第93話 侵入

 それからも両軍の全力の激戦が続いていた。

 連邦軍は多大な損害を出しながらも前進を続け、先日、ようやく帝都へとたどり着いていた。

 今は市街戦が行われている。

 市街戦は遮蔽物しゃへいぶつが多くなるため、防御側は身をひそめやすくなる。そのため、攻撃側は大軍が有利に働かなくなる。

 それでも、ここまで来たのであればあとはもう一息と、犠牲をいとわずに昼夜攻め続けていた。その結果、ようやく目標の通風つうふうこうのあるあたりまで連邦軍が抑えることに成功していた。

 俺たちはここで、新帝国の落日作戦の最終段階である、セシルを魔力タンクの制御室へと送り届ける任務を開始した。

 潜入任務であるため護衛は必要最小限ということで、俺とセシィだけが護衛についた。つまり、かつてのハーレム小隊の面々での潜入になる。

 そして切り込み隊は侵入ポイントまで進軍し、そこで素早すばやく展開して周囲を占領。工作完了まで死守する任務に就いた。

 いつも通り、ウォルターに大隊の指揮を引き継いだ俺とセシルとセシィは多脚戦車を降り、侵入部の通風つうふうこうの入り口を持ってきた工具でこじ開ける。

 なお、俺たちの侵入用の武装は、一般的な歩兵用のサブマシンガンだ。

 これは、レーザーが使用可能な状況と使用不可能な状況の両方に対応した優れもので、レーザー発射口の下になまりだまを発射するための銃口がついているハイブリッドタイプだ。

 セシルが提供してくれた見取り図をあらかじめ頭に叩き込んでいたため、俺たち三人は迷いもせずにつんいになってどんどんと進んでいく。

 ここからはスピード勝負だ。マクシモがこちらの意図いとに気づく前にすべてを終わらせなくてはならない。

 しかし、それさえできれば俺たちの勝利が確定する。

 失敗が許されない緊張感から、俺の額に一筋ひとすじの汗が伝い落ちた。

 しばらくそうやって進んでいると、やがて目標の部屋が見える位置までたどり着いた。多数のモニターとキーボードが設置されており、監視ルームのように見える部屋だ。

 ただ、この部屋には監視カメラが設置されているため、セシルがセキュリティシステムを一部ハッキングし、マクシモの目を誤魔化ごまかしているうちに作業を行う手筈てはずになっている。

 壁沿かべぞいのケーブルの被膜ひまくを破り、それに持ってきたケーブルを接続するセシル。それを手に取ると俺を手招てまねきし、小声でつぶやいた。

「ここからの作業は恥ずかしいので、ジェフは目をつむっていてくれませんか?」

「ん? ああ、分かった」

 何が恥ずかしいのだろうと思いながらも、俺は素直すなおに従った。

 これは後になってセシィから教えてもらったことなのだが、セシルはこの時、ケーブルを首の後ろに隠れていた接続口につないで作業していたそうだ。

 セシィによると、人とは違う姿を俺に見られることに対して羞恥しゅうちしんを覚えているのだろうということだった。

 言われてみれば、魔石を摂取せっしゅするところを見せてくれといった時も、俺にだけは見られたくないと言っていたことを思い出す。

 また、02ゼロツーに最初に相対した時も、服が破れていることに対してではなく、内部構造が露出していたことに対しての羞恥しゅうちしんだと考えれば、合点がてんがいく。

 やがてセシルに肩を叩かれた俺は目を開け、三人でうなずきあって、俺、セシル、セシィの順番で部屋に降り立つ。

 さあ、ここからがこの戦争の最大の山場だ。ここさえ乗り切ればこの戦争は終わる。

 俺たちは任務の重大性に武者震むしゃぶるいをしながらも、作業を開始した。

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