! 何が駄目なのか分からないですけど、まずは何が出来ないのかわたしに教えてくれませんか? 何とか出来るかもしれないですよ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます